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AIや機械系の設定はふわっとしてます。

スルーしていただけるとありがたいです…。




視界いっぱいに広がる蒼い空



創られた青の向こうに広がる深淵の闇が消え


透けることの無い どこまでも続く澄んだ蒼


溶けて消え 蒼と一つになれたら


そんな倒錯的な思考さえ 抱かせる






地平線まで広がる木々の深い緑



区切られた場所にところ畝ましと だが計画的に成長を管理されて植えられた木々とは違い 力強く 雄大に広がる緑


同じ緑の筈なのに 一つも同じには見えない濃淡が 生命力の強さを表している





落ちていく恐怖が緩和できてしまうくらい 美しい色の広がりに魅せられる


死が訪れるとき 今一度 この景色が見たい


そう願うほど 魅せられた




これが初めての「好き」であったことに気付いたのは 随分と後の事だ








 ◇ ◇







「通信を拒否するなんて酷い!私と結婚するって言ったじゃない!この嘘つき!」


刃物を両手で胸の前でかまえ、男に向けている女。


「言ってねぇよ!お前のそういう所がイヤなんだよ!」


「ちょっ!わ、わたし、欲しいものを買ってくれるって言うから!誘われただけなの!付き合ってないし、好きなんかじゃないから!」


「おまっ、遊びだったのかよ!」


「うるさい!アンタの愚痴聞いてやった報酬でしょ!?キスだってまだ一度もしてないの!本当よ!」


「……消えて」


「二度と会わないから!連絡してこないで!」


全力疾走する女を慌てて追いかける男。


「テメッ、一人だけ逃げんな!」


「待ちなさいよ!話はまだ終わってないわ!許さないんだから!」


ナイフを片手で持ち、逃げる男を追う女。 


「火サスよ、火サス!」


「なかなか迫力があったなぁ」


楽しそうに覗きをしている老夫婦の後ろには、カートに山となった品物が置かれている。

 あの男女が此方側の通路に助けを求めに来なかった理由は、女がナイフを取り出した直後、()()()使()()()が此方側に繋がる通路に荷物満載のカートを置いて通れないようにしたからだ。


「……時代錯誤じゃない?アレも、コッチも」


三人が走り去るのを冷めた目で見送り、覗きをしている老夫婦に呆れ、背後の品物の山に溜息を吐く。

 人類が宇宙を自由に行き来できなかった時代に人気だったとされるキャンプ。その道具が積み重なっているのだ。


『古きよき時代の道具や遊びを楽しんでみませんか?』


そんな文言であらゆる時代の品が用意されているため、骨董品的な珍しい品を見に来るだけの客も多いらしく中々に混雑している。そんな中での修羅場は、祖父母の他にも興味深そうに見学する客がチラホラ見えた。


