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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第十八話

…………………………


 幼い頃はただ君の笑顔を見ているだけで幸せだった。

でもいつからだろう…君に触れてみたいと思い始めたのは。

柔らかい栗毛色の髪に触れる度、その輝かしいヘーゼルナッツ色の瞳を細めて笑いながら私の顔を見る時…私の心は高鳴り、君に触れてその熱を感じたいと思うようになった。

だけれどいつの頃からか…君は遊びを覚えてしまった私を避けるようになってしまった。

潔癖な君にはこの私が許せなかったのだろう。

徐々に私たちの間には溝が出来て行き、やがてその溝は深く広くなっていき―――…そして君は手の届かない所へと行ってしまった。

私はとてつもない後悔に苛まれ…自分の愚かさを呪った。

もう君をこの腕の中に抱くことが出来ないのか。

もう君の笑顔を見ることは出来ないのか。


愛しているのは君だけなんだ、ルチア。

もう二度と傍に居られないのならせめて遠くからでも君を見守り続けよう。

この命果てるまで―――…


…………………………


・・・・・・・・


 「…ん」


カーテンから柔らかな朝の日差しが降り注ぐ中、まだぼんやりと霞がかったような重たい頭のままシャルロット様はゆっくりと瞳を開け、真っ白な天井を見つめておりました。


「…夢…?」


ゴシゴシと瞳を擦ろうと手を持ってきた時、右手の中指にきらりと光るシルバーの指輪がはめてあるのを見てパッと勢いよく起き上がりました。


「指輪…っ!ということは…やっぱりあれは夢じゃなかったのね…」


シャルロット様は愛おしそうに手を胸の前で組み昨晩の出来事を思い出したのか頬を赤く染めました。


「…ということは…」


そしてハッと思い起こし、ベッドを抜け出してドレッサーの前に走っていきました。

まだ薄暗い部屋ではありましたが、大きな鏡には虫に刺されたかのように赤くなっている首元がハッキリと写し出されました。


「…カルロ様の口づけの痕…」


ポツンと独り言を口にした途端シャルロット様の頬はさらに赤く染まり、お顔中熱を帯びたかのように熱くなっていきました。


「やだ…酷い顔だわ…」


真っ赤になっているお顔を手で隠し、シャルロット様はベッドの方へと戻っていかれました。ベッドサイドのテーブルに置かれている時計を確認しますと、まだ6時を回ったところで、シャルロット様が起きる通常の時間よりも大分早い時間帯でした。もう一眠りしようかとお布団に足を入れようとしましたが、よくよく思い出すと昨晩のパーティーから帰ってきたままの姿であることに気が付き、シャルロット様は慌ててご自分の頭を触り出しました。


「やだ…昨日のまんまだわ…っ!お化粧もしたままだし…髪の毛だって昨日結ってもらったまま…っ!セシル呼んでこなきゃっ!!」


シャルロット様は大慌てで部屋を飛び出してセシルを探しに行こうと廊下に駆け出したちょうどその時タオルを手に持ったセシルと鉢合わせして二人はお互いに吹っ飛ばされました。


「痛…っ!!あっ!シャルロット様すみませんっ!!」

「ううん…こっちこそ…」


石頭のシャルロット様の攻撃を顎に食らってしまったセシルはしばらく(うずくま)っておりましたが、すぐにぶつかった相手がシャルロット様だと分かるとパッと見直り、吹っ飛んで頭をさすっていたシャルロット様に手を差し出しました。


