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 この世界には、天上人(てんじょうびと)地上人(ちじょうびと)地底人(ちていびと)が存在していた。それぞれの領域を侵さないことで、交流し、共存していた。

 だが、地上人同士で争いが起こった。悪い心を持った地上人はやがて、地底人とも争いを起こし、支配しようとした。地底人は天上人に助けを求め、争いは激化した。

 空で大きな爆発が起こり、星が降り注いだ。その跡地から異形が発生した。異形の化け物は地上を蠢き、空を飛び、地面に潜った。

 争っていた者達は、生き残るために協力しあう事にした。争いを止めて協力させるほど、異形の化け物が強かったのだ。

 大地を消し、海を消し、空をも消した謎の現象はその後も残り続けた。移動したり、拡大したりすることはなく、ただ、そこにあり続けた。




 異形の化け物は長い戦いの中、僅かだが姿を減らしていった。だが、完全に消えたわけではない。これからも過酷な戦いは続くだろう。力を会わせ、生きるために戦わなければならない。




 以上がこの世界の神話のように語り継がれ、伝承されてきた。

 ちなみに、この世界の神らしき存在の名は一度も見ていない。


「異世界、じゃなくて、物語の世界、なんじゃね?」


「どちらでも、別世界であることに変わりありません」


「そりゃそうか。で?」


「この世界には、本当に様々な種族がいるようです。人族、亜人族、魔人族、精霊族、妖精族、天族。その中で、更に細かくわかれているようです」


タブレットに写真がある。

 動物そのものの姿、動物の姿なのに服を着て武器を持ち二足歩行する姿、人間そっくりなのに動物の耳や尻尾が付いている姿。他にも、肌の色が青や赤、鱗がついていたり、三つ目だったり、羽がついていたり、角があったり、と様々だ。

 これならシュートがウサギの姿で一人で出歩いたとしても、差別や迫害などの問題はなさそうだ。


「爆発が起こった場所は、様々な色のベールが重なりあう天と地を繋ぐ柱のように見えるそうです。その中は、あらゆるモノが絶たれる事から、元凶姫は絶柱と呼んでいるとか」


「あらゆるモノが絶たれる?」


「音が聞こえなくなる、目が見えなくなる、感覚が無くなる、など特定のモノではない、絶たれるモノが一つとは限らない、などの理由から予測が出来ないそうです」


「ふぅん……感覚が無くなる…?」


「一つの例えを出すと、歩いている感覚が無くなるので、地面が認識できずバランスを崩したり、強く踏み出して足を痛めたりと、最終的に歩く事が出来なくなるそうです。足を持ち上げ、前に踏み出す。強くても弱くても人体に影響します。その行為を意識的にずっと続けるのは難しいそうです。これらの情報は、原因の住む城や隠れ家で見付けた資料から得ました」


ケイトリーがステルス機能を使用したエアバイクで、初遭遇の異世界人に放ったスパイロボからの情報を集めに行ったのだそうだ。黒ローブの怪しい集団である。なかなかに胸くそな報告内容の様だ。

 二人の殿下の側には擬態機能を持つメイド型を置いてきたので、今後はより詳しい情報が手に入る事だろう、とのこと。


「なるほどね。面倒くさい場所なのはわかった」


「他にも、世界が悲鳴を挙げた、世界が歌った、など様々な言い方をされていたようですが、異変が発生する時に必ず音を奏でる事から「歌う空間(ガナーファダー)」の呼称が一般的の様です」


「ガナーファダー…」


「はい。そのガナーファダーから異形が迷い出してくるので、それを退治する為の存在が冒険者であり、騎士団であるとのことです。危険なので近付けたくありませんが、見に行きたがると推察いたします」


ああ、絶対に言うだろうな。むしろ、行かない選択肢の方があり得ない。


「オレも見てみたいから、置いて行かないように言っといて。でも、冒険者、か…」


「元凶姫の国は身分制度がそれなりに存在し、奴隷の存在も確認致しましたので、やはり避けるべきと判断致しました。ただし、実態調査は命じてあります。奥様知識に良く出てくるギルドの存在も確認できました。冒険者ギルドの他に商業ギルドがあるそうです」


