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当主の御帰還

衛生環境というのは人類の命題である。


つか日本人の俺、よく今までこの世界で病気にならなかったな。


身体異常耐性のおかげだろうか?


朝いつもよりスッキリと目が覚める。


それじゃあ、今日は・・・と続けたかったが、夕方頃当主が帰ってくるらしい。


面通しをするよう言われたので、予定変更。


午後しか活動できなくなったからな・・・時間が思いの他ない。


昼食後行動開始。


庭でトンテンカンテン作業しているゴモラさんに御挨拶。


「お久しぶりです。」


「おう、あんときの兄ちゃんか?」


会話をしてみたい気もしたが、お互い多忙な身。


軽い挨拶だけに留めた。


馬車でウジェーヌの所へ。


行って帰ってくるだけならそんなに時間はかからんだろう。


今までの成果を渡しに行くためだ。


素材と完成品を渡せばこなしてくれるわけだから、まあ出来上がった後で考えれば便利だ。


一見決め決めのジャージを着て、いざ出発。


え゛、お嬢様が着いてくんの?


いえいえ、嫌なわけじゃないですよ?


ええ、本当に。




「この間見せてもらったものとは違うようだけど・・・うん、いいねぇ。」


いちいち色っぽいんだよな、この人。


ジャンヌに素材の取得方法を書いて貰った羊皮紙を渡す。


「できれば、これらを定期的に作って送付して頂けますか?量は・・・」


そして唐突に始まるお嬢様とウジェーヌの交渉。


えぇ・・・。


「もし、条件を呑んで頂けるなら、これらの作成方法は我々からは秘匿としますわ。」


「それってのは。」


「ええ、ウジェーヌさんの専売、ということですわ。」


「へえ・・・。まあ、こっちとしてはありがたい申し出だがねぇ。それで、そっちに何のメリットがあるんだい?」


「石けん、シャンプー、リンス。確実に今後売れ行きを伸ばす商品となりますわね。それを優先的に安く手に入れられる。十分なメリットですわ。」


「まあ、御貴族様にとって美しさも武器か・・・なるほど。とはいえ、そんなに売れるかねぇ?」


「ワタクシどもが買い上げる量だけでも利益にはなりましてよ?それに効果の程は、ワタクシの髪を見て頂ければ分かりますわ。」


見せつけるように髪を持ち上げるお嬢様。


ああ、こういうシーン良くシャンプーのCMでみるわ。


「ふっ、確かに。それを見せられたら何も言う余地はないねぇ。」


決まったっぽい。


「それに、アンタ方とはもっと仲良くして置いた方が私にとっても得のようだし・・・。」


そんな目で急に見られても・・・イヤン、照れちゃうー。


「では。」


お嬢様の差し出した手をウジェーヌがしっかりと握り返す。


「ああ、良い商談をありがとう、お嬢様。それとそこのボウヤ?」


「はい?」


「他にも色々知ってるみたいだねぇ。また欲しいものがあったら遠慮なく持って来な。できる限り力になるよ?」


「あ、はい。助かりまーす・・・。」


歯磨き粉に衣服の潜在に食器の洗剤。


確かに欲しいものはたくさんある。


石けんとシャンプーとリンスは俺の分も廻してくれるというし。


この後の住居が何処になるのか分からんが。


いい着地点じゃないだろうか。




屋敷に帰ると庭に小屋が建っていた。


何だろうと思ったが、侍女が入り口まで迎えに来たので一旦スルーで。


「先ほど御当主様がお帰りになりました。」


すぐに向えって事だろう。


「では、マナウタ様。」


ジャンヌに案内され当主の書斎へ。




「其方が、かのドラゴンスレイヤーか・・・。」


ちょびひげバッチリ決めた如何にもなミドル。


おっさん界の頂点みたいな人がいた。


「みか・・・じゃなくて、マナウタと申します。」


そういえばこういうときの挨拶って教えて貰ってないな。


まあ、頭下げときゃ良いでしょう。


「ふむ、そう畏まることはない。其方は我が家の恩人と訊く。生命の実だけではなく、先日紛れ込んだドラゴンも見事討伐したと聞いておる。」


「あはは・・・。」


親父の教えを忠実に再現する。


曰く、偉い人の前で何を言って良いか分からないときは愛想笑いを浮かべておけ。


「しかし本当なのかね・・・。失礼ながら其方の天職は・・・その。」


急に疑われ始めた。


「お見せしましょうか?」


「うむ?何を・・・。」


「そのドラゴンを。」


ちょっとイラッと来たのもあったが、そんなことよりこれはチャンスだ。


俺的にはさっさとドラゴン素材を金に換えたい。


ていうか、いくら格納しているとはいえ、2週間も爬虫類の死骸と一緒に生活してたのだ。


我ながらどうかと思う。


「よいのかな?」


当主様、乗り気の模様。


「ここでは狭いので、そうですね・・・御庭で如何でしょう?」


「ふむ、すぐ行こう。」




庭に出て、ドラゴンの死体を出現させる。


ティラノドラゴンとケツァコアトロス。


「こ、これは・・・。」


固まった当主様。


こういう人を見ると、指で突きたくなるのは俺だけだろうか?


