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番外編1 クリスマス記念SS

今日はクリスマス!という事で番外編としてSSを書きました。楽しんでいただけると幸いです。

「ふう、寒いな・・・」


 仕事が終わり、駐車場に向かいながら俺は1人呟く。

 今日は12月25日ーーークリスマスである。

 世の中では恋人と過ごしたり、家族や友達とクリスマスパーティーなどを開いたりと特別な時間を過ごすのだろう。


 ただ、独り身の俺にとっては特に意味は無い日である。言っておくけど友達がいない訳ではない。ただ今日は平日だし、仕事も忙しかったので予定を入れていなかっただけである。

 しかし良くも悪くも今日だけは仕事が早めに終わり、定時で退社する事が出来てしまった。


「さて、どうするか・・・」


 当然ながらこのあとの予定など特に無い。とはいえ、せっかくだしケーキでも買って食べようかと思い始めたところでスマホが振動している事に気付く。


「ん?誠也か」


 画面に出てきた名前を見ると、どうやら着信元は親友である誠也であった。何だろうと思いつつ通話ボタンをタップする。


「もしもし。どうしたんだ?」

『おう、弘人!今って電話大丈夫か?』

「ああ、ちょうど仕事が終わって帰ろうとしてるところだ」

『おっ、そりゃ都合が良かったぜ!』


 電話越しに聞こえる声がどこか安堵しているような気がするけど一体何だ?


『今から莉緒とクリスマスパーティーやるんだが、もし良かったら弘人も来ないか?』


 莉緒ちゃんは誠也の娘で、彼女が赤ん坊の頃から知っている。しかも誠也に頼まれて保育園に迎えに行ったり、一緒に遊んだりと俺にとっても娘のような存在である。

 今は確か中学2年生で、誠也の話だと学校ではかなり人気があるらしく、最近では男子生徒からの告白も増えてきたそうだ。


 ただ、誠也は莉緒ちゃんを非常に溺愛しており、『莉緒に悪い虫は付かせねえ!』と毎日のように莉緒ちゃんを送迎して男子生徒にも威嚇する始末である。

 だからこそ、クリスマスはてっきり莉緒ちゃんと2人で過ごすものだとばかり思っていたのだが。


「俺が行って良いのか?」

『もちろんだ、っていうかむしろ来てくれ!』


 どこか鬼気迫る様子に俺は首を傾げる。


「ん?どういうことだ?」

『実は莉緒とちょっとした口喧嘩しちまってな。そん時につい今日弘人が来るって行っちまったんだ。で、莉緒が大喜びで今から腕によりをかけて料理を作るとか言い始めちまってよ。もしお前が来ないってなったらヤバイんだ!』


 何だそりゃ、と脱力しそうになった。要するに莉緒ちゃんとの仲直りのきっかけに俺が利用されたという事なんだろう。まあ今に始まった事ではないので、そんなに驚きは無いが。


『なっ、頼むから来てくれよ!どうせ予定なんか無いんだろ?』


 あ、今の言い方はちょっとイラッときたぞ。


「それが人に物を頼む態度か?俺は別に断っても良いんだけど?」

『ち、ちょっと待ってくれ!もし弘人が来なかったら絶対莉緒に嫌われちまう!俺が悪かったら来てくれよ~』


 電話越しに誠也の情けない声音が聞こえてくる。あいつは莉緒ちゃんに嫌われる事を最も恐れているからな。この前も口喧嘩した時に口を利いてもらえなくなってショックで会社を休む程である。

 その時も俺が呼ばれて、なぜか莉緒ちゃんのご機嫌取りをする羽目になった事は記憶に新しい。


 何だか莉緒ちゃんとの仲直りの材料として都合良く利用されているのは少し気に入らないけど、特に予定も無いし莉緒ちゃんに会うのも久しぶりなので今回は誘いに乗ってやる事にする。


