第50話 ただいま
大変お待たせしました。
[莉緒視点]
二泊三日の林間学校はあっという間に過ぎ、今は帰りのバスの中に居ます。
行きは賑やかだった車内も今は疲れが溜まっているのかほとんどの人が眠っています。
私はというと・・・疲れよりも弘人さんに会えるという楽しみが勝っていて眠気が来ていません。
ああ、早く弘人さんに会いたいです。
きちんと眠れていたのでしょうか、栄養を取れた食事をされていたのでしょうか、と気になる事はたくさんありますが、まずは弘人の顔が見たいです。
「ふふっ」
それに今日の夕飯は何にしましょうか。林間学校の前日と同じように少し豪華にしてみましょう。
そして夕飯の後は弘人さんの隣に座ってゆったりとした時間の過ごすのです。
どうしましょう、この後の事を考えれば考える程楽しみが増していきます。
弘人さんと同居する前には味わう事の無かった楽しさです。
ふと隣を見ると恵ちゃんが静かな寝息を立てながら眠っています。今の様子だと少し揺らしたくらいでは起きない程熟睡しているでしょう。
だって初日も昨日も先生の見回りに注意しながら夜遅くまで星河さんと3人で話をしていましたから。
内容は大半が弘人さんとの事。特に星河さんは興味津々の様子で耳を傾けていました。
こういう話を気兼ねなく出来たおかげもあったのか、以降は上の空にならず林間学校を素直に楽しむ事が出来ました。
同級生で相談相手が出来たのはとても嬉しいです。だって大きく年が離れた男性に想いを寄せている事がバレてしまったら、変な目で見られると思って最近まで恵ちゃんにすら黙っていたのですから。
でも2人とも態度を変えず時には真剣に話を聴いてくれましたので私の余計な心配だったのでしょう。
「え〜、間もなく我が校に到着するので・・・」
その時先生からのアナウンスがありました。色々と考えているうちに学校の近くまで来ていたようです。
私はすかさずメッセージで弘人さんにもうすぐ到着する事を連絡します。
すぐに弘人さんから『了解』と返信がありました。
数分後にバスは学校に到着し、荷物を受け取って学年主任の先生から一言があった後に解散となりました。
「莉緒ってば全然話を聞いてなかったでしょ?どうせ早く会いたくてウズウズしてたんだろうけど」
「え、そ、それは・・・」
「はは、バレバレだって。それじゃ、また来週ね!」
「も、もう恵ちゃんったら!うん、また学校で。星河さんもありがとう」
「ううん、私も楽しかったから。また話を聞かせてね」
「はいっ!」
恵ちゃん達と挨拶を済ませて私は学校を後にしました。
いつもより早足になっている事を意識しながらも、私はいつもの場所へと向かいます。
「あっ!」
すると見覚えのある車を見つけてさらに早足になります。きっと私は満面の笑みを浮かべている事でしょう。
最初の言葉はもう決まっています。この2ヶ月で日常となった一言を。
[弘人視点]
「センパイ、今日も早いですね〜」
終業のチャイムが鳴って帰る準備をしていた時に横から仙堂が声を掛けてくる。
「ああ、今日やるべき仕事は終わったからな。仙堂はどうだ?」
「私はもう少ししてから帰ります。それにしても今日は何かあるんですか?」
仙堂の言葉に俺は首を傾げる。
「ん?何でそう思ったんだ?」
「だって今日のセンパイいつもより機嫌が良さそうですもん」
「・・・そうか?」
「この私が言うんだから間違いありません!」
なぜか胸を張ってドヤ顔をする仙堂。
「なんだそりゃ。それじゃ帰るからな」
「はいっ、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
仙堂と挨拶を済ませて更衣室で着替え、駐車場に向かい車に乗り込む。
会社を出るとこの2ヶ月で見慣れた道を走り、いつも公園付近で停車する。
その時ちょうどスマホに通知が来たので確認すると、莉緒ちゃんからでもうすぐ到着するという連絡だった。
しばらくすると大きな荷物を持った学生をチラホラと見掛けるようになると、その中に早足でこちらへ近付いて来る人影が1つ。
どこか微笑ましげな光景を見て頬をわずかに緩ませながら、俺は大きい荷物を持つために車を降りる。
すると早足の速度が上がり、満面の笑みを浮かべてこう言うのだった。
「ただいま帰りました!」
と。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これで3章は終わりになります。狙った訳ではありませんが、本編としてはちょうど50話とキリが良い数字ですね。
作者的にはここまでが第1部の導入編といった位置づけです。
次の4章からは莉緒以外のヒロインも焦点に当てつつ物語を進めていきたいと思います。
今まで空気(?)だったあのヒロインもどんどん登場させていきます!
今後も不定期の更新となってしまいますが、引き続き本作を楽しんでいただけると幸いです。