あ、白目剥いてる。




何も話さなくなった公爵が口を利いたのは夕食のときだった。


「お父様、マナウタ様の凄いところはそれだけではなくてよ?」


「どういうことだね、マリア?」


「庭に新しく建てた小屋はご覧になりまして?」


「ああ、洗い小屋とか爺が言っておったな。」


「食後にあの小屋に行けば分かりますわ。」


「食後?」


「ええ。マナウタ様の知識でできた画期的な場所ですのよ?爺も侍女も屋敷の者達は既に使い方を知っていますから、聞きながら一度試して、その素晴らしさを堪能して下さいな。」


「ほう・・・いや、分かった。」


顔が戸惑いしか浮かべていないから、何のこっちゃって感じだろう。


「ともかく、生命の実の獲得、ドラゴン討伐、共に大儀であった。改めて礼をいう。」


急に話を振られてびっくりだが、俺もいい加減つけておきたい話だから、丁度良い。


「あー、いえ、どうも。」


「して、このドラゴンはその、如何なさるつもりかな?」


「勿論、売ろうかと。」


「なん!?それは、その・・・農業センターに売りに行く、ということかな?」


「ええ、いくつか欲しい素材があるので、場合によっては持ち帰りますが。基本は金に帰るつもりです。」


「そ、そうか・・・いや、ダメではない。ダメではないのだが・・・。」


「どうかされました?」


「いや、そのこのような貴重な素材を急に大量にばらまけば市場が乱れる。」


ほら見たことかとジャンヌがこっち見てやがる。


「そうは言われましても、貧しい身ですので・・・。」


ただここは引けない。


俺には金が必要だ。


できれば、家を建てられる位。


小さくても良い。


清潔でトイレと風呂完備のマイホーム。


「当座の金ならこちらから援助しよう。いや、何か欲しいものがあるなら言ってみたまえ。」


「それは・・・。」


「何か言い難いモノかね?」


「ええ、決して安いモノではなく・・・。」


「ふむ、遠慮せずに言って見たまえ。これでも公爵だ。それなりの財がある。」


なんかもはや公爵が払う流れだ。


いいのだろうか・・・言うだけ言ってみよう。


「家が欲しいのですよ。」


「家・・・どのような?」


「そうですね・・・」


訊かれた以上答えよう。


公爵に俺の思う家を伝えてみる。


「そのようなもので良いのかね?」


「へ?」


「いや、ドラゴンを売ってまで欲しがるものと言うからどのようなモノかと思ったのだが・・・。」


・・・家って安いんか?


いや、まだ伝えることはある。


「できれば馬房と馬も欲しいのですよ。といっても乗馬はできませんが、いずれはと思っています。」


「ほうほう・・・それだけかね?」


「いや、あと場所にも拘りがありまして。」


「というと?」


「えー、治安がよくて泥棒が入らない。あ、井戸は2つ欲しいかな。あと水を流せる場所が近くにあると。」


「ふむ・・・なるほど・・・。」


当主様なんか考えていらっしゃる。


余り急いて機嫌悪くされても嫌だし、ちょっとほっとこう。




身体を洗い、寝ようかなって思って部屋に向う。


ひとまず今日も屋敷に泊まって良いらしい。


家ができたならともかく、ここを出て行けば暫くキツイ生活になる。


ありがたいことだ。


と思ってたら、ジャンヌに当主の書斎に行くように言われた。


何だろう?




「マナウタ君と呼んで良いかな?」


「ええ。」


急になれなれしくなったのは何故だろう。


「君の家についてだが、どうだろう?屋敷の庭に建てるというのは?」


「・・・・・・・・・・・・はい?」


この提案は意外だった。


「東側には丁度井戸が2つ並んでいるところがある。下水もあるし、何より治安は何処よりもいい。条件にはぴったりだと思うのだが・・・。」


言われてみれば・・・確かに。


「いや、ありがたいご提案ですが・・・よろしいので?」


俺、平民ですが。


というかまだこの展開に頭が付いていかないのですが。


「もちろんだ、家はこちらで希望通りのモノを用意しよう。」


マジで?


「ジャンヌには移住後も面倒を見させる。それで、どうだろうか?」


スゲー好条件来た。


なんで?


わからん、分からんがこれは乗るべきビッグウェーブだ。


「あ、ありがとう御座います!!」


とはいえ、流石に貰いすぎかな?


こういうとき遠慮しないのも良くないが、この条件は手放せない。


・・・どうしよう?


そうだ、お返しだ。


「そうだ、当主様。御礼といっては何ですがこちら、貴重なモノと伺いました。宜しければお納め下さい。」


元手ゼロですがね。


渡したのは金のリンゴ。


どうでしょう、当主様?


あれ?


・・・良く白目剥く人ね、この人。


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