戦う理由
今日はジャックとの約束の日だ。
といっても俺じゃなくお嬢様の。
アグネスさんに気を使ったのか、モンスターと戦いたかったのかは知らない。
当主様が止めようとしていたが、無駄だった。
「お父様!!民の生活を知らずして領を治められるのですか!?」
お嬢様が治めてるわけじゃないし、大体の民はモンスターと戦ったりしないのだがどうでも良い。
お嬢様だし。
問題は旅程が5日位かかるということだ。
家出来たばっかりなんだが・・・。
いない間は屋敷の侍女の方々が見ていてくれるらしいが、任せて良いものだろうか。
所々にこの世界ではオーパーツみたいなのが並んでいるのだが。
掃除くらいはして欲しいが、あんまり余計なもの触んないでね。
ワンコロ、出会って間もないが暫く君の世話は侍女に任せる。
「わふー。」
どうした、寂しいのか?・・・あ、餌か、なるほど。
薄情もんが!!
ジャックとの待ち合わせはカルメル広場。
向うはゲネサレト湖。
東の国の西に位置するプロテスト公領地は、残念ながら海から遠い。
王都まで3日だしね。
海までもっと。
そこから船出して云々かんぬんすると旅程が10日程になってしまう。
流石に公爵家のお嬢様にそれは許可されまいと、ジャック氏も気を使ったようだ。
農業センターに向かい、南の湖に運良くダンクルなんちゃらの出現と討伐依頼があることを確認。
で、屋敷に連絡を入れてきたと。
俺にとってもありがたい気遣いだが、といっても十分長い。
一番気になるのはトイレだ。
家に設置したのは、持って行かない。
車が使えないと、いつ発電しようかという問題が生じる。
それ以上に5日の為に持って行って、万が一壊れたら最悪だし。
やはり、ポータブルバイオトイレは自分の為に用意すべきだな・・・。
馬車を走らせ南へ向う。
向うほど街は辺鄙になる。
領主も公爵、伯爵、子爵、男爵と格落ちしていくそうだから、そうだよねって感じだ。
考えると馬車で3つの領地を横断する訳か・・・。
2日で進む距離を80km位と仮定すると、一両地直径26km位?
・・・計算してみたものの、これを広いと考えるべきか狭いと考えるべきかはよく分からん。
馬車の中ではアグネスさんが一人ハッスル。
戸惑うジャックにキャーキャー言いながら話しかけているのを最初は見ていたが、途中で飽きて寝た。
休憩を入れながら進み進んで時刻は夕暮れ。
「今日はここに宿泊しましょう。」
ジャンヌの判断で宿に入った。
宿代はお嬢様の奢り。
太っ腹だね。
一応この辺では高級宿らしい。
部屋はそれなり。
食事と風呂は諦めている。
部屋の都合とお世話の都合でお嬢様とアグネスさんが同部屋。
ジャンヌが個室。
俺とジャック氏が同部屋。
まあ、夜中襲ってくるような悪い人じゃなさそうだし、寝るくらいいいでしょう。
ベッドに入って寝ようとしたら向こうから話しかけてきたので雑談に付き合う。
「大変そうだな、あー・・・。」
「名前ならマナウタですよ。そのままマナウタと呼んで下さい。」
「変わった名前だな・・・改めて、ジャックだ。俺もジャックでいい。宜しく。」
「ええ、宜しく。」
「それで、マナウタは護衛か何かなのか?」
「見えません?」
「ああ・・・いや、そういうわけじゃない。スマン。・・・ただもう一人の銀髪の姉さんの方がずっと強そうだとは思った。」
「実際そうですから何とも言えませんがね。俺は・・・何なんでしょうね?」
「へ?」
「いや、自分の役割を分かっていないというか・・・多分護衛みたいなもんだとは思いますが。」
実際、念のための同行という考えてみたら謎の依頼。
俺って何?
「そ、そうか・・・まあ、いいけど。少なくとも俺は助かってるしな。」
「へ?」
「女ばかりに囲まれて、とか、気が休まらない。」
「ああ・・・それは分かりますね。色々気使いますし。」
「助けてくれた公爵家お嬢様のご依頼とあっちゃ無碍にはできないと思って引き受けたが、正直乗り気じゃなかったからな。あらぬ噂を立てられたりしたら、どうなることかと思っていたが・・・。」
「俺は証人ですか?」
「そっちも期待してる。っていうと何だけど・・・仲良くしたいところだ。」
「俺も険悪になる気はありませんよ。」
「じゃあ、馬車でも話しかけて欲しいな。」
「アグネスさんをかき分けて?」
「ああ、かき分けて。」
「無理でしょ?」
「無理か?」
なんとなく2人で笑い出した。
イケメンは爆死すれば良いとは思うが、コイツは生きてても許せるかも知れない。
「そういえば、なんでダンクルなんちゃらの漁なんてやってるんです?」
「うん?」
「危険だって聞きましたけど。」
「ああ・・・別に好きでやってるわけじゃない。稼ぎがいいからやってるだけだ。」
「何か入り用でも?」
「妹がな・・・。」
そう言ってジャックは目の辺りを手で払う。
「目の病気?」
「ああ、治すには高い薬が必要でね。」
「それで危険モンスター専門の漁師を?」
「ああ、本当ならさっさと本命に行けば良いんだが・・・。」
・・・どういうこと?
「俺にもっと力があれば、生命の実を獲りに行けばいい・・・。」
なるほど・・・それ・・・俺後1個持ってるな。
「まあ、そうは言ってもドラゴンの巣なんて行けないからな。じゃあ、買うしかないって金貯める為に、狩れる獲物を狩って粋がってる臆病者さ。」
イケメンは自嘲も絵になるな。
「最近、王女の一人がパナシアで病気を治したって噂だし、・・・どこかに売ってはいるんだ。」
そういえば公爵が3つほど持ち帰ってたような。
「・・・この話はやめよう。」
うーん、ここで生命の実を出したらどうなるかな・・・。
俺にとっても、経済的な切り札だ。
やめよう。
出会ったばかりの相手に渡せるようなものではないし、渡すにしても公爵からパナシアを一個手に入れる方が良いだろう。
「スマン、話が暗くなっちまった。」
「いえいえ。こっちこそ何か言わせたみたいで・・・。」
「いや、それこそ気にしないでくれ。さて明日も早い。そろそろ寝ようか。」
「そうですね・・・。寝坊したらお嬢様に何を言われるか。」
「心労が絶えないな。」
「ええ、早く解放されたいですよ。」
「はは、栄えある公爵家の護衛殿の言う台詞じゃない。」
いや、俺公爵家の人間じゃねえけどね・・・厳密には。
「まあ、ダンクルオステウスを無事に釣れれば、少しは良い思い出になるだろう。」
「俺あんまり釣りには興味がないんですが。」
「・・・それはともかく、ダンクルオステウスの肉は絶品だぞ?」
そうなの?
「ああ保証するよ。本当はダンクルオステウスを焼いてオリザと一緒に口に頬張るともっと美味いんだが。この辺じゃ難しいからな・・・。」
「オリザ?」
「知らないか?東の島で栽培されている穀物なんだけどな。茹でて食べるんだ。一つ一つ小さい白い粒で、器にこう、ガッと盛ってな。それ自体が噛むと仄かに甘いんだが、何より魚との相性が抜群 「ちょっと待ったー!!!!」
思わず被せてしまった。
「お、おう、どうした?」
「それって・・・それって・・・。」
「うん?」
米じゃん!!??




