第2話 祭川莉緒
今話までが以前に投稿した短編の内容になります。
俺が部屋の前まで近づいて行くと、少女がこちらの方を向いた。
「あっ、弘人さんお帰りなさい」
少女ーーー祭川莉緒ちゃんが嬉しそうな表情をして俺の方へと寄ってくる。
身長は160センチよりも少し高い程度、辺りが明るければ艶やかな黒髪がストレートで背中辺りまで伸びているのが見えるはずである。ぱっちりとした目に男であれば十人が十人振り向くような整った顔立ち、すらりとした体形ながらも制服の上からでも分かる程出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる正にモデル体型と言っても良いと思う。
この前誠也にさんざん莉緒ちゃん自慢をされた時に、入学当初からかなり騒がれているという話を聞いていた。
どうやらこの短期間で学園のアイドルという地位を築き(築かれたという方が正しい)、すでに何人かに告白されたらしい。
ちなみに学園のアイドルとやらのくだりは機嫌良さそうに話していたが、男子生徒に告白されたらしいという話は憎々しげに語っていたので余程気に入らなかったのだろうと思う。
「久しぶり、莉緒ちゃん」
「はい、二週間ぶりですね」
暗がりの中でも分かるくらい莉緒ちゃんはに明るい笑顔をしている。何か良いことでもあったのだろうか?
「もう外も暗いし、とりあえず中に入って」
俺は鍵を取り出すと、鍵穴に差し込んで玄関のドアを開ける。
「はい、ありがとうございます」
お礼を言った莉緒ちゃんの側には大きめのキャリーケースが置かれていた。大きさから見ても本当にしばらく泊まる事を想定しているように見えた。
「キャリーケースは俺が持っていくから」
と言って、俺は莉緒ちゃんが持ってきたキャリケースを運ぶ。莉緒ちゃんは申し訳なさそうな表情をしていたけど、女の子が持つには少々重量あありそうでよくここまで持ってこれたなと思う。
ちなみに俺の住んでいるアパートの間取りは2LDKで一人で住むには充分すぎる程の広さがあるので、誠也の言った通り莉緒ちゃんをしばらく泊める分には問題無いが、一部屋は趣味の物置部屋と化している。
(あの部屋を片付けて、使ってもらうか)
具体的な期間は分かっていないけど、それなりに長く居るのであれば個別に部屋が必要だろう。ただ、このアパートに引っ越してきてまだ半年と日は浅いにもかかわらず、荷物の整理が面倒で全てあの部屋に詰め込んでしまったので片付けるには相当な時間がかかると思っていた。
(片付けをするなら次の休日だな)
平日は仕事があるし、仕事の後にあの量を片付けるのは少々気力が湧かないのでそうするしか選択肢はない。
とりあえずキャリーケースをリビングまで運び、莉緒ちゃんにソファへ腰掛けるように促す。
俺も対面にある座椅子に座ろうとすると、
「弘人さん、隣空いてますからこちらに座りませんか?」
確かにソファは最大3人程度は座れるが、話をするなら面と向かった方が良いはずである。
「ん?正面の方が話をしやすくないか?」
俺がそう言っても、莉緒ちゃんは首を傾げている。
「そうですか?隣の方が近くて話しやすいと思いますよ。それとも私の隣に座るのが嫌ですか・・・?」
上目遣いに瞳を心なしかうるうるとされてしまっては断りようが無かった。
「いや、そんな事無いって。じゃあ隣に座るぞ」
「はいっ」
莉緒ちゃんの声音が少し弾んだ様に聞こえるのは気のせいだろうか。
俺が莉緒ちゃんの隣に少し間を空けて座ると、なぜか莉緒ちゃんはその隙間を詰めてきた。
「ち、ちょっと近くないか?」
莉緒ちゃんが近づいてきた事で甘い香りが漂ってくる。あいつもそうだが、なぜ女性というのは良い香りがするのだろうか。香水を使っている様子も無いはずなのだが。
「良いじゃないですか、その方が話しやすいですし。それに・・・」
「それに?」
莉緒ちゃんはハッとして頬を少し赤らめると、慌てた様子になり手を激しく振った。