「分かった、行こう。けど、貸1つだからな」

「ああ、もちろんだ!」

「言っとくけど、この前の『貸し』だってまだ返してもらってないからな。高くつくぞ?」


 別にそんなに怒ってはいないし(呆れてはいる)、貸しも返してもらおうとは思ってないけど、釘だけは差しておかないとな。


「お、おう、お手柔らかに頼むぜ・・・」


 電話越しに誠也が凹んでいる想像が出来たので良しとしよう。

 俺は急いで車に乗って祭川家へと向かうのだった。




 祭川家の前に到着してインターホンを鳴らすと、家の中からドタバタとしたような音が聞こえて来た後に玄関の扉が開く。


「こ、こんばんわ、弘人さん!」


 莉緒ちゃんがエプロン姿で出迎えてくれるけど、少し息切れしている様子である。きっと、待たせてはいけないと急いで来てくれたのだろう。


「こんばんわ、莉緒ちゃん。そんなに急がなくても良かったのに」

「えっ!?あ、あの、えへへ・・・」


 恥ずかしそうに顔を俯けながら照れ笑いを浮かべる莉緒ちゃん。頬も少し赤いので相当恥ずかしかったみたいだ。


「さ、さあ、外は寒いですし中に入ってください。私は夕飯の準備を続けますので」


 それだけ言うと莉緒ちゃんはそそくさと台所へ行ってしまった。まあしばらくすれば元に戻ると思う。


「弘人、来てくれたか!」


 玄関に入ると、続いて誠也が顔を見せる。


「ああ、予定なんか無かったから来てやったぞ」


 さっき電話で言われた事を皮肉を込めて返してみると、誠也の顔が少し引き攣った。


「わ、悪かったって。な、勘弁してくれよ」

「はは、冗談だ。それとこれを買ってきたぞ」


 俺は手に持っていた袋を誠也に渡す。


「おお、シャンパンじゃねえか!さすが弘人、気が利くぜ!」

「シャンメリーだ。シャンパンだと莉緒ちゃんが飲めないだろ?」

「態々気を遣ってくれたのか。ありがてえ!さ、立ち話もなんだし上がってくれ」


 誠也に連れられてリビングへとやって来る。祭川家は誠也と莉緒ちゃんの2人暮らしだけど、2階建ての一軒屋である。

 数年前まではアパート暮らしだったのだけど、誠也が莉緒ちゃんを広々とした所に住まわせたいという願望で建てたのだ。

 俺は何度も訪れているので、部屋の間取りもよく知っている。しかも部屋が余っているので、俺が宿泊する専用の部屋まであるくらいだ。


「夕飯が出来るまで一勝負しようぜ!」


 誠也はリビングにゲーム機を持って来た。


「おいおい、莉緒ちゃんを手伝わなくて良いのか?」

「そう思ったんだが、莉緒に追い出されちまってよ。ま、付き合ってくれ」

「仕方無いな・・・」


 俺と誠也は対戦型格闘ゲームでしばらく遊んでいると、テーブルにどんどん料理が並んでいく。チラっと見ただけでもかなりのご馳走である。


「手伝うよ」


 俺が料理を運ぶのを手伝おうとすると、莉緒ちゃんが首を横に振る。


「いえ、弘人さんはお客さんですのでゆっくりしていてください。お父さん、ちょっと運ぶの手伝って!」

「お、おう、分かった・・・」


 莉緒ちゃんが少し怒っている様子を見て、誠也がビクッとなりながら莉緒ちゃんの顔色を伺っている。まったく、これではどちらが大人か分からないな。


 それにしても最近になって俺の呼び方が『弘人お兄ちゃん』から『弘人さん』に変わっていた。思春期に入って『お兄ちゃん』と呼ぶのが恥ずかしくなったのではないかと思っているのだけどどうなのだろうか?

