第11話 お弁当
お待たせしました。手作りお弁当ってありがたいですよね。
翌日。
いつも通りアラームが鳴る前に目が覚めて隣に視線を向けると、やはりというべきかすでに布団が片付けられていた。
部屋を出て台所に目を向けると、莉緒ちゃんがちょうど料理を作っているところであった。
「おはよう、莉緒ちゃん」
「はいっ、おはようございます!」
調理中にもかかわらず態々くるりと振り返って満面の笑顔で挨拶をしてくれる莉緒ちゃん。
「~~♪」
相変わらず機嫌が良いらしく、今日も鼻歌を歌いながら手際良く調理をしている。というより同居してから今まで機嫌が悪いところを見た事が無い気がする。
やはり良い事があったのだろうと思いつつ、しばらく眺めていると莉緒ちゃんが朝食をテーブルに並べ始める。
ご飯にみそ汁、焼鮭、きんぴらごぼうと完全に和食となっている。しかもみそ汁はインスタントではなくてきちんと調理されたものだというのが分かる。
「今日は和食にしちゃいましたけど大丈夫ですか?」
莉緒ちゃんが少し不安そうな様子で聞いてくる。
「ん?大丈夫だよ。元々実家はほとんど朝食が和食だったからね」
就職して一人暮らしになった当初は朝からご飯を炊いて卵やウィンナーを焼き、インスタントの味噌汁を買って食べていたのだけど、そのうち面倒になってきてすぐに食べられるパン食に変えたのだ。
「それなら良かったです。・・・ふふ、また弘人さんの事を1つ知っちゃいました」
後半は小声でよく聞こえなかったけど、安堵した様子だったので良しとしよう。
料理が全て並び終えたところで莉緒ちゃんも隣に腰を下ろす。向かい側に座る方が食べやすいはずだけど、莉緒ちゃんの中では俺の隣に座るのがもはや決定事項となっているようだ。慕ってくれているのは嬉しいけど距離が近いような気がするし、莉緒ちゃんからふんわりと甘い匂いが漂ってくるので少々困ってしまう。
小さい頃から知っているけど、これだけ可愛く成長したら誠也ほどでないにしても甘やかしたくなってしまいそうだ。
「え、えと、私の顔に何かついてますか?」
無意識のうちに莉緒ちゃんの顔を見つめてしまってようで、少し恥ずかしくなったのか頬が赤く染まっていた。
「あ、いや、特に何もついてないよ。ちょっと考え事をしてただけだから」
「そ、そうでしたか。で、では温かいうちに食べましょう」
「そうだね、いただこうかな」
2人で「いただきます」をすると、まず俺はみそ汁に手を伸ばす。具材は豆腐、ワカメ、油揚げ、ネギが入っていてまさに俺好みである。
「うん、美味い!」
飲んだ瞬間にきちんと出汁を取っている事が分かる上品な味が口の中で広がる。朝早くにもかかわらず手間を掛けて作ってくれている事がとてとありがたく思う。
「ふふ、お口に合って良かったです」
莉緒ちゃんは満足そうな笑みを浮かべている側で俺は夢中になって朝食を食べ進めていく。
勿論どの料理も美味しいというのもあるけど、味付けが全て俺好みになっているように感じるのは気のせいだろうか。
「ご馳走様でした」
あっという間に食べ終わると、莉緒ちゃんが嬉しそうに「お粗末様です」と返してくれる。
莉緒ちゃんの笑顔を見ると今日の仕事のモチベーションも上がる気がした。
「あと、今日からはこれを持って行ってくださいね」
しばらくして洗い物を終えた莉緒ちゃんが戻ってくると、青い布袋に入った何かを渡してきた。
「おっ、もしかしてお弁当かな?」
「はい、心(愛情)を込めて作りましたっ!」
両手の拳を胸に持ってきて、気合を入れるように返事をする莉緒ちゃん。何とも可愛くて微笑ましい。
「はは、楽しみにさせてもらうよ」
今から昼食の時間が待ち遠しいと思ってしまうのだった。
仕事がちょうど一区切りしたところで昼休みを告げるベルが耳に入ってくる。何だかいつもよりも時間を短く感じたのはそれだけ集中していたということだろう。とはいえ理由は分かっている。莉緒ちゃんが作ってくれたお弁当が楽しみでモチベーションが上がったからだ。
もちろん会社手配の弁当が悪いという訳じゃない。値段が350円の割に品数が多く、味もそれなりに良いが仕事の励みになるかと聞かれると微妙である。
