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誤字訂正 → 五右衛門風呂




 電力を確保したイーシャンが、エアバイクを持ってきた。オレの記憶通り、医療ナノマシンが装備されていたそうだ。

 イーシャンは医療施設(メディカルラボ)で空気中の成分を分析し、未知の成分を発見。目を輝かせ、エアバイクの充電そっちのけで分析に全てを注ぎ、新たな機体の起動までをも阻害してセバスを怒らせたらしい。ある意味、勇者だよね…。

 結果的には、体調不良の原因がその未知の成分であることがわかったし、肉体にも命にも危険はないらしいく、慣れの問題らしい。

 どういうことなの…?


 まずは祖父母を治療し、充電。

 次に幼子二人を治療し、充電。

 最後にオレが治療を施された。

 オレがシートから出るまで、実に5日も掛かったが、その間にいくつかの発見があり、情報が少しだけ集まり、日々更新され、生活環境は少しだけ整った。


「……匠シリーズ、凄いな」


祖父母はオレと一緒にテントで野宿すると言ったが、オレが全力で断った。オレの気が休まらないからね。

 二人は凄く不満そうだったが、新しい住居に移って貰った。乱雑に積み重ねられた岩山とは真逆に位置する自然豊かな場所だ。


「……おもちゃの家っぽい…」


何とも小さめの可愛らしい家が建っている。


「でも、模様が入っているみたいで可愛いじゃん。あっちは?」


島の中で一番大きな樹の枝に床が作られている。


「旦那様と奥様が自然を満喫したいとおっしゃったらしく、ツリーハウスを計画しました」


「未完成?」


「はい、難しいそうです。建築の知識が入るまではあのままかと」


「ふぅん」


未完成でもあそこに登ってみたい。島を見渡せる気がしたのでシュートに連れて行って貰った。登るための梯子はケイゴ達には不要だったからか、作られていなかったのだ。


「うわぁ………やっぱり、データと実際に見るのじゃ違うんだなー」


データで見た全体像と実際に見た景色とでは、全然印象が変わる。自分の眼で確かめる、その大切さを実感した。


「夜空様が心配された崩壊や陥没の可能性ですが、地盤調査などを行った結果、大きな問題はないようです。ただ、島の水平に異常をきたしていますので、地下部分の掘削部位を少し広げる事になりそうです」


「……それ、建設知識のある機体が通常起動してからにして貰える?」


「可能ですが、理由をお聞きしても?」


「あれだけ派手に発掘か採掘をするだけの価値がこの島の何かにあったなら、それが何なのか知りたい。まだ残っていて、更に取っても可能なら、今後使えるかどうかは別として、確保して欲しい」


「……わかりました。セバス様に伝えてみます」


「うん」


自分でセバスに言わなくてすんでホッとする。

 外の空気と風を堪能するように、目を閉じて深呼吸をしてみる。


「夜空様、少しご相談が…」


声から島に真っ先に上陸して以来、一度も姿を見なかったケイゴだとわかったので慌てず振り向く。


「……ケイゴ、職人さんだね」


「ははっ、環境作りが急務になりました」


スーツ姿から、タンクトップとねじり鉢巻にジョブチェンジしたケイゴが何故かスコップを手に立っていた。

 ケイゴの話によると、食料不足を懸念して、ばば様が希望していた育成を始めようということになったらしいのだが、その場所に悩んでいるのだという。


「ケイトリーが発見した水の出る不思議な石ですが、検査の結果、飲料可能とのことなのでこの島に持ってくることにしたんです」


ココでも問題なく空を飛べるエアバイクで周囲の警戒と探索を行っていたケイトリーが、島以外に浮かぶ半透明な石を発見した。その石は水を生み出し、空から地上に水を垂れ流していたらしい。水量が少ないのか、地上に到達する前に霧のようになっていたのだという。そこにあっても意味がないようにしか思えないので、不思議に思いつつ水質検査をしたところ、飲料として問題ない、寧ろミネラルたっぷりとわかり、役立てたいと思って持ってきたそうだ。ちなみに移動させる際の抵抗などは無かったそうだ。

