第39話 準備と掃除
お待たせしました。
「弘人さん」
夕飯を食べてリビングでテレビを観ていると莉緒ちゃんが声を掛けてきた。
「ん?どうしたの?」
「これなんですけど・・・」
莉緒ちゃんがプリントを俺に渡してきたので中身を見てみる。
「へえ、林間学校か」
プリントの内容は林間学校の案内であった。日程は約2週間後で二泊三日、場所は車で2時間程行った県外のようである。
そういえば俺の高校時代も1年生の最初の頃に林間学校があったなぁ。きっと新入生なので生徒同士の交流を深めるというのが目的なのだろう。
「はい。ですのでこの期間は不在になります」
どこか暗い表情を浮かべる莉緒ちゃん。一体どうしたんだろう?
「林間学校が楽しみじゃないの?」
「いえ、そうではないのですが・・・弘人さんと離れるのが寂しくて」
「えっ?」
隣に居るにもかかわらず、莉緒ちゃんが後半に何を言ったのかが聞こえなかった。最近こんな事が多いし聴覚が衰えてきたのだろうか?最近会社であった健康診断での聴覚検査は特に問題なかったはずだけど・・・。
莉緒ちゃんに訊き返して見ても、「い、いえ、何でもありません!」とどこか恥ずかしげに視線を逸らされる。まあ重要な事では無さそうなのでこれ以上は追及はしなかった。
初日は朝8時集合で最終日は夕方に帰ってくる予定で、場所はいずれも莉緒ちゃんが通う高校となっている。
よし、この時間帯であれば送迎出来そうだ。
「いつも通り送迎するよ」
「ありがとうございます!」
莉緒ちゃんの笑顔を見るだけで心が穏やかになってくる。送迎しがいもあるというものだ。
「そうなると色々と準備が必要そうだね」
「はい、ですのでお買い物に付き合ってもらえると嬉しいのですけど・・・」
恐る恐るといった様子で莉緒ちゃんが呟く。
「もちろん。今度の週末にでも行く?」
莉緒ちゃんがパアッと満面の笑みを浮かべて
「はいっ、お願いします!」
と答えるのだった。
「これで一通りは揃ったのかな?」
「そうですね、あとは家にあるものを持っていけば大丈夫です!」
週末、林間学校の準備のため近くの小さいのショッピングモールで俺と莉緒ちゃんは買い物に来ていた。
ちなみに準備資金は誠也の財布から出ている。一昨日に誠也からテレビ電話が掛かってきた時に林間学校の話をすると、
『莉緒のために金を送っとくからこれで準備に必要な物を揃えてくれ!』
と言っていたので次の日に確認すると、俺の口座にお金が振り込まれていた。しかもかなり多めにである。
誠也曰く余ったら莉緒ちゃんの生活費にあててくれという事であった。
そもそも誠也から莉緒ちゃんの生活費を貰っているから(これも多めである)、ここから準備資金を出しても全く問題無いくらいである。
まあ誠也が帰ってきたら余ったお金は全部返すつもりであるけど、『迷惑料』だとか理由を付けて受け取ってくれない気もする。
ちなみに余談で林間学校の話をしていると、誠也が莉緒ちゃんに『男子は危ないから絶対近付くな』としつこく言った挙げ句、親子喧嘩(?)に発展しそうになったのは莉緒ちゃんが中学時代の修学旅行前の流れと同じで苦笑せざるを得なかったが。
何はともあれ必要な物は買い揃えた後、俺と莉緒ちゃんは祭川家へとやって来ていた。
「準備をしますのでリビングで待っていてもらえませんか」
と莉緒ちゃんが言ったので、俺はリビングで少しくつろぐ事にした。この前来た時は車内で待機していたので、中に入るのはかなり久しぶりである。
「テレビでも観るか」
テレビの電源を入れてしばらく待っていると、大きなカバンを持った莉緒ちゃんがリビングに姿を表わす。
「お待たせしました」
「じゃあ帰ろうか」
返事がすぐ返ってくると思ったけど、莉緒ちゃんはなぜか周囲をキョロキョロと見回している。
「どうしたの?何かあった?」
俺が気になって訊くと莉緒ちゃんは
「・・・いえ、少し掃除をしようかと思いまして」
と曇り気味の表情で答える。
「あ〜、なるほど」
言われてみれば少し埃が溜まっているように見える。といってもよく見ないと気付かない程度ではあるけど。
「どうする?」
「・・・掃除をしますので少し待っていてもらえますか?
一度気になるとどうしても意識してしまって」
「了解。それなら俺も手伝うよ」
「いえ、弘人さんのお手を煩わせ・・・」
「気にしなくて良いよ。むしろ待つ方が気を遣うし、2人でやった方が早く終わるから」
莉緒ちゃんが断ろうとしたところを俺は遮って答える。実際に莉緒ちゃんが掃除をひたすらしている間何もせずに待っているのは少々気まずい。
「ではお願いできますか?」
「勿論!」
こうして2人で祭川家を手分けして掃除する事になった。誠也と2人きりで暮らすにしては広い家なので、それなりに手間が掛かるのだ。
風呂場やトイレといった水場は俺が率先して行い、莉緒ちゃんは自分の部屋やキッチンから掃除し始めた。
話を聞くとどうやら時々誠也と掃除をする日を決めて2人で定期的にしていたらしい。
いくら人が居ないからといっても2ヶ月近く家を空けているし、全く埃が溜まらないという事はないだろう。
換気のため換気扇を回したり窓を開けているのでエアコンは入れていない。6月も半ばを過ぎているので部屋の中は結構暑く、汗をかきながらの作業となった。
「ふう、こんなものかな?」
「はい、これでしばらくは大丈夫だと思います」
一通り掃除をし終えるとすでに2時間以上が経過していた。さすがに疲労が溜まっているし、何より汗で服が貼り付いて少し気持ち悪い。
「帰ってシャワーでも浴び・・・」
莉緒ちゃんへ視線を向けてすぐにそっと目を逸らす。今日の莉緒ちゃんは白のカットソーを着ており、俺と同じように掃除をしていて汗で服が貼り付いている。
・・・つまり薄っすらと水色の下着が透けて見えてしまっていたのだ。
「弘人さん、どうし・・・・・・〜〜〜〜〜〜っ!?」
不思議そうな表情を浮かべていた莉緒ちゃんが自分の服の状態を見て気付く。まるで瞬間湯沸かし器の如く顔が真っ赤に染まり、慌てて両腕で胸元を隠す。
「す、す、す、すみません!す、すぐに着替えてきますっ!」
脱兎の如く莉緒ちゃんは自分の部屋へと戻っていった。
いや、何で莉緒ちゃんの方が謝るんだ?と心の中で突っ込みを入れながらも莉緒ちゃんを待つ事にした。
数分後、服を着替えてきた莉緒ちゃんはまだ頰が赤く、家路の途中は少し気まずい雰囲気であった事を追記しておく。
しばらくはこのハプニングを引きずるかと思っていたけど、まさかこの後さらなるハプニングが待ち受けているなんてこの時の俺は知る由もなかったのだった。
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