「珍しい事を否定は出来ませんね」


修羅場を前にしながら隠れる素振りを見せず、淡々と納品リストを見ながら手続きをしていたセバスは、タブレットをケイトリーに渡すと側にやって来た人物を促す。


「お手続きの間、最新機もご覧ください。付属品も充実しておりますので。では、新たな施設と機体の認証を行いますので、血液をいただきます」


従業員は、購入しなかった機体をそのまま置いていくことにしたようだ。選んでいた子供達を見守る祖父母へのアピールなのだろう。


「痛くありませんので大丈夫ですよ」


オレの前に両膝をついて機械を首筋に押し付ける女に溜息が溢れる。

 こちらが了承する前に、他人の手が襟元のボタンに延びているのは如何なものかと思う。

 確かに初めて会う担当者ではないが、犯罪チックだ。彼女の仕事であることは理解しているが、強引すぎる。


「……わぁ、ホントに痛くないなー」


マスター登録が行われる為だが、基本的に全員が祖父母のモノなのだから、オレは関わらないと思う。


「「………」」


ジッとオレを見ていた弟妹に対し、棒読みの台詞ではあるが、痛くないことを伝えてみるが、効果がなかったことはすぐにわかった。

 絶賛人見知り中な幼い弟と妹に足にしがみつかれて動けない事に溜息を吐きつつ、オレは母親の違う幼い弟妹の兄アトラの顎を上に向け、オレを見るように固定する。


「アトラ、良い子だからジッとして………大丈夫、痛くないよ」


「……」


僅かな怯えに潤む瞳は、それでも涙を溢さず、だがぎゅっとオレの手を握った。


「頑張ったね。テトラ、泣かないでオレを見て。痛くないよ。オレがウソを言ったことがある?」


小さく横に揺れた顔をソッと押さえて固定する。頬を流れる涙を親指で拭い、コツリと額を合わせて視線を交わす。


「オレを見て……怖くないから。ほら、もう終わった。痛くなかっただろう?頑張ったね、二人とも偉いぞ」


テトラが座るオレの腿に頬をあててぎゅっと抱きつく。そんなテトラの頭をポンポンと軽く撫でるように叩き、ぎゅっと腕にしがみついているアトラの頭を優しく撫でる。

 弟妹の血を採った女は一礼すると何処かに行ってしまった。相変わらず愛想のない女だ。


「失礼。私はこの先のステーションで商いをしております。神門(みかど)城一朗様と万里江様に是非、ご挨拶をさせていただきたく…」


寄る予定のない人工惑星の、そこそこ有名な人なのだろう。

 地位も権力も金もある祖父に名と顔を売りたかったのだろうが、祖父母に特攻は失策だと知らないらしい。

 セバスは無表情で、挨拶をしてきた男を対応している。


「……夜空様のお陰で、セバス様もイーシャン様もサディークも忙しくなりましたね」


護衛であるケイトリーが、修羅場を楽しんで満足している老夫婦の後ろから声を掛けてくる。


「オレのせいじゃないだろ?」


「そうですか?」


「そうだよ。未開の地に行くって決めたのはじじ様じゃん」


「お止めにならなかったのでしょう?」


「止めるわけないじゃん。オレも行く事になるなんて思ってなかったんだから」


「なぜ、ご自分は除外されると思ったのですか…」


「オレ、学生だよ?授業が残ってるし、試験も近いから勉強も課題も頑張っていただろ?」


「……なるほど、確かに…」


真面目に机に向かって勉強していた姿を思い出すケイトリー。


「授業の代わりに出された大量の課題も、一人だけ先に受けることになった試験にも、オレは未だに納得してないよ。試験勉強だって、計画して頑張っていたのに…」


成績によって小遣いの金額が変動するので、割りと真面目に頑張っていたのだ。


「しかし、未開の地での計画もたてていましたよね?」


「それは、試験が前倒しでオレだけ終ってからの事じゃん。試験内容を他の生徒に話してはならないから、一切の接触を禁ずって言われて休まされたからやることなかったんだよ。断れない旅行なら楽しむしかないでしょ。そもそも、探検を楽しみにしているのはじじ様だし、自然の恵みを楽しみにしているのはばば様だよ?」


「川釣りと乗馬は?」


「じじ様が喜ぶと思ったし、魚が釣れれば塩焼きが食べられるってばば様が喜ぶよ、きっと。若い頃に本物の馬に二人で乗ってデートしたってばば様から聞いたことがあったから、喜ぶかなって」


「水遊びと花火は?」


「サディークと現地遊びを探していたとき、キャニオリングを見つけて、楽しそうって盛り上がったんだよね。花火はみんな喜ぶでしょ?オレも楽しみ」


「そうですか」


サディークは若い青年姿で、学園に通うことになって与えられた護衛だ。

 キャニオリングの時だけ「サディークめっ!」と舌打ちしていたが、最終的には諦めが混ざったような脱力気味な声色の返答に、オレはムッとする。


「なに?事前に二人の企みがわかっただけ、対策がとれて嬉しいでしょ?」


内緒だ、とは言われなかったので、祖父母がアニマロイドを買いに行くオレ達に着いて来る理由が、旧時代のキャンプ用品を購入する為であると知った時点で、アンドロイドの序列1位であるコンラートに今後の予想を伝えた。

 祖父母がこんなことをしようとしているぞ、と。

 例えそれが買い物前日のオレの就寝直前であったとしても、情報提供である事には違いない。むしろ感謝されるべきだと思う。


「その通りですね。お陰で欲しかった施設(ラボ)が手に入りました。あれと、これも揃えて良いですかね、良いですよね?あとは、何が良いかな…」


うふふ、と嬉しそうなのは医療の専門職(スペシャリスト)であるイーシャンだ。彼の言う施設(ラボ)とは、医療施設(メディカルラボ)整備施設(メンテナンスラボ)のことである。実際の稼働確認を他の誰かに頼んで、イーシャンは余計な品物の受注しているようだ。


「夜空様!未使用の遊び道具が売ってましたよ!旦那様におねだりしましょう!」


興奮気味に駆け寄ってきたサディークは、空中散歩(ムーンウォーク)とホラーハウスを持っていた。

 空中散歩(ムーンウォーク)は、月面を跳ねるように移動していた宇宙飛行士の姿に似ていると名付けられた靴で、名の通り空中を歩くことが出来る。ただし、バランスをとるのが非常に難しく、多くの怪我人を出して大問題になった品だ。

 ホラーハウスは、幽霊の立体映像や風船ゾンビを自由に配置してホラー体験や疑似戦闘を楽しむ物だ。だが、会場内での犯罪が多発してしまい使用禁止になった、いわゆる失敗作である。