 何故、水の珠から流れ出る水がミネラルたっぷりなんだ、とは誰も言わないあたり異世界ファンタジーに毒されていると思う。オレも言わないけどね、面倒臭いから。


「あの大穴に入れれば良いって案が却下されてしまって…」


水源があってゴミのない穴があるなら、そこを利用しようと考えるのは普通だろう。却下する方がどうかしている。


「最終的に池にするなら、と許可はいただけました。滝と川と水路をどう流して、何処に菜園を作るか悩んでいて…」


滝と川と水路、ね。祖父母はそんな面倒な希望を出したのか、と呆れる。


「滝は岩の山に作るしかないと言ったのですが……川や水路が短くなるからと却下されています」


空に浮かぶ島だけあって、貴重な日陰を作ってくれている岩山を見上げる。


「……いっそ、場所を変えて岩を組み換えたら?岩山じゃ危ないから土台的な感じで。下の森から土をもらって小さな丘を作ったり、段々畑みたいにしたら良いんじゃない?」


島全体の立体映像を出し、ケイゴに伝える。


「なるほど、良い考えですね」


お互い案を出しあって話し合った結果、地下に続く階段から岩山を離す事にした。岩を削った階段は、濡れたら滑りやすく危険だからだ。

 島が斜めに傾き土が崩れて無くなった岩肌が見える場所の境に岩を重ねて山を作り、人工的に滝を作る。

 岩山に土を盛り、小川を作る。その側に段々畑をつくり、作物を植える。釣りや水遊びも出来るような川にしたい。

 岩山の裏側になる岩場の方の滝は、迫力がでるように高低差を付ける。急流みたいにして遊べる場所も作る案はアッサリと採用された。


「アレも作りたい。ゲームで見た水の池……カルスト地形の黄龍溝?カレンフェルト?何て言ったっけ……えっと」


「ああ、アレですよね。無数の池が段々になって龍の鱗みたいに見えるってゲームで言ってたヤツ」


「そう、それ」


幻想的な雰囲気を醸し出す段々に広がる池は、本気で実物が見たくてケイゴとサディークが検索したが、現存しているものは近場にはなかった。


「規模を小さくすれば可能だと思います。岩の場所はあまり使い道がないので、作っちゃいましょう。キレイですから」


完成すれば、祖母は絶対に喜ぶ。

 また、川とは別ルートを引き、島の側面に溝を作って水を流すことで、島の端に寄りすぎての落下を防ぐ仕様にしたい。

 島の改造はコンピューターが起動してからにするようにとケイゴにも伝えると、シュートが伝える筈だった件もケイゴが引き受けてくれた。

 ケイゴと別れ木の上から降り、自分の部屋を確認する。

 一人部屋ではなく、双子との一緒の部屋だった。


「……だよねー…」


幼子を一人で放置は無いよな…と溜息が出てしまう。それでも、双子と夜空の部屋は壁でわかれているので仕方ないと諦めもつく。

 子供部屋はキッズハウスを六個使っているが、一つの部屋の中にキッズハウスが一つ入っているような作りだ。その一つが双子の部屋でベッドが置かれている。ドアを開けると双子のベッドが見えるように小さなソファーが置かれていた。残りの四個分がオレの部屋らしく、天涯付きのベッドと小さなソファーとテーブルが置かれている。

 祖父母の部屋は、キッズハウスを六個使った一部屋をそれぞれ使っている。オレと同じ天涯付きのベッド、テーブルとソファーしかない狭い部屋など、あの二人には人生で初めてではないだろうか。

 仮の住まいとしてのクオリティーは申し分ない、とオレは思う。

 キッズハウス一個をトイレとして使い、ケイゴとサディークで大岩をくり貫いて露天風呂を作ったらしい。岩ノ下に火を炊いて湯を温めるらしいから、釜茹でな五右衛門風呂の間違いじゃね?