 ただ、距離感は以前と変わっていない、というか以前よりも近くなっている気さえするので慕ってくれてはいるはずだ。


 そんな事を考えているとテーブルには全ての料理が運ばれていた。ローストチキンやクリームシチューを始めとして所狭しと並べられている。


「今日は弘人さんが来られると聞きましたので、頑張っちゃいました」


 莉緒ちゃんが嬉しそうに笑みを浮かべている様子を見て、本当に可愛くなったなぁと感慨深い気持ちになる。


「ありがとう、嬉しいよ」

「えへへ。さ、冷めないうちに食べましょう!」


 莉緒ちゃんに促されて椅子に腰掛けると、隣にはなぜか莉緒ちゃんが座った。


「あれ、誠也の隣じゃないの?」

「お父さんの隣はちょっと・・・」


 莉緒ちゃんが苦笑気味に答える。続いて誠也の顔を見ると何とも哀愁漂う表情をしていた。


「最近では隣に座ってくれなくなってよ・・・。ま、まあ、とにかく早く食べようぜ!」


 無理して笑う誠也が少し痛々しい気もしたけど、せっかくのクリスマスで暗い雰囲気にする訳にもいかないな。


「そうだな。ではいただきます」


 俺はまずクリームシチューをスプーンで掬って口に運ぶ。


「うん、美味しい!」


 具材はゴロッとしていて俺好みだし、味もすごくまろやかである。


「ふふ、良かったです」


 莉緒ちゃんも一口含んで満足げな笑みを浮かべる。ここ最近は莉緒ちゃんの料理を食べていなかったけど、間違いなく腕が上がっていた。


「こいつも飲もうぜ!弘人が買って来てくれたんだ」


 誠也がグラスを持ってきて俺と莉緒ちゃんの分を注いだ。


「気を遣っていただいてありがとうございます」

「いやいや、こんなに美味しい料理をご馳走になるのだからこれくらいはね」

「・・・私は大好きな弘人さんに料理を食べていただけてとても嬉しいですっ」

「ん?何か言った?」

「は、はい、気合を入れて作った甲斐がありますと言いました」


 莉緒ちゃんが少し頬を赤くしながら笑顔で答えてくれる。

 うん、莉緒ちゃんは本当に良い子に育った。きっと将来は良いお嫁さんになるに違いない。


 どの料理も美味しくて、あれだけたくさんあった料理は全て無くなった。その後に出てきたクリスマスケーキも美味しくいただき、片付けが一通り終わったところで3人でテレビゲームをする事になった。


「これをやりましょう!」


 莉緒ちゃんが手に取ったのはパーティーゲームである。ちなみに俺達の影響も受けてか莉緒ちゃんは結構ゲーム好きである。


「良いね、やろうか」


 ゲームモードは2時間で最も資産があるプレイヤーが勝つというルールである。

 3人でプレイし始めると、莉緒ちゃんは早速誠也の妨害をし始める。


「うわっ。やられた!」

「あれ、お父さんどうしちゃったの?」


 白々しい笑みを浮かべる莉緒ちゃん。うーん、こういう一面もあったんだなと意外感を持ちながら俺はプレイを続けた。


 結果は莉緒ちゃんがダントツの1位。特に妨害を受けなかった俺は2位で、誠也が最下位であった。おそらく口喧嘩の事を根に持っていたのだろうなと内心苦笑せざるを得なかった。


「おっ、もうこんな時間か」


 腕時計の時間を見るとそろそろ22時になろうとしていた。


「明日も仕事だし、そろそろ帰るか」

「えっ、もうそんな時間でしたか。遅くまで付き合わせてしまってすみません」

「気にしなくて良い。楽しい時間を過ごさせてもらったよ、ありがとう」


 俺がカバンを持って立ち上がる。


「弘人、今日はサンキューな!」

「おう、また呼んでくれ」


 俺は玄関へと向かうと、莉緒ちゃんが後から付いてくる。


「あのっ、弘人さんこれを受け取ってくださいっ!」


 莉緒ちゃんが何かが入った袋を渡してくる。


「中を見ても良い?」

「は、はいっ」


 袋から中身を出すと、それは紺色のマフラーであった。しかも市販で買ったような物には見えなかった。


「もしかして手編み?」

「えへへ、少し不格好になってしまいましたけど」

「そんな事無いよ。よく出来てる」


 早速俺はマフラーを首に巻いてみる。


「うん、とても暖かいよ。ありがとう」


 手編みである事に嬉しくなって思わず莉緒ちゃんの頭を撫でると、莉緒ちゃんの顔が真っ赤になっていた。


「あっ、ごめん、恥ずかしかったよね」


 さすがに中学2年生にもなった莉緒ちゃんの頭を撫でるのはまずかったかな・・・。つい昔のようにやってしまった。


「い、いえ、大丈夫です!(・・・む、むしろもっと撫でて欲しいです)」


 小声で何か言ってる気もするけど、俺にはよく聞こえなかった。


「でもごめんね、プレゼントを用意していなくて」

「い、いえ、弘人さんが来てくれた事が何よりのプレゼントですから!」


 満面の笑顔を見ると本心で言っている事が分かり、少し気恥ずかしさを感じてしまう。でも、さすがに何も用意していなかったのはまずいな。


「よし、今度来た時に何かプレゼントを持ってくるから楽しみにしてて」

「えっ、本当ですか!?ふふ、楽しみが出来ました!」


 自分で言っててなんだけど、無駄にハードルを上げた気がする。これは真剣に考えないとな。


「じゃあまた今度」

「はい、お気を付けて帰ってくださいね!」


 莉緒ちゃんの笑顔に見送られて温かい気持ちになりながら、俺は家路へと着いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

本編はまだ春先と完全に季節外れなので、今回は番外編という形にしております。

時系列としては本編から約1年と数ヶ月前、莉緒がまだ中学2年生の時の話です。

主人公である弘人と誠也との掛け合いや父娘の会話が今まであまり無かったので、これらを意識して書いてみました。

次回からはGW編に入る(と思う)ので、楽しみにしていただけると幸いです。

今後ともよろしくお願いします。

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