偉人ヘリワード
スローンズ侯爵家を出て、俺達は王都に向うことにした。
レアさん曰く、東側のスローンズ侯爵領は王国軍もいるし、しばらくは何とかなるという読み。
加えて、モンスターが王都に向っているならば、王国軍への加勢こそ今必要なことだと。
セシリアさんもカタリナさんもウンウンと首を縦に振っていたし、俺もそっちの方が良いと思った。
何故って馬や馬車に乗ったままモンスターに出会った場合、多分馬と馬車を見捨てなければならなくなるからだ。
見通しの良い野外ならともかく、街中でモンスターに襲われる、つまり先手をとられた場合、俺は多分自分のことで精一杯。
馬まで守る自信がない。
なので馬を誰か信用できる人に保護して欲しかった。
それにカタリナさんも帰って家族を安心させた方が良いだろう。
そんな王都への道中。
通り過ぎる町並みが閑散としていて、まあなんというか・・・。
実際こういうときはどうしたら良いんだろうか?
国外へ逃げるといっても、この世界じゃそれだって命がけだ。
運送屋なんかは貿易のため、国家間を行き来するらしいけど、必ず護衛はつけてる。
ごっそり兵力減らした聖国で、民間の護衛に割く兵力はないだろうし。
今ミカエスト王国に来てる人達にもおそらく逃げてきた人達がたくさんいて、それなりの犠牲が出たんだろうな・・・。
今までバンバンやって片付けてきたから、あんまり実感なかったんだけど、モンスターってやっぱり時には国家すら揺るがすおっかねー災害なんだな・・・とか、ふと思ってみたり。
他のメンバーも深刻な顔してる。
「こんなときヘリワード殿がいたら・・・。」
ヘリワード?
誰だろう?
「魔法戦術の革命家ヘリワード・フッド。随分と懐かしい名前ですね。」
ジャンヌ博士、やっぱりご存じで?
「私が生まれたころから暫くの間、吟遊詩人達が流行のように唱った人物です。私も物心ついた頃に何度か聞いたことがあります。」
「魔法戦術の開拓者にして、ノースガブリ聖国軍の実質的な指揮者。天才とすらいわれる頭脳で功績を残した我が国の誇るべき偉人です。ヘリワード殿が今いたならば・・・或いは父を止め、今こうはなっていなかったのではないかと・・・」
「先を予測するのが非常に上手い方だったと言われていますね。フッド郷一人でこの状況をなんとかできるとは言いませんが、確かにフッド郷ならばテンプルナイツの派遣に反対して頂けたのかもしれません。」
「私はよく知りませんが、とても頭の良い方だとは伺っていました。魔導師の使う四元の有効な使い分けを、モンスターの種族ごとに分析し、魔導師の継戦能力を底上げした方と。また御自身も大変優秀な魔導師だったと伺っています。」
カタリナ王女、レアさん、セシリアさんが三者三様にヘリワードとかいう人を語る。
何かすんごい褒めちぎられてるなヘリワードさん。
・・・で、今いないんだ。
「ええ。父が処刑したので。」
え、何したのその人?
「わかりません。聖国内でも極秘とされ、その理由については父とその側近しか知らないのです。ですが・・・」
ですが、何よ?
そこで止まられると気になるわ。
「マナ、その頃の吟遊詩人の詩ですので、あくまで噂ですが・・・フッド郷は聖国における禁忌を犯した、といわれています。」
「禁忌?」
何その厨二なヤツ?
「なんでウキウキしてるんですか。」
ごもっとも。
「ええ、私も噂しか知りませんが・・・禁忌を犯したヘリワード殿と奥方イザベル殿を父は聖国として見過ごせないと、示しの為に処刑命令を出しました。いち早くそれを察知したヘリワード殿は家族を連れ、人質の代わりに聖国の秘宝である神剣を盗み、国を出奔。聖国の追っ手を振り切るため敢えて大陸中央へと馬車を走らせました。」
正しい決断かどうかは多分に分かりかねるが・・・。
「目指すは敵国サウスラファ皇国、しかし聖国は追っ手をだし、フッド郷の思惑は潰えた。自身を犠牲に家族を逃がし、聖国軍に立ち向かうフッド郷は、単身軍を相手に激戦を繰り広げる・・・吟遊詩人の詩の盛り上がりどころですね。」
へー、相変わらずよく知ってるなジャンヌ。
つか一人で軍を相手にしたって・・・すげーな・・・多分めっちゃ誇張されてんだろうけど。
「フッド卿は結局軍に討たれるも、逃げた妻と2人の子供は追っ手を振り切りランドベルの森へ・・・その後彼等がどうなったのかは誰も知らない。というのが大体のあらすじです。」
誰もしらないって・・・女性1人と子供2人でモンスターの巣窟入ったんじゃ、お先は見えてそうなもんだが。
しかし、吟遊詩人ね。
こう聞いているだけでも男の子の心を揺さぶる話ってのが、こういう残酷な世界じゃ実際にあるもんだ。
前に娯楽がねえって迷ってたことがあったけど、一度吟遊詩人の詩とか聞きに行くのも良いかもしれない。
何なら店の客寄せとして雇うのもありか?
「ここからが北の領地、王領となります。」
レアさんの言葉におっとと皆前を向く。
ヘリワード談義で盛り上がってたら、スローンズ傘下領を抜けたらしい。
それから宿に泊まったり空いた家を使ったり(誰もいないからしゃーないよね)、しながら王都へ到着した。
素人が見て分かる程の超警戒状態。
前線より南がどうなってるのか、見るのが怖いよ。
つか流される用に来たけど、俺帰っても良かったんじゃね?とか今になって思う。
スローンズ侯に農場も港も完備されてると聞いて、ついつい欲のまま来たけど、これアカン。
兵の皆様がめっちゃ殺気立ってるもん。
カタリナ王女見て皆表情変えるけどね。
空気を読んでカタリナ王女の従者ポジションに。
おかげで、不躾な視線は送られる者の不審者扱いはされなかったけども、ちょっとね。
場違い感が凄い。
「では王城へ向いましょう。」
行ってらっしゃい。
「いえ、マナウタ殿。是非同行して頂かなければ。」
ですよね。
ノースガブリ聖国王城。
一応無事。
「おいこっち緊急だ!!直ぐに処置を!!」
「僧侶の数が足りない!!僧侶は重傷者を優先しろ!!軽傷者には薬で対応しろ!!」
「薬剤師ももう数が足りない!!民間にいないのか!?かき集めるんだ!!」
うわー・・・。
城の中は負傷者で一杯。
守りの高い王城のホールが病院みたいになってる。
「カタリナ!!!」
そんな修羅場に響き渡る声。
皆の視線がこっちに集まっている。
「御父様!!」
ってことはあの人が聖王様ね。
国王、聖王、尊皇、天帝。
国ごとに王様の呼び方が違うというこの面倒くささ。
無礼があっては困ると来るまでに教えられたけど、間違って国王とか呼びそうだ。
でその国・・・じゃなくて聖王様、いい歳して階段を駆け下りる。
足下が危なくて見てられない。
カタリナ王女も階段を駆け上がる。
そして親娘の抱擁。
感動的かもしれないが怪我人の処置をしている方々は手を止めない方が良いと思う。
ほら、患者の皆が早くしてって顔でみてるでしょ。