「へぇ。ギルドは2つだけ?」


「はい、その様です。身分証を所持しているのは貴族位までで、一般的にはギルドカードが身分証の代わりとされている様です。カードのランクによって、特典や制約が変わるそうです」


「あー、そんな話も読んだことがあったなぁ」


ばば様知識のマンガやノベルは庶民の娯楽の筈なのに、本当に侮れないな…。


「下調べでわかったことですが、ギルドに登録するにもお金が必要となります。しかし、所持している品を売っても問題ないのか判断するにはもう少し時間が必要となりますので、潜入時期は未定です」


「そんな話もマンガにあったね。鑑定スキルがあって異世界の宝石とか出たら、どうなるかわからないもんな」


「はい」


そのまま、しばらく資料を読み続ける事にする。

 メイはお茶を淹れて退室すると思ったが、何故か待機したままだ。


「メイ、オレは一人でも問題ないよ?」


「CPとの通信や検索の機能テストも兼ねていますので、お気になさらず」


離れていても通話や通信が可能か。或いは複数のアクセスに耐えられるか。様々な演算などを行っているのだろう。よくわからないけど。


「そう……なら、聞いていい?」


「どうぞ」


「ギルドの資料に、ダンジョンてあるじゃん?」


「はい。調べた限りでは、奥様知識の通りでしたが…?」


「未発見ダンジョンの発見報告料ってのが指南書に割と目立つように書かれているってことは、未発見のダンジョンがあるってことだよな?」


聞いた所でメイが答えを持っていない事はわかっていたが、つい、いつもの癖で正確無比な答えを求めてしまう。

 早くこの世界の情報を蓄えて、コンピューターが使えるようにして欲しいものだ。コンピューターに検索をかけて質問や疑問に対して打てば響く受け答えをして貰えないと、今後の生活が難しいかもしれない。


「……調べますか?」


新人冒険者に渡される指南書には、ギルドの理念や役割から始まり、ランクや昇格の仕方、年会費なども書かれていた。


「可能なら頼みたいかな」


「理由をお聞きしても?」


タブレットに資料としてあった冒険者ギルドの依頼書の写真を拡大させる。


「ダンジョン島の奪還、なんて依頼書が何枚かあるって事は、危険を侵してスタンピードで溢れ出た魔物だかモンスターを排除してでも取り戻すだけの価値があるってことだろ?」


「そうですね」


ばば様知識で、スタンピードが魔物やモンスターの氾濫である事も、ギルドと騎士団が協力して最大戦力をあてるほどに危険な事も知っている。

 島が人の住む島に激突したり、地上に墜落して放たれる可能性がないなら、人の居ない空の島など危険を侵さず放置しておけば良い。取り戻したいなら、それなりに理由があるはずだ。


「ダンジョン知識が間違ってないなら、ドロップアイテムとか宝箱があるかもしれないだろ?それを資金源に出来たら、変な心配しなくて済むし、元手がタダじゃん。誰かが探りを入れたところで、入った時はソコがダンジョンだとは知らなかった、としらを切れば良い。初めから口裏を合わせておけば、もしもの時が訪れたとき、慌てることもないしね」


異世界の品を売らなくて済むなら、余計な心配をしなくても良いし、資金源にしても怪しまれることはないだろう。商人としての商品にもなるかもしれない。


「……なるほど」


「未発見なら現地人との遭遇は無いから、どんな武器使っても問題ないだろ?多少壊したって、ダンジョンは時が経てば元に戻るらしいし。最悪、破壊しても未発見なら問題にはならないだろう。何が出てくるのかわからないし、魔法とか、えげつない罠の可能性は捨てられないから、危険なのはわかってるけど、踏破できたら丸儲け。それを元手に冒険者や商人になれれば暇潰しになるし、この世界の一員としてコソコソ隠れずに済む。堂々と異世界満喫の旅も悪くないかなーって」


