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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第五話

 ナルキッス大国のパーティーは夜が深くなっても続いております。

さてさて…パーティーの華であるシャルロット様は、人酔いされたのかお疲れモードで会場から出てお外で休憩されております。

まだ14歳のうら若き少女でありますシャルロット様は、お外の冷たい空気を吸いながら大人たちのどんちゃん騒ぎに呆れておりました。

そんな彼女にふと誰かが近づいて参りました―――…。

 さらに夜が更けて少しふっくらとした狸のお腹のような月が空の真上に近づき出した頃、シャルロット様はお一人でパーティー会場から少し離れたお庭にある猫足のソファーに腰掛けて休憩をされておりました。


「まったく…皆いつまでどんちゃん騒ぎしているつもりなのかしら」


パーティーが始まってからもうかれこれ数時間が経過しておりますが、大人たちの饗宴は収まるどころか更にヒートアップしていき、ある集団はシャンパンをどれだけ飲み干せれるか、ある紳士はどれだけの女性を口説き落とせるのか、あるマダムや淑女はどれだけの男性から口説かれるのか、まだまだ若い貴族の青年はどれだけの可憐な少女とダンスを一緒に踊れるのか、社交界デビューしたばっかりの若い貴族の娘はその空気に飲まれてぽわーんとその場で過ごしておりました。

遠くから風に乗って聞こえる大人たちの騒ぎを聞いて、シャルロット様は呆れたように溜息をついております。


「お子ちゃまのフランツももうお部屋に戻ったことだし、私ももうお部屋に戻ってもいいわよね…」


10歳というまだまだお子ちゃまのお歳であるフランツ王子はシャルロット様と何曲も何曲もしきりにたくさん踊られた後、急に眠たくなってきたのかぽやーんとしたお顔になり、マリアに引きずられながら泣く泣くその場をあとにされたのでした。

フランツ王子の独占から解放された後、お一人になったシャルロット様の前にはたくさんの男性たちが一緒に踊ってほしいとお願いに来られましたが、その数の多さと熱気に引かれたシャルロット様は周りの隙をついてパーティー会場からこの静かなお庭に逃げて来られたのでした。


「んもぅ…本当にドレスのコルセットって窮屈で嫌になっちゃう!早くお部屋に帰って脱ぎたいーっ!」


んーっと大きく伸びをされましたが、キュッとウエスト部分を絞っているコルセットのせいで思うように伸びが出来ず、シャルロット様はお一人でプリプリされておりました。


「でもお部屋に戻ろうと思うともう一度会場を通らないといけないのよねぇ…。どうしましょ…」


夜が明けるまでこのお庭に居ようかとも考えられましたが、季節はまだ初夏でございます。昼間は大分暖かくなってきておりますが夜はまだ少し肌寒く、とくにこのグララスは標高が高いためより一層あたりの空気はヒンヤリとしております。


「…結構冷えてきたし、早いところお部屋に帰らないと風邪ひいちゃうわ…」


寒さでブルッと身震いされたシャルロット様は、ヨシッと気合を入れ早いところお部屋に戻らねばと意を決して立ち上がろうとされましたその時、シャルロット様のお名前を呼ぶ聞き覚えのある心地の良い声が聞こえてきました。


「シャルロット様!」

「!カルロ様!」

「こんなところにお一人で…どなたか待ち人でも?」


昼間とは打って変って、髪をきっちりセットされて細かい宝石の粒がたくさん散りばめられた深い紫のジャケットにビロード地のマントを羽織られたカルロ伯爵が立っておりました。


「残念ながらお待ちしている方はおりませんの」

「おや…そうですか」

「パーティー会場の熱気が熱くて…外の空気が吸いたくて出てきたんです」

「貴女のような社交場の華が居なくなってしまうとは…さぞかし皆残念がっていることでしょう」


カルロ伯爵はシャルロット様の隣のソファの手摺にスッと自然に腰を掛けられました。


「そうかしら」

「そうですよ。男性たちは皆寂しがっておりますよ」

「どうせ皆、誰が私と踊って、ハートを射止められるかを賭けているんでしょ?そんなお遊びに付き合っていられないわ」

「それが社交場の大人の遊びなんですよ」

「まぁ…じゃあカルロ様もいつもそのように遊んでいらっしゃるの?」


シャルロット様はお顔を上げて上目使いでカルロ伯爵のお顔を覗き込むまれました。カルロ伯爵は少しびっくりされましたが、大人の余裕なのでしょうか、カルロ伯爵の灰色に金色がかった瞳も優しくシャルロット様を見つめ返します。