ちなみに食堂もあるが値段は弁当に比べて100円以上高い割に味は今ひとつで、場所も少し離れているので滅多に行く事はない。
本当であればすぐにでも弁当箱を出して食べたいところだけど一つ大きな問題がある。
「ふふ、お昼の時間になりましたね、センパイ♪」
そう、隣に居る後輩社員(仙堂)である。いつもであれば会社手配の弁当を取りに行くが、今日からしばらくの間は莉緒ちゃんが作った弁当だ。
もし弁当箱を取り出せば色々と突っ込まれる事が目に見えている。
やはり昨日に続いて適当な理由でやり過ごすしかないだろう。
「ああ、そうだな」
俺はカバンを手に取ると席を立つ。
「あれ?もしかして半休ですか?でもパソコンはそのままですね・・・」
「ちょっと食堂にな」
「えっ、珍しいですね~。でも何でカバンを持っていく必要があるんですか?」
やっぱりそうくるよな。焦らずどもらないように答えないと。
「実は同期が資格関係の勉強を教えてほしいらしくてな。昼飯を食べた後にする事になったんだが、食堂だとちょうど良いだろ?カバンを持っていくのは資格関係の資料が入っているからだ」
仙堂は自分で作った弁当を持って来ているので、食堂に行く事は今までに無かったはず。しかも同期と勉強と言えば下手に突っ込まれる事もないだろう。
我ながら上手い言い訳だと思ったけど、実際に仙堂の反応はどうなのか・・・
「ま、まさか同期って女性ですか!?」
ん?全く予想もしていなかった質問が来てしまった。しかし表情を見ても怪しんでいる様子はないからとりあえず成功だろうか。
「いや、男だけど。何でそんな事聞くんだ?」
俺が答えると仙堂はなぜか安堵したような表情になる。
「ほっ・・・。え、えっと、昼休みの時間を減らしてまで教えるなんててっきり女性だから断れないのかなと思っただけですっ」
「おまえは俺を何だと思ってるんだ」
「え!?そ、それは、素晴らしい先輩だと思ってます、よ?」
「何で疑問形なんだ。まあそういう訳だからしばらくは食堂に行く。じゃあな」
「あっ、センパイが逃げたっ」
そう言いながらも仙堂が付いて来る様子は無かったのでとりあえず安心する。
ちなみに食堂へ行くつもりは無く、一人でゆっくりと過ごせる場所へ行く予定である。
「よし、着いた」
そこは建物と建物の間に挟まれた小さな中庭。広さは5メートル四方程にもかかわらず小さなベンチが置かれていて、しかも上部は布状の屋根があり雨の日も濡れる事はないのだ。
この場所は以前に偶然見つけた場所で、仕事で悩んだ時やゆっくりと考えたい時に訪れたりする。出入口が非常に分かりにくいためなのか単に知られていないだけなのか理由は分からないけど、今まで他の社員と遭遇した事は無かった。
俺はベンチに腰掛けてようやく一息吐くことができた。
「さて、弁当の中身は・・・おお!」
俺は思わず声を上げてしまう。おかずは鶏の唐揚げに野菜炒め、卵焼き、ウィンナー、ブロッコリー、プチトマト等色とりどりなだけでなく栄養バランスをきちんと考えられているのが素人目でもよく分かるメニューとなっていた。
しかも冷凍食品らしきものは一切使っておらず、朝からこれだけの弁当を作ってくれた莉緒ちゃんには感謝しかない。
早速俺は鶏の唐揚げを口に運ぶ。
「美味いな・・・」
タレが肉に染み込んでいて、冷めているにもかかわらずジューシーさを感じるのでご飯が進むというものだ。
俺は莉緒ちゃんが作った弁当を存分に味わっていくのだった。
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先日カードゲームの全国大会決勝が開催されました。結果を見ると優勝はシン○ォギアでしたね。6月に発売したブースターで大幅に強くなってついに環境入りです。ファンにとっては嬉しいのではないでしょうか。
ただ、もうそろそろカード制限ルールが改定されると思います。地区大会や全国大会で結果を残すと制限が入るので今回はどうなることやら。か○や様とデ○ラは制限が入りそうな気はしています。