ドラゴンだからね
青い空に赤い線が延びる。
「ド、ドラゴンだーーーーーーーーー!!!」
誰かが叫ぶと同時に散り散りに逃げる私兵団。
「う、うあーーーー!!」
「なんでこんな所に!?」
「良いから逃げろ!!逃げるんだ!!」
あ、一人転けた。
って生意気なアイツだ。
立ち上がってまた走る。
人のこと言えないが、足遅くない?
お嬢様を脇に担ぎジャンヌも走る。
ラグビー選手とボールみたい。
そのままジャンヌは俺のいる納屋の窓を飛び越えタッチダウン。
「シュメン!?」
お嬢様は納屋の床とディープキス。
「マナウタ様!!」
いや、呼ばれてもよ。
飛んで火を噴く飛行物体。
俺が見たドラゴンモドキのティラノちゃんじゃない。
ガチなヤツだ。
「ドラゴンなのです。火ぐらい噴きます!!」
いや、お前が何言ってんだ?
「ティラノドラゴンだって噴いたでしょう!?」
え、アイツも噴くの?
俺、運良かったんだね。
今それが分かったところでどうしろと?って話だが。
私兵団達はもう誰も残ってない。
逃げ足早っ!!
「つか、なんであんなんがここに?」
「おそらく奴等を追って来たのでしょう。」
そういってジャンヌが指を指すのはデカいカラス。
一羽めっちゃジタバタしてる。
でも、飛べない。
なんか哀れだ。
空飛ぶもう一羽は仲間を犠牲に全力で飛んで逃げた模様。
薄情だなー。
『GYAAAAAAAAA!!』
怒りの現れかドラゴン再度空で火を噴射。
どういう身体の仕組みなのか。
「首を斬った奴の口元にこれが付いていました。」
ジャンヌがそう言って見せるのは白くて硬い何か。
いつ拾ったのよ?
差し出すから仕方なく手に取る。
「これ・・・卵?」
「おそらく、ドラゴンのものではないでしょうか?」
なるほどね、・・・って何してくれてんだよ・・・。
「つまり子供殺られて怒った親ってことか?」
「おそらく・・・。」
おそらくといいながらジャンヌの顔は確信に満ちている。
「ドラゴンたちは基本ランドベルの森から出てきませんから。」
知らない単語がまた出てきた。
まあ、確かにあんなのがほいほい人里出ていたら聖剣士が何人いても足んなそうだ。
どこぞの宇宙人と違ってバーゲンセールはやってない。
「このままおとなしく帰ってくれれば良いんだけど。」
「それは多分難しいかと。」
ジャンヌが再度カラスを指さした。
ああ、まだ恨みの対象がいるわけね。
なんで罠にはまっったんだよアイツ・・・。
「八つ当たってもしょうがない。何か考えないと。」
「あの謎の棒きれで墜とせば良いのでは?」
綺麗な顔で棒きれいうな。
「無理。あれ射程あるし。」
「如何ほど?」
「試してないけど・・・50m位かな。」
サボットスラグの威力がライフル並みの射程が確かそんなもんだ。
「・・・短いですね。」
棒きれが?
「降りてきますよ!!」
くだらないこと考えてたら事態が悪化した。
何てこった。
「ケツァルコアトルス・・・。」
ジャンヌが呟くのはアレの名前だろう。
「四大竜の中で唯一飛行能力を持つ空の王者。」
丁寧な解説付き。
そんなつもりはないだろうけど。
どうしようかな。
ダメ元で撃ってみるか?
いや、それで殺れずに相手が変にこっちを敵視したら焼かれてジエンドだ。
確実を期したいところだが・・・。
そういえばお嬢様は・・・あらま。
ドラゴンを見たからか、目を見開き尻餅付いてオマタが噴水状態だ。
流石に気丈に振る舞うって訳にはいかんのね。
可哀想だが静かでいい。
『GYAAAAAAAAA!!』
遠くから突如吹き込む熱風。
悠々と降りてきたケツ・・・なんとかは、逃げられないカラスを容赦なく焼いた。
「うへー。こっちまで熱いぞ。」
「どうします。奴はここまで飛んできました。次は・・・。」
腹ごなしか。
憎しみの全てをたたき付けるように、焼いたカラスを足でがしがし踏みつけ他後、横の生首も焼く。
もう地面まで真っ黒。
キレてんなー。
そして、そのままこっちを見て・・・目が合った。
ゆっくり歩いていらっしゃる。
「ダメもとでやるか・・・それとも逃げるか。」
とは言ったものの完全に逃げ遅れてる。
足の速さは人並みの俺、確実に最初の餌です。
せめて動きを止められれば・・・あ、そういえば、アレが使えるか?
