そしてその日は来る
ハム君を探して1週間。
当主や奥様も警備隊や私兵に命じ、捜索に協力してくれているがその進捗は芳しくない。
傘下の伯爵以下貴族達にも命じ、領外にも捜索が及んでいる。
こういうとき何でも出来る系の主人公なら、何か創作系の魔法でも発動して鼻で笑いながら見つけるんだろうけど、生憎俺にそんな力はない。
相手は子供なのだ。
いっそ発信器でもつけとけば良かったか?
ベルトにくっつけて今やオブジェと化した発信器を見ながらそんなことを考えた。
身内に発信器つけるってどうなのよ?
といってもそもそも使えるのが俺だけの装置を俺につけてどうするのか・・・。
自分に出来ることを探して、ないから考えが訳わからん方に向っていく。
出来ないものは出来ない。
それが真理だ。
ハム君がいなくても商売は続く。
奥様が鍛冶屋に特急でつくらせたガチャポンプは公爵家に配置され、またカルメル広場の井戸にもつけられた。
名目は公共サービスの拡充。
野外市場で人目に晒され、大きな話題になっているらしい。
傘下の鍛冶屋が増えたくらいに。
ミカギ産業の従業員も増え、ぶっちゃけ何人いるのか俺も把握していない。
孤児院の子供達が今や人を教える立場・・・なんか感慨深いものがある。
教えを受ける大人達は複雑な心境だろうが。
既にオソドクス1号店の建設も進んでいるようだ。
王都が鶏ガラ醤油に決まったので、オソドクス1号店のラーメンは魚介醤油になる。
人員派遣の話は王都含めて奥様に相談した。
奥様の方で対応してくれると言うので完全に任せた。
相談と言えばあの小屋にいたアイツらだ。
ザアカイと名乗った商人について当主からケイトリック公爵に連絡をつけた。
商会の会長というのは領地にとって税を納めてくれる資金源だ。
最初は知らぬ存ぜぬで通そうとしたらしいが、ではこちらで処分をと言ったら顔色を変えたらしい。
まだ悪いことをしていないし、この世界で転売はグレーだ。
これを罪とすると運送屋との関係がえらく面倒くさくなる。
ぶっちゃけ買ったものを他国に売る究極の転バイヤーだし。
だからザアカイさんを戻せとケイトリック公がまくし立ててきたから、「おや、彼をご存じないはずでは?」といったらケイトリック公は何も言えなくなったらしい。
当主とケイトリック公の話し合いは、結局ケイトリック領にも支店を出すことで落ち着いたらしい。
ミカギ産業はそれで儲かるがプロテスト公領はそれでいいのだろうか?
自分で言うのもなんだが、領地に人が集まっている理由としてミカギ産業の影響は大きい。
これについて聞くとまずミカギ産業から納める税は他支店もそうだが、一部プロテスト公領へ分配されるそうだ。
だからまず損はしないと。
加えて人が集まっているとは言え、聖国との外交を当主がやるのはかなり無理もあったらしい。
なんといっても今まで交流が亡かったからお互いにお互いの文化を知らない。
間にケイトリック公がいた方が円滑に進むのは目に見えているし、貴族間では目先の金より、どうやって恩を売るかの方が大事、とのことだ。
この辺りはよく分からないが。
ケイトリック1号店も魚介醤油になる予定。
南と北では獲れる魚が違うため、味も変わるし、位置的に対極にあるオソドクス公領の領民がケイトリック領支店に行くことは距離的にあまりない。
だったらということでこうなった。
店を出す条件としてハム君の捜索をケイトリック領でも行うよう言ってくれた辺りは流石当主だ。
オソドクス公にも依頼を出し、快く引き受けてくれたという。
感謝ではあるが・・・なんとなく見つからない気がする。
当主に何か転売について対応策はないか意見を求められた。
難しいと思う。
いきなり方でぎちぎちに規制したら運送屋が全部他領に逃げそうだ。
まず彼等を取り込む方が先だろう。
アララト農場の近くに工場を造り、彼等を雇って完成品を輸送して貰うのはどうだろう?
ミカギ産業の従業員は店舗にそろそろ人が入りきれなくなるレベルで増えているというし。
そうやって海外輸送も公爵家がトップに立って舵取りしていきながら徐々に規制を強めていく方向で。
生活が保障されている限り人間不満は言いにくい。
そう話したら後ろから肩に手を乗せられた。
振り帰ると怖い笑みを浮かべた奥様が立っていた。
後日ミカギ工場の建設が決まった。
人は慣れるものだ。
それとも俺が薄情なのだろうか?
ハム君のいない食卓にも寂しさはあっても違和感はなくなった。
時々悲しそうな声を上げるキュオーンと共に仕事の合間に捜索に出ているが、これといって手掛かりは見つからなかった。
暗い雰囲気を少しでも変えれたらと、新規事業を当主と奥様にプレゼンした。
娯楽事業だ。
美術家や音楽家、彫刻家は貴族のお抱えになっているか、成れなかったものはその技能を生かして他の事業で活躍している。
例えば音楽家は声量拡張をつかって拡声器の代わりに指示を復唱したり。
彫刻家は大工職人と手を組んで家用の石を削っている。
美術家は店の看板を書く人が多いらしい。
余り人数の多い職種でもないこともあって目立たないが、やっぱり職からあぶれている人というのはいるらしい。
貴族社会だから貴族に従って働く、というのがこの世界の常識だ。
商会も貴族傘下についているのが殆ど。
納める税が大きければ影響力も大きくなり、最終的にはピラト商会みたいになることもあるけど。
だからここには美術展とかステージとか、そういうものがない。
彼等は工業職だ。
自分たちの作品を自分達で公開し、金を得るという商売的考え方をしないし、それを言っても良さそうな貴族達は自分で彼等を抱えているから、民衆の娯楽の少なさに気付かない。
領に活気を。
まずは各店の食堂である一階にステージを。
公共広場が見て楽しめるよう彫刻家を新たに雇い広場を彩る。
ゆくゆくは野外市場で特設ステージを。
絵もその際に並べ、商品として売る。
新たな才能の発掘もきっと出来る。
奥様は即決で賛成。
当主も少し悩んだ後、賛同してくれた。
新規事業とはいえ、あまり俺のやることは今回はない。
後日職にあぶれた彼等を紹介されたので、ディクションの入っていたタブレットにダウンロードされた曲や、各サイトで使われていた絵、彫刻の写真を見せた位だ。
これでこの世界にないセンスに開花するものが現れれば、少しはカルメル広場も活気が湧くかもしれない。
最近野外市場の勢いは大分落ち込んでいたからな・・・。
ミカギ産業の商品がヒットしたことで生まれた悪影響。
他の店の商品が売れない。
当主が資金援助して買い取っているものの野外市場の景気が悪くなっていたのは誰の目に見ても明らかだった。
このままでは運送屋が来てくれなくなると言う懸念も出るほどに。
娯楽作戦が上手く嵌ってくれれば、あるいはその救いの手になるのかもしれない。
そうして日々を過ごし、ハム君がいなくなって1ヶ月が経とうというとき。
俺のベルトの発信器が作動した。




