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名前が間違ってました…。
ごめんなさい。
祖父との話を終えたセバスは、放置された島のリストから貰い受ける空島の選定を始めた。
バドとコクウスの意見も聞いている様だ。
「そうそう、夜空に伝えておかねばならん事があった」
思い出した、そんなわざとらしい芝居をする祖父に、警戒する。
「手に入れる身分だが、元凶姫の国の元貴族、ということになりそうだ」
「……は?」
「元凶姫の国はな、中々に貴族の入れ換えが激しい時代があったようでな。その際、消えた貴族の一つにしようと思う」
「……くわしく」
「うむ。シュート、頼むぞ」
頼まれたシュートは、タブレットを手に取る。
「今から六年前、元凶姫の国、ジャレット王国は王と王妃を病で一度に失いました。元凶姫ことジルバーナの母であった第二王妃ジーナスが後見となり自身の子、第二王子を新たな王として国を統治しました。その際、継承権争いに敗れた正妃の子である第一王子とその陣営だった貴族の多くが徹底的に処刑され、取り潰された記録があります。高位から下位の貴族まで、かなりの数の貴族が消えました。その上、当時は勝利した第二王子の陣営で空いた爵位や役職への権力争いが激しく、記録事態が随分と疎かであったが故、紛れ込ませるのは安易でした」
「……わぁ、微妙…」
一族郎党、徹底的に処刑された貴族が多かったようだ。命を狙われる可能性を徹底的に排除する為とはいえ、なかなかに残虐非道がまかり通っていたようだ。家財没収は当たり前で、早い者勝ちに近いものがあったようである。
「現在、王が病に倒れ、新たな継承権争いが始まっているようです。王太后の子である第三王子であった王弟と、王の子である幼い第一王子です……が、実際は王太后と王妃の争いです」
「……その第三王子の王弟って、もしかして…」
「はい。元凶姫と共にいた青年です。元凶姫は、第一王女でありながら、女性が王にはなれないこともあって、母である今の王太后の関心を得られなかったようです。愛憎に近い感情を持っているのか、対抗意識なのかは不明ですが、勇者や聖女を召喚して注目を集めようと思っているようです。ただ、この世界の取り決めにより、召喚魔術は禁忌とされています」
「えっ……目立ちたがりの愚か者……ただのかまってちゃんじゃん…」
禁忌とされる召喚を行ったのが、初めてではないことは会話からも態度からもわかる。
「……目を付けられるのは困る、慎重に生け贄を揃えろ、と言っているので禁止行為であることは知っているのでしょう」
「……そーいうのって、なんでバレないんだろーね」
「まったくだなぁ」
うんうん、と同意する祖父。
「ジャレット王国、ミューカルド伯爵家。当時の領地はここ、カルミド地方を納めていた事になっています。十年前に旦那様は隠居しており、六年前の継承争いの際、物見遊山で領地を離れていたまま現在も行方不明。当主だった旦那様のご子息で夜空様の父君は第一王子の陣営であった為、王都で処刑され、母君は逃げも隠れもせず領地で処刑された事にしました。夜空様は正妻の、双子は愛人の子としています。愛人は婦人から子供を託され共に逃亡したと見せかけ、囮として子供達の逃亡を成功させたとして処刑されたことにしました。子供達の行方は不明。先代の夫婦共に手配などはしていない、としてあります」
情報が多いな…。
オレは嫡男で、双子は腹違いの兄妹と言うことか……って、事実じゃん。潔い母親像だけが偽りだな。
「それで大丈夫なの?」
「伯爵家ですので、恐らくは問題ないかと」
「そっか。じゃあ、ミューカルドって覚えておかないとね」
「うむ、名前だが此方の世界に合わせた偽名を考えた。ワシはジョージア、万里江はマーリンだ」
「偽名…」
確かに、祖父母の本名は此方の世界では違和感があるかもしれない。
祖父の名は、城一朗。
祖母の名は、万里江。
「夜空様も、偽名が必用と思われますが、いかがしますか?」
シュートに言われ、表情が歪む。
「えー……」
めんどくさっ!
「ヨル……ソラ……ふむ、どちらを採用するか…」
祖父が自分のことのように悩みだす。
仕方ないのでオレも考えようとして青い空を見上げるが、何のヒントにもならない。
「そら……ソラ……」
不意に思い出した。構成施設でこんな空の下で歌を歌わされたこと。
「……ドレミファ…」
何となく口ずさんだ言葉。
「…ソラシド…?」
祖母が思わず、と言ったように続けた音名。
「……うん、ソレで」
「はっ?」
「えっ?」
オレの言葉に祖父母が首を傾げる。
「ソラシド。良くない?」
「…うむ…」
「えー…?」
微妙な表情をされたが、オレは気に入った。
「アトラとテトラはそのまま?」
「あの子達は幼いがゆえに理解できないだろうから、アトラ、テトラで通すつもりだ。貴族位を捨てたので、ワシ等はただのジョージアとマーリン。夜空は問題なければソラと呼ぶ」
「ふぅん、わかった」
忘れても誤魔化せそうだ。
それに、ソラの呼ばれ方はスラムの頃で慣れているから問題ない。
ヨゾラ、と叫ばれて挙げられた手には反射的に怯える気がするが、ソラと叫ばれて挙げられた手には笑顔でハイタッチ出来る自信がある。
「では、記録の書き換えを早急に終わらせます」
シュートはそう言って一礼すると、元凶姫の城にいる個体と通信を始めた…と思う。微動だにしないから。
「旦那様、良い空島が見付かりました。旦那様の伯爵時代に遡りますが、伯爵家が代々所有していた空島、恩賜された園庭の空島、引退の際に下賜された庭園の空島、という形で記録に残します。先の王の時代のこととなりますが、記憶に留めておいていただきたく…」
「わかった。覚えておこう」
「それともう一つ、今後の構想に丁度良い立地の島がありましたので、それも頂戴しようと思います」
祖父と話すセバスの後ろで、バドとコクウスが何やら話し込んでいる。
「伯爵家所有の空島は当時、徹底的に調べられ、誰も居なかったと記録しておきましょう」
「その時、島にある屋敷の調度品などは全て回収された、とも記録しておこう。で、数年後の調査でも人が居た形跡は無く、屋敷は廃墟となっていた。倒壊の危険があるため火を放ち処分した、とも書いて貰おう。どこまで燃えても被害者は居ない為、消火の必要なし、と」
わあ、サイテー。容赦なく追い討ちかけたね。
仮に空島に隠れていたとしても、金目の物もなく、住む屋敷も焼失。唯一の出入口たる転移門まても壊されれば、生き残るのは難しいだろう。
「それが良いですね。土地の広さで言うなら伯爵家の所有にした島が一番広い。次が庭園……」
「園庭は小さいながらも平地で良い島ですね」
「なら、木の保存と加工は庭園で良いですかね?土地が広いから半分は庭園として残してもいいな」
よし、全て専門家に任せよう。
そうと決まれば…。
「シュート、お茶のおかわりちょうだい」
結果、園庭に木材を置くことにしたそうだ。木を置いて作業場を作ったとしても、まだ余裕があるらしい。
庭園には牧場を作るそうだ。運動不足にならないだけの広さがあるかららしい。この島にいる鳥もいずれは移すらしい。
伯爵家所有だったとする空島は、荒れ放題の草が生い茂っているので、野焼きをして土地を整えてから、どうするかを決めるそうだ。