考えてるとケツドラゴンが急に横を向いた。
「出て行け!!ここはお前などがいて良い場所ではない!!」
ヘンリーさん、何してんの!?
いつの間に出てきたヘンリーさん、まさかの登場。
石投げて怒ってらっしゃる。
「親父!!何やってんだ!?逃げるぞ!!」
ヴラドさん、多分正論。
正論だが、ヘンリーさんのおかげで活路が見えた。
ケツドラゴンは取るに足らぬと思ったのかノッシノッシと進行方向を親子に変える。
こっちに真横を向けて多分、俺から200m位。
「どかぬかヴラド!!儂はここを護らねばならんのだ!!」
「無理だ親父!!相手が・・・ヒッ!?」
ケツドラゴンが自分たちに向ってきているのに気付いたヴラドが声にならない悲鳴を上げる。
すまん、もうちょっとだけ。
「マナウタ様!!」
・・・あーーーー、もうっ!!
届くかどうか知らんが行ったらぁー!!
決意と共に窓を飛び越え持ったのはフレアガン。
ケツドラゴンは俺の方をまだ見ていない。
「親父!!」
「ええい!!お前だけ逃げろ!!」
ヴラドの親子愛が凄い。
後、150m
ケツドラゴンが親子を射程に捕える。
逃げない餌に舌なめずり。
「目をつぶれ!!」
叫びながら撃つのは閃光弾。
パシューン!!という音に驚いたのか、ケツドラゴンがこっち向いた。
その目玉の中心に閃光弾は見事命中し、
『GYAAAAAAAAA』
同じ声でアリながら、甲高い明らかに苦しみの声をケツドラゴンは上げた。
残り100m・・・位。
のたうつように暴れるケツドラゴン。
もうちょっと・・・もうちょっとでイけるから。
フレアガンを格納し、ショットガンを手にする。
あと50mが長え!!
頭を振り、何が起きたのかはともかく、誰がやったのかは分かったのだろう。
怒りの相貌が俺を向く。
『GYAAAAAAAAA!!』
威嚇の雄叫び。
やべえぞ、もっと早く動け俺の足!!
突如世界が色を失う。
白黒の世界で、スローモーションのようにドラゴンが動く。
翼を広げ、火を噴かんと弓のように首を後ろにしならせ溜める。
開く口。
喉から見える赤い灼熱の塊。
その業火は、しかし放たれることはなく、そのまま散った。
「Gy・・・。」
いつぞやのティラノと同様、轟音と共に口から後頭部まで貫いた弾丸サウルスキラー。
ケツドラゴンはその首を一度転に向けると、そのまま大地に倒れ、もう動くことはなかった。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・。」
いつ依頼だ・・・100m以上の全力ダッシュ・・・。
息と嘔吐きがとまらねえ。
途中で太もも辺りがなんかブチンっていった気がする。
まだ若いったって運動不足ならこんなもんだ。
ちょっとふらふらするし、無理、立てません。
「マナウタ様ぁ!!」
ジャンヌの声かな?
「おおおおおおおお!?」
「すげえ!!何が起きた今!?」
「ドラゴンが・・・死んでる・・・。」
「助かった・・・助かったのか俺達!?」
そして私兵団の皆様、どこから湧いて出た?
「これが・・・ドラゴンキラー・・・。」
ジャンヌに抱えられたお嬢様、いまだに蛇口が閉まってません。
つか、良く担いだなジャンヌ・・・。
「親父・・・親父!!」
「こ、これは・・・。」
父親を揺さぶるヴラドさんと、我が目を疑うヘンリーさん。
喜びのどさくさで囮に使ったことは忘れてくれると嬉しい。
「お、お前は一体・・・。」
生意気ヤローが唖然とした顔でこっちを見ている。
というか皆見てるな。
まるで英雄を見るかのような視線で、皆が俺を見下す。
まあ、今四つん這いだからね。
やだー、なんかハズーい。