 キッズハウス二個をキッチンとして使い、四個を集まった情報を纏める執務室に、九個をダイニングとリビングに切り替えて使うが、使わない時は全てが執務室へと変わる仕様だ。

 ラウム、頑張ったね…。 

 眠りを必要としないセバス達が夜通し執務室で情報を纏める為、広い空間が必要となったらしい。


「木の壁で出来てる家とはとても思えないクオリティーだね。快適だなー、本当に」


生活型ナノマシン、ラウムの本領発揮。

 部屋は狭いながらも壁が視覚の錯覚を利用するため圧迫感はない。ベッドふわふわの一級品。生活水準は異世界らしき場所でも落ちません。流石ですね。


「アトラ様とテトラ様のお世話は私がしますので、夜空様の眠りを妨げることはないと思います」


その為のドアの正面にソファーか。


「ふぅん、頼んだ」


時々だが泣きながら部屋に来るため、夜中に起こされて安眠を妨害される事があったが、シュートが一晩中傍にいてくれるならその心配は無くなる。



 イーシャンは医療施設で今も環境の調査を行っている。発見した謎物質を徹底的に調べたいらしい。

 序列三位のバレットが一緒に調べるらしいので、暴走しがちのイーシャンも大丈夫だろう。

 体調不良の原因であるらしいので、全力で応援したい。がんばれ。 



 ケイトリーはメンテナンスラボで必要な機体を順次起動させる準備をしている。

 サディークが手伝っているらしい。



 祖父の世話は通常通りコンラートが、祖母の世話はカリーナが行う。

 本来であれば双子の世話はメリーが担当するのだが、人手が足りない現状では、弟妹の世話もシュートにしてもらわねばならない。自分でやれることは自分でやるしかないかな。



 その他は情報収集と情報の精査、報告書を作っている。

 メンテナンスラボやドクターラボは、コンテナのまま家の側に置かれている。オレが何も言わなければ、地下部分になる洞窟トンネルを広げて、そこに入れるつもりだったらしい。

 何か、ゴメン…。

 シュートから説明を聞きながら自室でのんびり、は出来なかった…。


「夜空も出られたことだし、早速、街に行きましょう!」


「楽しみだな」


祖母のテンションが高い。未知の世界に興味津々のようだ。祖父のテンションも爆上がりのようで、オレが外に出るのを待っていたのが奇跡な気もしてくる。


「お待ちください!まだ危険です!」


「何が人体に影響を与えるかわかりません。まだ安静にしていて下さい」


ケイゴとイーシャンは必死で止めようとしている。


「城一朗様、我々も万全ではありません。無謀はお控えください」


珍しくセバスも反対している。


「何言ってるの!?この世界を知るためには実行あるのみよ!」


「言葉はワシ等が理解出来る。問題ない」


いや、大有りだろ。

 だが、悲しいかな。彼等は、主の命令には逆らえないのである。考え直して、とは言えるが、ダメだ、とは言えないのだ。


「心配いらないわ!きっと、他のチート能力でなんとかなるわ!」


「うむ、ワシ等がおれば何とかなるだろう。それがチートだ」


聞いたことも見たこともない言語を理解した事は確かに凄いかもしれないが、この世界がどういう文明で成り立ち、どんな常識を用い、何が違法なのかもわからない状態で、未知の世界に飛び込むのは危険行為だ。