「シャルロット様…ご自分で起きられたんですね…っ!珍しい…」

「何よぉ、自分で起きたらだめなの?」

「いえ、そうではなくて…お疲れだろうし今朝は絶対ご自分では起きないだろうと思っておりましたので…ちょっと拍子抜けしたと申しますか…」

「何か勝手に目が醒めたのよ」

「そうですか。じゃあちょうどいいです、お風呂の準備できていますから早速入りましょう」

「あら、私セシルにお風呂の準備をお願いしようと思っていたところなの。ナイスタイミングだわ!」

「そうですね!と申しますか、まぁヴィンセント様がそろそろシャルロット様の朝の準備をと仰っておりましたので」

「え?」

「何やら少し…心配されておりましたよ?ヴィンセント様」

「…」


パァ…っと明るくなったシャルロット様のお顔が一瞬曇ったのをセシルは見逃しませんでした。ふぅ…っと一つ大きな溜息をつき、吹っ飛んだタオルを拾い集めるとシャルロット様の方をチラッと見て背中をポンッと押し出しました。


「いつもの小競り合いならいいですけど。まぁとにかくシャルロット様、早くお風呂入っちゃいましょう!今朝はオレンジフラワーの香りの入浴剤をお入れいたしました。さぁ早くお風呂に入ってさっぱりいたしましょう!」

「…えぇ」


少しトーンダウンしてしまったシャルロット様でしたが、セシルに促され別館の奥にあるお風呂場へと向かって行きました。途中ヴィンセントの部屋の前を通りがかった時、シャルロット様はチラッとお部屋の方を見ましたが、ヴィンセントはもう部屋に居ないのか物音一つせずとても静かでした。

シャルロット様は少し伏し目がちに部屋の前を早足に通り過ぎました。だんだんと遠くなる足音が廊下に響きます。

その音を部屋の中で静かに聞いていたヴィンセントは完全に音が聞こえなくなったのを確認するとポケットから煙草を取出して火をつけました。

ふぅ…と一つ大きく溜息をつきながら煙を(くゆ)らせ、部屋の窓をゆっくりと開け放ちました。

爽やかな風が部屋の中を通り抜けてヴィンセントの柔らかな銀糸の髪が風に遊ばれてフワッと揺れます。

制服の詰襟を少し緩めて首を左右に動かしてストレッチのような動きをするとまた一つ大きく溜息をつきました。

ふと外の空を見上げると、遠くの山々の方に薄らと灰色の雲が姿を現しておりました。


「今日は雨だな…」


少し気圧が低いのでしょうか眉をひそめて少し頭を抱えると、ヴィンセントはベッドサイドの小さなテーブルの上にあるガラス製の灰皿に押し付けて煙草の火を消して窓をバタンと閉めて制服をパパッと払い、部屋を出て行きました。

ベッドサイドのテーブルには煙草の吸殻が何本か入ったガラスの灰皿と、その横で朝の陽の光を受けてガラスのようにキラキラと輝いている、渡せないままでいるシャルロット様の靴がひっそりと置かれているのでした。


・・・・・・・・


 「え、マリアが居ない?」

「うん…今朝から姿を見ていないんだ…。今皆で探しているんだけれど…ウィリアムお兄様、マリアがどこに行ったか知らない?昨日の晩は一緒に居なかった?」


少し時間が過ぎまして7時頃の時分です。ウィリアム様は若干二日酔いで重たい頭を抱えながら身支度を終えて朝食会が行われる食堂へと着いたと同時に、まだパジャマ姿のフランツ王子が泣きそうな顔でウィリアム様に飛びついてきました。


「申し訳ございません、フランツ皇太子殿下…。昨晩はマリアと一緒ではありませんでしたので…彼女の動向はさっぱり私の方では分かりかねます…」

「どこ行っちゃったんだろう…。今まで毎朝必ず僕のこと起こしに来てくれていたのに今日は来なかったんだ。おかしいな、と思ってマリアの部屋を見に行ったんだけどいなくて…。お風呂場とかクローゼットとか、マリアの居そうな所全部探したんだけれど居なくて…」

