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第10話 夕飯

お待たせしました。1章もそろそろ折り返し地点です。

「ふう・・・」


 米をアパートの部屋に運び込み、床に置いて一息吐く。仕事柄重い物を持ったり、それなりに歩くので

 運動不足という訳でもないが、階段を上りながら米を運ぶのは少々きついものがあった。


「お疲れ様です。私の方も食材を冷蔵庫に入れ終わりました。お茶でも入れましょうか?」

「ああ、お願いするよ」


 莉緒ちゃんは機嫌良さそうに頷いて、コップにお茶を注いでくれている。

 そういえば買い物の時も終始機嫌が良かったので、きっと学校で良い事でもあったのだろう。


「はい、どうぞ」


 莉緒ちゃんがお茶を注いだコップをテーブルに置いてくれる。


「ありがとう」

「いえ、どういたしまして。それでは今から夕飯の準備をしますので、弘人さんはゆっくりとくつろいでいてください」


 何か手伝おうかと声を掛けてもきっと断られるだろうと思った俺はお言葉に甘える事にする。

 時刻はすでに19時を過ぎているが夕飯が出来るのはさらに先だろうと思い、ソファーに座ってスマホでソシャゲーをしながらテレビを観る。

 台所の方をちらりと見ると、ピンク色のエプロンを着けた莉緒ちゃんが食材を切っているところであった。


(何だか新鮮だな)


 この時間に他人が居るという事が無かった訳ではないけど、こうして誰かが台所に立って料理を作っている光景を見るのは初めてであった。何とも不思議な気分であると同時にどこか安心感が湧いて来るのはなぜだろうか。

 最初はテレビを観ながら気長に待つつもりだったけど、いつしかテレビを観るのもそこそこに莉緒ちゃんが料理を作っている姿をじっと眺めてしまっている。

 相変わらず機嫌が良いのか、鼻歌交じりで手を動かしていて今にも踊り出しそうな様子である。

 俺はそんな莉緒ちゃんを見て心が温かくなるのを感じるのだった。




「出来ました!」


 ちょうど20時くらいになった頃、莉緒ちゃんが皿に載った料理を運んでテーブルに置いていく。


「手伝うよ」


 さすがに全て運ばせる訳にもいかないと思い、手伝いを申し出ると莉緒ちゃんから了承を得たので台所から残りの皿をテーブルへと運ぶ。

 料理を運んでいる間も食欲を刺激するような良い匂いが漂ってきて、早く食べたいという気持ちが強くなる一方だった。

 2人で料理を運び終えると、テーブルの上には豚の生姜焼き、キャベツの千切り、ポテトサラダ、ほうれん草のおひたし、ご飯、みそ汁が並んでいた。どれも美味しそうで食べるのが楽しみになってくる。

 俺と莉緒ちゃんはソファーに座り(この時もなぜか隣に座ってきたがもう何も言わない事にする)、共に両手を合わせる。


「「いただきます」」


 俺はまずメインである豚の生姜焼きを箸で掴んで口に運ぶ。


「!!美味い!」


 肉は柔らかく、生姜とタレの風味が口の中に広がり米を思わずかきこんでしまう。


「ふふ、気に入ってもらえて良かったです。本当はもう少しお肉を漬け込んでおきたかったのですけど」

「いやいや、充分美味しいよ。以前にご馳走になった時よりも腕を上げたんじゃないか?」

「そう言ってもらえると嬉しいです。・・・だって弘人さんのために頑張りましたから」


 後半が何を言っているか聞こえなかったけど、満面の笑顔を浮かべているところを見る限りではきっと料理の出来に満足しているのだろう。

 実際に豚の生姜焼き以外のおかずを食べてみても全てがとても美味しくて箸が止まらない。

 外食も悪くないが、やはり家庭的な味の方が良いと改めて感じるのだった。




「ご馳走様、美味しかったよ」


 夢中になって食べているといつの間にか全てを完食してしまっていた。


「はい、お粗末様でした。美味しく食べていただけて良かったです」

「まったく、誠也のやつが羨ましい。こんなに美味しい料理を毎日食べていたんだからな」

「えっ!?そ、そんな褒めすぎですよ。で、でも弘人さんが良ければず、ずっと毎日作るのも・・・そ、そうなるとやっぱり私をもらってくれたら嬉しいなっ・・・てっ!?~~~~私ったら何てはしたない事をっ」


 莉緒ちゃんは突然顔を真っ赤に染めながら小さな声で何かを呟くと、さっさと皿を片付けて台所の方へと行ってしまった。本音を言っただけなのに少し照れすぎではないだろうか。

 ただ、台所でしばらく皿を洗っている事でようやく顔色が戻って来たので、今度からは褒めるにしても少し控えめにした方が良さそうだ。

 ちなみに全てをやってもらうのは申し訳ないので洗い物は自分でやると言おうと思っていたけど、今日のところはタイミングを失ってしまったのでまた明日にでも声を掛けようと思う。

 莉緒ちゃんは一通り皿を洗い終えたところで、今度は再び冷蔵庫から食材を取り出し始める。


「あれ、今から何をするの?」

「明日のお弁当の仕込みを少しだけしようと思いまして」

「ず、随分と手の込んだ物を作るつもりなんだね」

「いえいえ、これくらいは大した手間ではありませんので。それに弘人さんが召し上がるお弁当ですし、少し気合を入れて作らないと」


 表情からも分かる程やる気に満ちている様子を見てしまうと、そんなに手を込んで作らなくても良いと言って水を差す訳にもいかなかった。


「それは楽しみだ」


 代わりにそう言うと、莉緒ちゃんの気合が明らかに増したように見えた。


「はい、楽しみにしててくださいっ!」


 ちょっと失敗したかなとも思ったけど、明日の弁当に期待をしてしまうという気持ちも確かにあるのだった。

お読みいただきありがとうございます。

コロナの影響で色々日程が延びましたが、カードゲームの全国大会がようやく開催されます!

果たしてどんなデッキが入賞するのか楽しみです!

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