「残念ながら私はそのような遊びはもうとっくに卒業しております。たくさんの女性と愛を語らうよりも、今はこうやって静かに庭の草木や花を愛でている方が幸せなんです」

「あら…でもそっちの方が素敵だわ」

「そうでしょうか、つまらない男だと思います」

「派手で遊んでいるからと言ってつまらなくないとは限らないわ。それに人をモノみたいに賭け事の対象にするなんてとても失礼だわ」

「まぁそうですね…」

「そうよ!そんなしょうもない殿方なんてこっちからお願い下げよ」


フフフ…と静かな夜の空間の中にカルロ伯爵の小さい笑い声が響きました。


「何?何かおかしくって?」


微かな月と星の明かりとポツンポツンと距離を取って置かれている街燈しかないない暗いお庭ではよくお相手のお顔が見えないからでしょうか、シャルロット様はぴょんと更にソファーを詰めてカルロ伯爵のお顔を覗き込みに行かれました。


「失礼いたしました…。いや…貴女は甘いそのお顔に似合わず、色々としっかりとご自分の思いを仰るんだなぁと思いまして…」

「まぁ失礼しちゃう!子供だと思って馬鹿にしているんでしょ!」


プイッと頬を膨らませてシャルロット様はそっぽを向かれたので、カルロ伯爵はわたわたと慌てふためきました。


「そんなこと思っておりませんよ!貴方はとても素敵なレディーですよ、シャルロット様」

「本当にそう思っていらっしゃる?」

「…もちろんですよ!」

「そう?…と言うか、元々怒ってなんかおりませんわ。ちょっとカルロ様をからかってみただけなの、ごめんなさい」

ちょっと慌てた様子のカルロ伯爵を腕組みをしながら横目でチラッと見て、シャルロット様はニコッといたずらっ子のように微笑みました。


「いえ…私もつい悪ふざけが過ぎました。申し訳ございません」

「お気になさらないで。…素敵な香り…カルロ様の香水?」

「えぇ、私の家にあります温室で育てている花々のエキスで調合した香りなんです」


慌てふためいてバタバタしておりましたカルロ伯爵から香ってきたのでしょうか、澄んだハーブのような香りの中に今まで嗅いだことの無いような重厚な甘さが混じった香りが、ふんわりと辺りを包んでおりました。


「シャルロット様の苦手な香りでしたら申し訳ございません…」

「そんなことないわ…とても素敵な香り。初めてだわ」

「私の温室では世界各国から集めてきた花や植物を育てておりまして…その中で特に私の好きな花で作った香水なんです」

「まぁ!ご自分で調合されているの!?素敵ね!…カルロ様のような素敵な方が付けていらっしゃるのもいいけれど、レディーが付けるのにもピッタリな香りね」

「そうですね。花の香りがベースなので女性向かもしれませんね」

「なんだか…不思議な気分になりそうな香りね」


クンクン…とまるで子犬のようにシャルロット様はカルロ伯爵の香水の香りを嗅ぐために少し伯爵の近くへとお顔を寄せてきました。


「イランイランと言う少しエキゾチックな香りの花がメインなんです。それに私の庭に咲いているバラのエキスを少し調合しております。今日シャルロット様がつけていらっしゃる香水も素敵な香りですよ」

「ありがとう。でも実はそんなに好きな香りじゃないの…」

「まぁ…シャルロット様がつけられるのには少し大人っぽい香りと言いますか…。バニラと…これはジャスミンの香りですね…。夜のパーティー向けではありますが正直シャルロット様のような愛らしい方よりかはもっと…こう…ギラギラとした大人の女性が男性を誘うときのような香りですね…」

「そうなの。なんだか私にはセクシーすぎて。でもジョージ陛下とフランツ王子が選んでくださった香水だからちゃんと付けてこないと失礼じゃない?」

「そうでしたか…香りとしては良い香りですがね。香りにもその人と相性の良い香りがありますからきちんと選ばなければもったいないものです」

「私香水に興味が無いからよく分からないけれど、そういうものなのね」

「えぇ…体臭とも関係いたしますので奥が深いものですね」

「ふーん…ねぇ、じゃあ私にはどんな香りが似合いそう?」

「そうですね…」


カルロ伯爵がシャルロット様自身の香りをより嗅ごうと、シャルロット様の首もとへと少しお顔を寄せられました。パーティー用にと、セシルが首もとにキラキラした白粉を少し振りかけてくれていたためシャルロット様のお肌は月明りと少しの街燈の中でも美しく輝いております。

失礼…と一言告げられて、髪を掻き分けてうなじの辺りに鼻や唇がくっ付きそうなほど近づけられたり、少し鎖骨の辺りまで下げってこられたりとしてまるで吸血鬼が乙女の血を啜るかのごとく、シャルロット様の香りを嗅いでおられました。