「そうですか…」

「どこ行っちゃったんだろう…マリア」

「そんなに落ち込まないでください、殿下。私も一緒に探しに行きましょう」


ウィリアム様はフランツ王子のお顔を覗きられる高さまでしゃがみこまれると、シュンっとしょぼくれるフランツ王子の手を取って優しく微笑まれました。

少し涙目のフランツ王子はうん、と小さく頷くとウィリアム様と手を繋いでマリアを探しに行こうと歩き出しました。とその時、バタバタと数名が廊下を走ってくる慌ただしい音が響きました。


「あっ!フランツ様っ!!マリア様が見つかりましたっ!!」

「本当っ!?」

「はいっ!マリア様はご無事ですっ!!ですが…その…」


息を切らして甲冑姿の兵士たちがノックや挨拶も早々食堂に流れ込むように走ってきました。


「えっ!マリア見つかったのっ!?」

「マリアはどちらに…っ!?」

「あ…えっと…お城の端の北の外れにあるお庭のベンチで眠っておりました。どれだけ起こしても起きないので我々困っているんです…。フランツ様~起こしてください~っ!!」

「わかったっ!今すぐ行くよッ!!」

「我々も一緒に行きましょう」


ウィリアム様がめんどくさそうに顔をしかめたヴィンセントを促し、駆け出したフランツ王子の後を追います。兵士たちも慌ててフランツ王子の後を追って、一行はお城の端の北の外れにあるお庭に向かって一目散に走り出していきました。


・・・・・・・・


 「…マリア、マリアっ!!」


お城の端の北の外れにあるお庭に、ナルキッスの兵士たちに案内されてフランツ王子、そしてウィリアム様とヴィンセントは到着するとすぐにベンチの上で仰向けに倒れているマリアの元に駆け寄りました。

ぐお~ぐお~と地響きのような大きなイビキを響かせ、石のように硬直して重たい身体のマリアを動かす事が出来ずに皆困っております。にウィリアム様はブンブンと激しく揺さぶりますが、マリアは微動だにすることなくなかなか目が醒める気配がありませんでした。


「我々もずっとマリア様を起こそうと色々試しているのですが…なかなかお目覚めにならないんですっ!」

「…マリア、マリアっ!!ねぇマリア起きてったらぁ~っ!!!」


フランツ王子がマリアの鳩尾あたりの上に飛び乗り、身体をゆすって起こそうとしておりますがいっさい動じることなくさらに豪快なイビキと歯ぎしりを奏でて眠りこけております。医師や屈強な兵士たちもどうにかしてマリアを起こそうと試みますが、石のように硬直して重たい身体のマリアを動かす事が出来ずに従者たちは困っております。


「いったいこれは…」

「相変わらず煩いイビキと歯ぎしりですね。寄宿学校(ケンニッジエール)を思い出しますよ…」

「確かに…このイビキに何度我々は寝不足に悩まされたか…」

「ったく…煩いんでいい加減止めてもらいたいものですね」


皆が打つ手がないと言わんばかりに天を仰いで嘆くような面持ちでいらっしゃると、ヴィンセントが失礼しますと、横からスッとマリア近づいて思いっきりマリアの頬をビンタし始めました。


「起きろマリア!」


パンパンッと数回マリアの頬を容赦なく叩く姿を見て周りの皆は若干引いておりましたが、そんなのお構いなしにヴィンセントはマリアの頬を叩き続けます。


「…起きないですね」


やはりな、と言う顔でヴィンセントは真っ赤に晴れ上がるマリアの顔をジッと冷たい視線で見つめておりました。しばらくさてどうしたものかまた考え始めると、ふと何か思いついてマリアにもう一度近づきました。


「マリア…いや、ゴンザエモン…」


ポソッとヴィンセントが小さい声で呟くと、マリアの身体がピクッと動きました。ヴィンセントはそれを確認するとニヤッと口元に笑みを浮かべてニヒルに笑い、もう一度マリアに話しかけだしました。