「狂喜乱舞する姿が目に浮かびます」


「歓喜じゃ甘かったか…」


「激甘です。しかし、その提案は承認されました。ただちにギルドでダンジョンの情報を探します」


通信状況は良好なようだ。何よりである。


「おー、頼んだー。もし、ダンジョンに入ったら、攻略の様子が見たいから記録しといて。あと、入ってみたいから可能か検討して」


「……夜空様も毒されましたね」


「類友?」


類は友を呼ぶ。友達だないけど。


「血は争えない、の方では?」


親子だなくて、祖父母と孫だぞ。


「なら、覚醒遺伝だな」


後継ぎ以外の子を必用とせず、飽きたら次の女に手を出すロクデナシと似ているのは断る。

 後継ぎとスペアと言われた息子達は、正妻だった母親が引き取っていった。

 祖父は会長権限で代表を末の子に就任させ、父である男は子会社の社長に降格させた。

 重荷がなくなったと女遊びが増していたのでその内、病にでも倒れるんじゃないだろうか。滅茶苦茶、健康体だけど…。

 ちなみに、一緒に巻き込まれた双子は、正妻が妊娠中につくった愛人との子供だ。母親が病で亡くなる前に祖母を訪ね、双子の保護を頼んだと聞いている。

 母親には恵まれているのだが、入退院を繰り返す母親が理解出来ず、よく居なくなる母と置いていかれた子供という育児放棄的な印象が強く残っているらしく、祖母に引き取られたとき、母親にとうとう捨てられたと思ったらしい。何でだ、と突っ込みたい。

 まあ、悪い大人が近くにいた、とわかったのは母親の退院のない入院の時らしいけど。

 双子に母親との思い出をたくさん作る、を目標にした祖母のお節介で、思い出はたくさん残っているし、双子のファーストにデータは入力済みだ。

 資料の読みすぎで目がショボショボしてきたので休憩すると言って外に出てきた。

 元々、休憩の寛ぎタイムの筈だったし、オレはまだ他人に誇れるくらいのお子様の筈だ。何故、休憩タイムに資料を読み漁らねばならない。双子は完全に免除されているのに。


「……オレの世話と子守り、どっちが楽?」


双子に挟まれてスウィングベンチに揺られているシュートに問い掛ける。


「楽、と問われれば子守りですね。お二人は私に我儘を言われませんので」


「それもそうか。セカンドの機能に騎乗を追加したいんだけど」


「騎乗ですか?」


「そう。騎獣って言って魔獣みたいのを馬の代わりにしている冒険者が居るってあっただろ。馬より恐怖耐性があるから森の探索には必須らしい。荷物運び的な意味で」


「それは、耐性とは言わないと思いますが」


森に住むモンスターが森に怯える事はないし、余程のレベル差がなければモンスターと遭遇しても逃げ出したりはしないのだろう。


「そだね。ファーストには抱き抱えて走れる安定性が欲しいかな。耳で攻撃と耳で安定って、シュート的にはどっちが良い?」


「……耳の攻撃って何があるんですか」


「……そこはほら、手のように動く仕様を…?」


「初めから手は手で良いのでは?」


「……ですね。じゃあ、抱っこを安定できる耳で」


「それがよろしいかと。それで、どちらに?」


「ケイゴがハンモックを設置したって言ってたから、昼寝しに。メイとの話で疲れたんだよ」


通信で全て知っているはずだから、休憩の邪魔はしないだろう?


「……そうですか」


「そうですよー」


ヒラヒラと手を振り、木の影に設置されているハンモックに乗る。

 木陰をつくる葉の向こうに広がる空も、見えなくとも存在感を出している太陽も、肌を撫でる柔らかな風も、作られたものではない天然のもの。

 人類を生み育んだ母なる星、地球。人類が蔑ろにし、破壊し尽くした環境と生態系は戻ることはなく、生き物が住みにくくなった母星を捨て、宇宙に飛び出した。母星を大切にしなかった人類の自業自得なのに、自然を求める愚か者の(さが)を、こんなところで自覚する。


「風、気持ち良い…」


ゆらゆらと揺れると眠気を誘う。目を閉じるとすぐに眠りについた。




ばば様知識に毒され中

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