シャルット様の耳元でキラキラとした宝石で彩られているイヤリングが、カルロ伯爵の髪とお顔に当って揺れて、月の光をキラキラと反射しております。

シャルロット様は意外にもカルロ伯爵がこんなにも近づいて来られるとは思ってもおりませんでしたので、少しドキドキされて、お顔を反対側に向けて瞬きを何回もパチパチとして動揺しておりました。

そんなシャルロット様の様子に気付かれてカルロ伯爵は口元に甘い微笑みを浮かべ、唇で一瞬シャルロット様の首筋をすーっと撫でられました。

シャルロット様は少しクラクラとめまいに似た感覚を覚えましたが、カルロ伯爵の甘くて刺激的な香りにハッと目を覚ましてドキドキと高鳴る胸に手を当て、必死に平静を取り繕うとしております。


「…シャルロット様のようなお方には…ダマスクローズやロゼッタローズの香りなどが合いそうですね」


カルロ伯爵がゆっくりとシャルロット様の首元からお顔を上げられました。シャルロット様は自分の顔が赤くなっていないか心配でしたが、辺りは夜で薄暗かったのと伯爵がご自身の世界に入っている状況だったので、特にお顔を見られる心配もなかったことに安堵しております。


「ダマスクローズは聞いたことあるけれどロゼッタローズって聞いたことないわ」

「南の大陸…ジャコランダルーの北部の固有種のバラです。少し深い…赤に近い鮮やかなピンク色の大きな花を咲かせるんです。花弁は外側に向かって見事なグラデーションをしておりまして、実に美しい花なんです。花の香りはバラの特有の芳醇な甘みとこのバラ特有の爽やかな清涼感があって…きっとシャルロット様にぴったりだと思います」

「まぁ…それはぜひ見て嗅いでみたいわ」

「実はこの花の苗を入手できまして…こちらのあの屋敷の温室で育ててみようと思い持ってきているんです。もうすぐ花も咲きそうでして…もしよろしければシャルロット様、見に来られますか?」

「いいの?」


見たことも聞いたことも無いお花の話をされて、シャルロット様はとても興味津々でした。一気に大きな瞳が更に大きく輝き、とても嬉しそうにカルロ伯爵のお話を聞いておられます。伯爵も興味を持ってもらって嬉しいのかいつもに増して笑顔が溢れておりました。


「えぇ是非…」

「まぁ…絶対お伺いしたいわ!しばらくナルキッスに滞在しているし、ちょうどいいわ!!ねぇカルロ様、そのお花はいつごろ咲きそうなの?」

「そうですね…蕾が出来始めたので1、2週間くらいでしょうか。少し庭の整理もしたですし」

「1、2週間後…」

「どうかされましたか?」

「…明後日にはもう私たち帰らなくてはならないの。だからお花を見に行けないわ…。折角誘ってくださったけれど…ごめんなさい…」

「そうですか…。残念です」

「でも…いつか必ずカルロ様のお庭に遊びに行くわ!絶対よ!」


シャルロット様はシュンとされておりましたが、こちらも少し残念そうにしているカルロ伯爵の手を取りキュッと握りました、伯爵は少し驚いた様子ではありましたが、はにかむように微笑むとシャルロット様の手を優しく握り返しました。


「…えぇ、是非遊びにいらしてください。貴女の為にたくさんの花を植えて…お待ちしております」

「ありがとうカルロ様…」


お互い野手をもう一度強く握り、ニコニコとお二人は笑顔を交わしながら、月明かりの下でほっこりとした空気が流れました。まだ遠くの方では音楽が鳴り響いており、庭の虫の声と共鳴し合って心地よい音楽が二人を包んでおります。


「…もしよろしければ、こんなところで大変恐縮ですが私と一曲踊ってくださいますか?」

「もちろん、喜んで」


スッとカルロ伯爵はソファーから立ち上がられ、シャルロット様の前に手を差し延ばされました。シャルロット様もニコッと愛らしく微笑まれ、伯爵の手を取られてゆっくりとソファーから立ち上がられました。

先程までの軽快でアップテンポの音楽から打って変り、優雅でスローテンポなワルツが風に乗って聞こえてきました。

カルロ伯爵とシャルロット様はお辞儀をされて、お互いにお顔を合わせて微笑まれた後スッと手を繋がれて組まれました。音楽に合わせて、お二人はお身体をゆっくりと揺らしながらステップを踏まれていきます。

月明かりのスポットライトの下、観客はお庭で鳴いている虫くらいだったかも知れません。ひっそりとお二人だけのワルツが秘密の庭のバルコニーにて奏でられておりました。


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