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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
Artémis des larmes ~アルテミスの涙~

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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~ 第二十五話

 さて、爆発事件の後のことです。

ヴィンセントはその後大量出血のため一時意識不明の重体に陥りましたが、お城の医師たちの尽力により手術は成功しました。

紫色の雲の間から柔らかな朝の陽ざしが降り注ぎます。

まだ少し薄暗い中、真っ白なお城の医務室のベッドの上でヴィンセントがゆっくりと瞳を開けると、指先に何か温かいものを感じました。

ふと視線をそちらにやると、ヴィンセントの手にご自分の手を重ねてスゥスゥと寝息を立てて椅子に座りベッドに頭を置いて眠っているシャルロット様と、その後ろの長椅子に腰掛けて腕組みしたまま眠っているウィリアム様が視界に入ってきました。

ヴィンセントの身動きで立てた微かな物音に気が付いたウィリアム様がゆっくりと瞳を開けると、安心したのか一つ大きく息を吐き何とも言えない笑顔でヴィンセントの顔を見つめます。


「…おはよう」

「陛下…おはようございます」

「このまま…目が醒めなかったらどうしようかと思ったよ…」

「…花畑の…川の向こうで亡くなった父と母が手招きしておりました」

「…うん、危なかったな」

「でも…後ろで誰かが私の名前をキンキン声で叫ぶんですよ…。煩いから文句言おうと思って振り返ったら…目が覚めました。ったく…」


ヴィンセントはギュッとシャルロット様の手を握りました。するとピクッと小さく肩が動き、ゆっくりとシャルロット様の瞳が開きます。

ぼんやりとした頭をのっそりと起こし、まだクリアではない視線をゆっくりとヴィンセントのお顔の方へと合わせました。


「ヴィー…」

「…おはようございます、姫様」


シャルロット様はヴィンセントのお顔を数秒見つめたまま固まっておりました。三人の間に沈黙が流れておりましたが、しばらくするとシャルロット様の大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちて行きました。


「何で泣くんですか…」

「だって…ヴィーが…」

「私が何ですか?」

「目を覚まして…っ安心したら何か…」

「最近ちょっと疲れていたから深く眠ってしまっただけですよ」

「んもぅ…」


ヴィンセントはシャルロット様の頬に指の腹を添わせ、流れる涙を優しく拭き取ります。

それでも止めどなく流れてくる涙を見てヴィンセントは思わずプッと吹き出ししてしまいました。


「んもぅ…何で笑うのよぉ…」

「すみません」


シャルロット様はんもぅ…とちょっと怒ってヴィンセントをぽかすかとグーで軽く殴ります。ヴィンセントは一応怪我人何だから止めてくださいと言って殴り掛かってくるシャルロット様の手を取って押さえます。


「さて、兄妹ゲンカは終わったかな?」

「ケンカなんかしておりません」

「似たようなものじゃないか」

「…迷惑です」

「あははは。まぁそれだけ軽口が叩けるならまぁ大丈夫だな」


お二人の様子を後ろから苦笑いをしながら見守っておりましたウィリアム様はシャルロット様の肩にポンッと手を置き、スッとヴィンセントの横のベッドの縁に腰掛けふぅ…と一つ息を吐きました。


「医者の見立てでは怪我は全治3週間だそうだ」

「そうですか」

「上手いこと太い血管と神経、筋を避けて刺したからまぁくっ付くまでの時間だな」

「当たり前でしょ」

「まぁ後遺症もなさそうな様子だし良かったじゃないか。で、だなぁ。お前の家なんだが」

「はい」

「窓ガラスと言う窓ガラスが全て割れ、家の中がぐちゃぐちゃらしい」

「…マジですか」


げっと眉をひそめてヴィンセントはしかめっ面でウィリアム様を見つめます。まぁまぁ…とウィリアム様はヴィンセントをなだめ、ちょっと手持無沙汰になっているシャルロット様をご自身の膝の上に呼び寄せ、同じ顔が並んでヴィンセントを見つめ返すという状態を作り出します。