「い、いえ、何でもありません!と、とにかくお話しましょう!」
「?ああ、そうだね」
何はともあれ莉緒ちゃんから事情を聴く事になった。誠也から突然北海道への長期出張が決まった事、
本当に辛いが莉緒ちゃんを連れていけない事、一人暮らしをさせるのはあまりにも心配だから俺の居るアパートに行って一緒に住まわせてもらえと言われ、さっさと出張の準備をして出かけて行った事等が話された。
つまり、得られた情報は俺が電話で聞いた内容とほとんど変わらなかった。
「まったく、あいつは時々強引すぎるんだ。しかもあれだけ過保護な割に自分の娘に対してロクな説明もしなかったのか」
誠也は昔からたまに無茶な頼みをしてくる事があり、しかもその時はだいたい断れない様なタイミングで言ってくるので余計にタチが悪かった。
今回は莉緒ちゃんに対しても詳しく説明していない様子だったので俺は再び怒りが湧き上がってくる。
「お父さんが無茶を言ってごめんさい。もし、弘人さんが無理であれば私は一人で暮らしますから」
とても申し訳なさそうな、少し悲しげな表情をして莉緒ちゃんは呟いた。
う~ん、そんな暗い表情をされると断る事など出来ようはずもないんだけど。
「いや、無理な訳無いよ。というかあいつから電話をもらった時から莉緒ちゃんを預かるつもりでいたし」
莉緒ちゃんは何も悪くないので、誠也への怒りを抑えながら務めて穏やかな口調にして俺は答えた。
「・・・ご迷惑ではないですか?」
恐る恐る莉緒ちゃんは聞いてくる。
「ああ、あいつが帰ってくるまでいくらでも居てくれて良いよ。というかむしろ俺みたいなおっさんと一緒に暮らすのは嫌じゃないか?」
「ぜ、全然嫌じゃありません!むしろ嬉しいですっ!」
顔をずいっと寄せてくる莉緒ちゃんだが、それよりも気になる言葉があった。
「ん?嬉しい?」
俺がぼそりと呟くと、莉緒ちゃんは先程よりも顔を赤らめながら顔を離した。
「え、えと、あのっ!ば、晩御飯は食べましたか?」
明らかに話題を逸らされた気もするけど、莉緒ちゃんが話した内容は俺も気になっていたので乗っかる事にする。
「いや、今日は莉緒ちゃんが待ってるって聞いたからまだ食べてないよ」
「そ、それなら何か作りましょうか?」
「あ~、食材は買いに行かないと何も無いよ」
「えっ、冷蔵庫に何も入っていないのですか?」
「うん、朝はパンだし、昼は会社の弁当、夜は外食するから食材は全く無い。冷蔵庫の中はほとんど飲み物だし、あとはせいぜいカップ麺があるくらいかな」
俺の回答を聞いて莉緒ちゃんは眉間に皺を寄せてむむむ、と唸った。
「そんな偏った食生活を送っていたら、身体を壊してしまいます!」
「う~ん、今まで体調が崩した事がほとんど無いから」
「いいえ、駄目ですっ!一緒に暮らす以上は私が料理を作って健康的な食生活を送ってもらいますからね!」
「わ、態々そこまでしてもらわなくても・・・」
「一緒に住まわせてもらうのですから、それくらいはやらせてください!」
俺はどうにか説得を試みるものの、莉緒ちゃんの意志は固く結局は押し切られてしまった。
最初は昼食に関して会社の弁当を食べると主張したけど、莉緒ちゃんは毎日お弁当を作って持って行ってるらしく「手間はそこまで変わらないから作ります」と言われたのだ。
ただ、食費については俺が全て出すという事で押し切らせてもらったが。
(やっぱり誠也の娘だな・・・)
特に強引に押し切る、というか頑固な性格は誠也に似ているなとつくづく思う。
ただし、今日のところは時間も遅くなるので外へ食べに行く事になるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
今回までが短編で投稿した内容で、次回からは新しい内容になります。
更新頻度は1章が終わるまで2〜3日に1話のペースで進めていきます。
その間にどうにか書き溜めが出来たら良いな・・・(汗)