「…起きろ、ゴンザエモン・ヴァン・イノクマ・ヴィッツレーベンっ!」

「その名前で呼ぶんじゃねぇ~ッ!!!」


いきなりカッとマリアの目が開き、今まで聞いたことの無いような低い声でそう叫びながら皆が吹っ飛びそうなくらいのもの凄い勢いで飛び起きるように起き上りました。


「あ、起きた。おはようマリア」


シレッとヴィンセントはマリアの頬をもう一度力強くパーンッと叩きます。正気に戻ったマリアは真っ赤に張れた顔を押さえながら、皆に取り囲まれている状況に驚き目をパチクリさせております。


「お…おはようございますヴィンセント様❤…そんなゴンザエモンだなんてゴツイ本名じゃなくて可愛らしく『マリア』って呼んでくれなきゃイ・ヤ❤…ってあら?皆集まって…この状況は何ですの?」

「マリア、気分は悪くないか?大丈夫か?」

「ウィリアム陛下❤何だかすっきりとした目覚めですわ❤なぜか頬はもの凄くジンジンしますけれど…」

「そうか…ならよかった…」

「何が良かったんですの?マリア、さっぱり分かりませんわ…?」

「んもぉ!マリア!何でこんなところで寝てるのっ!?朝起こしに来てくれなくてこんなこと初めてで僕心配したんだよっ!?」

「フランツ様…」


フランツ王子はマリアの元に駆け寄りキュッと逞しい二の腕に抱いて、少し涙目になりながら怒ったように装ってマリアにくっ付きます。マリアはそんなフランツ王子をそっと優しく抱きしめました。


「申し訳ございませんフランツ様…」

「もう!本当に心配したんだから~っ!!マリアのバカ~っ!!今日はこの後、ずっと僕と一緒に居てよねっ!!」

「かしこまりました、私の可愛い王子…❤」

「はいはい、二人の世界に入っているところ申し訳ないんですけど、とりあえず解決したのでオッケーですね。捜索してくれた皆さん、お疲れ様でした。もう戻っていただいて結構です」


他所の国ではありますが、ヴィンセントはいつも通り皆にテキパキと指示を出して従者を解散させました。皆安堵したのか、笑い合いながらパラパラと散っていきました。まだマリアにくっ付いたままのフランツ王子も、兵士に促れてマリアから剥がされて一度自室へと戻っていかれました。

ふぅ…と溜息をついてヴィンセントはマリアに手を差し出してグイッと思いっきり引っ張って立たせます。


「あんっ❤まだ身体が硬直しておりますのにそんな乱暴に扱わないでもっと労わってください❤」

「そんな貴女の身体の事情なんて知りませんよ。ったく…なんであんなところで寝てたんですか」

「それが私も謎なんです」

「は?」

「おかしいですわねぇ…昨晩は確か超イケメンの殿方とその方とベッドの上でハッスルしまくったはずなんですけど…何で私こんなお庭で寝ていたのか謎なんですのよ」

「は?」

「おかしいですわねぇ~確かカルロ様と激しくハッスルしたはずなんですけど…」

「カルロ…?今カルロと言いましたか、マリア…」


半ば呆れながら明後日の方を見て聞いていたヴィンセントが急に鋭い視線でマリアの方を見直りました。

急に真剣になったヴィンセントにビックリしたマリアは、いきなりのことに目を大きく見開いて言葉に詰まりそうになりました。


「え…えぇ」

「へぇ…カルロ伯爵と…。そうですか」


ゴゴゴゴゴ…と地鳴りのような音が出そうなほどの怒り静かに抑えようとしているヴィンセントの様子に、やべぇ…と言った表情も垣間見えるマリアでありましたが、ヴィンセントの様子を見てもうどうしようもないことを察したのでしょうか、蛇に睨まれたカエルの如くあぶら汗をかいてジッとしておりました。ヴィンセントは下からゾクッとするほどの殺気を立てて凄むようにマリアを見つめると冷ややかな笑みを浮かべました。


「マリア…ちょっと話を聞かせてもらえませんか…?」

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