「……わー、忙しそー」


「……申し訳ありませんでした」


オレの嫌味にケイトリーが頭を下げて謝罪する。


「夜空様!セバス様に渡しておけって言われました!」


セバスに渡せ?そんな高難度のミッション、オレには無理に決まってるじゃん。


「見つけたサディークが責任もって渡して」


「了解です!ハンモックとブランコ、ボートとSL型の乗り物も許可を貰いましたので、手続きして貰ってきますね!」


ヒラヒラと手を振り、サディークを見送る。


「……オレ、一つも欲しいって言ってないけどね…」


果たして、サディークは祖父母に何と言って許可を貰い、セバスに何と言うつもりなのだろうか。

 まあ、金を払うのはオレではないし、遊ばないという選択はないのでどうでも良いかと思うことにしよう。


「……そういえばアレ、使い方を調べてある?修理の方法も。使うに当たって必要なものは揃ってるの?」


「はい、終わっています」


サディークとのやり取りの間、沈黙を守っていたケイトリーに問うが、答えたのは側に控えていたメリーだった。

 祖父母が買った旧時代のキャンプ用品の中でも、特に祖父母が楽しみにしているのがバーベキューだ。使い方、食材によって調理の仕方が違うかもしれない。


「食材、調味料も揃えました。奥様のご希望である育成に必要なものも揃えてあります」


「あー……本気なんだ、ソレ。育て方は?」


なぜか、祖母は突然、自分で様々な植物を育てたいと言い出した。その為に必要なものも既に揃えてあるようだ。


「調べました」


「調理レシピは?」


「必要なものは検索しました」


必要なもの、ね。不足だと思うな。


「成分分析機は用意した?」


「……必要ですか?」


「釣り上げた魚は食べる気満々だって言ったよね?他にも現地で食べられるものが見付かるかも知れないじゃん。じじ様の探検で」


「えっ、本気で食べるんですか?」


驚いているメリーだが、祖母が自然の恵みを楽しみにしている意図はそこに全フリだと思う。だって、わざわざ何十万もする惑星産の自然養蜂された蜂蜜を取り寄せるくらいだしね。


「あの二人だよ?折角だからアレもコレもって言いそうじゃない?流石に、命を危険にするような無謀な挑戦はしないでしょ。わからないって答えない限りは、ね。だからこそ、用意するべきだよ。無謀を実行する前に食べられるか聞いてくれるだけ、マシじゃない?」


「……確かに、そうですね」


「現地調達した食材を使って、じじ様ならカレーみたいなとんでもないモノを作ろうとか言いそうだよね。比較的、簡単に作れそうなリストをサッと答えられるようにしとくと楽なんじゃない?」


「その通りですね。あらゆるレシピを取得します」


オレの提案にメリーがアッサリと頷く。


「美味しかったら育てよう、とか、蜂がいたら養蜂しよう、とかも言いそう。キノコって危険なのが多いんでしょ?流石に米とか麦を作ろう、とは言わないと思うけど……言わないよな…?」


自分で言っていて、滅茶苦茶不安になった。


「……養蜂、ですか……農耕、酪農など、あらゆる知識も取得します」


「ピザ釜とか海鮮浜焼きとか卵かけご飯とか……言い出したらどうしようか。生卵って手に入るの?」


流石に現地で見付けた何の生物かわからない卵は食べたくないなぁ…、と呟く。

 そもそも、生卵って実物を見たことも触ったことも、食べたこともないんだよね。

 ばば様知識のマンガで、料理シーンの朝食の定番で良く出てくるのが目玉焼き。何をかけるのかで派閥があったとかなかったとか。究極の手抜き料理が、卵かけご飯…だっけ?確か、究極の理由が、米自体の品質と炊き方、卵自体の新鮮さと旨味、醤油にも拘るからだとかなんとか。手、抜いてなくね?


「……今から探してみますが、厳しいかと…」


「いっそ、ばば様の育成の一貫で、鳥を飼ってみれば?古風だよねー」


古風であってる?原始的の方が良いのかな?


「……その手がありましたね。すぐに鳥を調達します。ここなら可能ですので」


鳥……ニワトリ?烏骨鶏?ウズラ?ダチョウ……ダチョウって鳥?卵、食べられるの?

 ぶつぶつと呟きながら、端末の操作を始めたメリーは放置決定だが一言だけ。


「飼育しやすい種類ねー。専門的な知識がないと無理だからこそ、他にはないテーマだよね。自由研究に良いかも。調味料とかを作るのはどうかな、お酒の作り方も候補だけど…」


「お酒はダメでは?」


オレの呟きに反応したのは、オレ専属のアニマロイドであるシュートだ。基本はウサギの姿たが、人の姿をとる事もできる。その時は頭に長いウサ耳がはえるけど。


「そう?カクテルとか、自分で作ってみたいよね。漫画みたいに。きっと喜ぶよー」


「……承知しました」


諦めつつも、飼育の知識、調味料や酒の作り方からカクテルのレシピまでを取り込んだのだろう。


「で?……さっきから足元が光ってるのは、なに?」


「調べていますがわかりません。念のため、すぐに移動を…ッ!?」


他愛ない応酬を楽しんでいたのに、淡く光っていた足元の光が一気に爆発した。

 反射的に抱き付かれていた腕を引き剥がし、アトラを抱き締め、足にしがみついていたテトラを引き寄せた。


「夜空様…っ!」


目を閉じても瞼から光で焼かれるような、痛みにも似た光の攻撃から守るように、一瞬にしてモフモフな何かに覆われた。



火サスとは、火曜日の夜九時から放送されるサスペンスの二時間ドラマの枠の総称。

ここでは火サスじゃなくてただの痴情のもつれ

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