「お前の家に出入りしているメイドのアンももう60を超えているからな。一人で片づけるのは大変だろう。だがお前のことだ、知らない人に家の中を触られるのも嫌だろう?」

「えぇ」

「セバスチャンもろっ骨にヒビが入ってあまり動けないし無理はさせられない。…そういう訳でばあやとセシルはその代役で必要だし…」

「つまり、何が仰りたいんですか?」

「まぁしばらくお前の家はあのままでだってことだ」

「え、じゃあ私家に帰れないじゃないですか」

「まぁ2、3日ほどは医務室(ここ)でゆっくりするとしてだなぁ。まぁお前のことだから早く仕事復帰したいって言うだろう?」

「勿論」

「たまたま私とシャルの間の部屋が空いているんだよ」

「…え」

「職場から激近、しかもメイドたちの世話付。ケガ人にはピッタリの場所じゃないか」

「そうよそうよ!」


シャルロット様の援護射撃の掛け声が入りますが、ヴィンセントはそんなシャルロット様のおでこをツンッと突っつきしかめっ面で見返します。


「お前も遠縁とは言え親戚で王族の一員だ。そんなお前が城に住まうのはおかしいことではないだろう?」

「…」

「実家に帰るつもりはない、家はぐちゃぐちゃ、恋人の家は馬車で片道2時間ほどで遠い。だがしかし安静を言い渡されているクセに仕事はめちゃめちゃしたい。…そんなワガママお前にはピッタリだと思うんだが?」

「…それでしたら空いている使用人の部屋の方で構いませんけど」

「あいにく女子部屋しか空いていないんだよ」

「それでも構いませんけど…?」

「血圧上げるとまた出血してケガに響くぞ」

「…まぁそうですねぇ」

「だろ?…さぁ選択肢はないんだが?」


何故血圧が上がってしまうのかが分からずに小首を傾げてヴィンセントを見つめる、純真無垢なシャルロット様のお顔をチラッとヴィンセントは横目で見ました。そして観念したかのような面持ちではぁ…と深く溜息をつきます。


「分かりましたよ…」

「じゃあ私、せめてものお礼でヴィーのお世話するわ!」

「え゛…」

「なによぉどういう反応よソレ」

「いえ…それは結構です。なんか逆に怪我がひどくなりそうです…。お気持ちだけいただいときます」

「ちょっと!ヴィーったら失礼よ!!」

「あははは…まぁそれだけ軽口が叩ける元気があるならまぁ大丈夫だな。シャル、ヴィンセントが元気なことが分かったしそろそろ我々も引き上げよう。この後リーヴォニアの御一行のお見送りもあるし準備をしないとな」

「…そうね」


ウィリアム様は時計の方にチラッと視線をやりました。お膝に乗っているシャルロット様を促し、ウィリアム様はそろそろ医務室をあとにしようとされました。

するとそこへバタバタ…と騒がしい足音が響いてきました。ガラッと勢いよく医務室のドアが開くと、そこには淡いグリーンのドレスを翻し駆け込んできたエレナの姿がありました。


「ヴィンセント様…っ!」

「エレナ…」

「ヴィンセント様…ご無事で…っ!!」


エレナは医務室に入ってくるやいなや、ウィリアム様やシャルロット様のお姿は見えておらずヴィンセントしか見えていないのか、ヴィンセントの元へ一直線に駆け寄り手を取りました。伏せられたまつ毛に涙の粒が光ります。

ウィリアム様はそっと小声でシャルロット様にさぁ二人きりにさせてやろう、と促します。

シャルロット様はドアの方まで行くと、チラッとヴィンセントの方を振り返りました。肩を震わせ泣いているエレナの背に手を回しそっと優しく抱いているヴィンセントの姿がその瞳に映ります。

そしてそのまま静かにドアを閉めてお二人は医務室をあとにいたしました。


「ヴィンセント様…っ」

「エレナ…心配かけましたね」

「よかった…ご無事で…っ!意識不明になられたとお聞きした時は…もう…」


ヴィンセントの胸に顔を埋め、エレナは泣きじゃくりました。いい歳をした女性が大きな声を上げながら泣く姿にヴィンセントは一瞬驚いた表情をしてしまいましたが、そっとエレナの髪を撫で彼女を落ち着かせようとなだめます。


「私はそう簡単にはくたばりません。だからそんな心配なんか不要です」

「ヴィンセント様…そのようなこと簡単には仰らないで…」

「エレナ?」

「…私…今回のような事がまた起きたらと思うと不安で不安で…」

「…」

「…ご無事でよかった―――…」

「エレナ…」


涙に濡れた顔でエレナはヴィンセントの顔を見上げます。

ヴィンセントは少しそんなエレナに対してまたしても驚きつつもそっとエレナの頬に手を添わせお顔を近づけます。

そして徹夜でヴィンセントの目覚めを待っていたのでしょう、少しクマが出来ているエレナの唇にそっと自分の唇を重ねました。


窓の外では朝を告げる鳥の囀りが少しだけ開いている窓からかすかに遠くから聞こえてきます。

しばらく二人は静かな朝の時間に包まれていたのでした。

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