 何より、メイとメリーの何とかして下さい!と言わんばかりの視線の圧力が凄い…。


「……身分証が無いから奴隷落ちって、ばば様知識の漫画で見たことあったよね」


「えっ…?」


オレの言葉に祖母は自分の好きな漫画がきっと脳裏に次々と浮かんだに違いない。


「街に入る税金が必要だけど、お金を持っていなくて犯罪者になった漫画もあったよね」


「……あった、な…」


祖父も仕事の移動時間などの間、漫画や小説を暇潰しに見ていただけあって、思い浮かんだ作品があったようだ。


「種族の違いで迫害されたり、主従契約してないからってシュートに何かされたら二人の事、嫌いになるよ?」


「「……」」


隷属の首輪、は異世界物語に頻繁に出てくるアイテムの一つだ。


「何より、チートだの何だので問題を起こして、あのクソ姫とその組織に存在がバレたら、許さないから、ね…?」


ニッコリ。


「……うむ。万里江、情報収集は鉄則だな」


「……そうですわね。セバス…?」


心情的には冷や汗ダラダラ……になってくれれば良いけど、オレごときの脅しじゃ無理だろうな。


「順調に収集できております。ただ、通信がまだ出来ませんので、時間が掛かります」


「通信か…」


この世界には通信のための惑星システムが全く無い。否、有って当たり前だった何もかもが無いのだ。

 機械が無い訳ではない。それらしいものが有ることはわかっている。

 だが、概念が違う。

 生き方も、考え方も、何もかもが根本から違う。

 何の為に何を使うのか。それすら違うのだ。


「システムが使用できるまで、どのくらい掛かる?」


元々、人類の文明の根幹たる惑星システムが届かない地に行く前提で、新システムを構築したコンピューターの準備を整えていた。

 一見、ただの樹木や石像にしか見えないが、様々なデータを取り込んでいるコンピューターも幸いな事にこの事象に一緒に巻き込まれている。


 樹木型は葉、枝、幹の全てがソーラーパネルで作られている。葉や花に至っては、風で揺れる事で風力エネルギーも生み出し、自らの稼働エネルギーを作りだし蓄えるタイプだ。

 満開の垂れ桜と普通の桜、葉の生い茂る木がある。木の根が足となって移動できる…らしい。


 噴水の石像も、ソーラーパネルが組み込まれており、人魚が座る水瓶から流れ出る水力でエネルギーを作り蓄えるタイプだ。これに関しては、いかがわしい小僧タイプを全力で却下した。だって、水質検査の機能がついていて飲み水として使えるってあったんだ…。


 単純に、未開の地のデータ不足で風か水のどちらが有利かわからなかったから両方購入したらしい。桜型は単純に花見用に購入されている。これだから金持ちはイヤなんだ……と言いたいが、今回は役に立つので文句は言わないでおく。


「まだ完全ではありませんので、一体だけ起動させています。言語情報がまだ不足しているため、集まった情報をどうすることも出来ません」


水の玉を保管させる意味でも人魚の石像型を起動させ、樹木型の方はエネルギーを蓄えさせているとのこと。自分で日当たりの良い場所を探して待機中なのだとか。


「電力が圧倒的に足りませんので施設(ラボ)も一部しか稼働出来ていません。通信は中継点をいくつか作らねばならないようです。この世界に違和感の無い姿にする必要があるため、完成までに時間が掛かります」


「情報を集めるにも、まずは言葉と文字を理解しなければなりませんし、纏めるにも時間が必要です」


「今のところ、最も重要と考えられる情報はあの二人の殿下と黒ローブの男達ですが、城にも潜入させて情報収集はさせています」


「今はとにかく、時間が必要ということか」


「ですわねぇ……チート能力、楽しみにしていたのに…」


まだ言うか…。

 そもそも、本当にチート能力ってあるのか?


「チート能力、ねぇ……セバス達が居てラボが揃っている時点でもうチートじゃん」


絶対に裏切らない超人が複数居て、命の危険はほぼ無いに等しい。

 更に超人を増やしたり直したり、建築や育成、料理などの専門職も作れる施設がある。

 人である自分達を治療する施設もある。

 しかも、家や遊び道具、食料も揃っているとなれば、生きていくのに苦労はしない。

 十分、チートだと思う。


「「……確かに…」」


オレの呟きに、祖父母も納得のあまり声が揃った。




日常がすでにチートに守られていた件

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