カラスの勝手でしょ
私兵団が農場へ展開される中、お嬢様と俺、ジャンヌは農場主のもとへ向う。
「これはこれはこのような場所にわざわざお越し頂き申し訳ない。」
スゲー苦労顔のおじいさんが出てきた。
「儂はここの経営主、ヘンリーでございます。」
だそうだ。
「ごきげんよう、ヘンリーさん。」
「来て貰って、碌なおもてなしもできず・・・。」
「よろしくてよ。ワタクシ達は遊びに来たのではないのですから。」
一応目の前に飲み物と食べ物が並んだので口に入れてみる。
やたらと薄めたワインと、煎った豆かな。
うすい塩味。
豆は悪くないと思う。
どうせならビールが欲しい。
ワインは酒と言うより殺菌目的で入っているんだろう。
あるいは殺菌してますよアピールか。
俺が豆をポリポリしている間に話は進んでいく。
「我が家の領地に入り込んだモンスター、領主として黙って見ている訳にはいきません。生憎当主である父は不在なれど、微力ながらワタクシが奴等を殲滅して見せましょう。」
実際にやるのはお嬢様じゃないがな・・・出る気じゃねえよな、マジで。
「ありがとう御座います。こういうとき儂は無力です故・・・。」
「何を仰います。避難勧告の中、農場を護るため残ったその意気こそ誇るべきです。」
「この農場と共に生きて来た老いぼれ故、他の生き方を知りません。ここを失うなら共に、そう思っただけで御座います。」
「何を仰います。この農場がなくなるなどあり得ませんわ。奴等はこのワタクシが殲滅するのですから、おーほっほっほっほ!!」
また出た、この笑い。
てか出張る気満々じゃね?
お嬢様が笑い終わると外が騒がしい事に気付いた。
「何事ですか?」
ジャンヌがすぐに確認に行く。
有能。
ジャンヌが扉を開けると男の声が聞こえてきた。
「親父、おい親父!!早く避難しろ!!おい聞こえてんのか!!」
なんかありきたりなドラマが始まる予感。
「いいわ、通して差し上げなさい。」
「はい。」
お嬢様にいわれジャンヌが見張りに指示をかけるとおっさんが一人入ってきた。
またか。
「すいません。俺ヘンリーの息子のヴラドっていいます。」
入り口で説明を受けたのかヴラドさんは早口で一応謝罪と自己紹介をお嬢様にする。
「なあ、親父!!逃げるぞ!!農場なんて立て直せばいいんだ。な?」
「ヴラド、よさんか。お客様の前じゃ。」
「いや、だけど親父。」
「この農場と、丹精込めて育ててきた家畜や作物を見捨ててはいけんよ。何より儂には農場主としての責任がある。」
「残ってとれる責任てなんだよ!!」
というか、カラス相手に大袈裟じゃね?
そういえば・・・
親子げんかを尻目にジャンヌに訊いてみる。
「なあ、今回のモンスターってそんなにヤバイんか?」
「ええ。アルゲンタヴィス。羽を広げれば6mにもなる巨鳥です。・・・知らずに来たんですか?」
まあ、自分で何かする気なかったし。
小さく見えたけど随分高いとこ飛んでるってことか。
よく鳴き声聞こえたな。
それが4羽。
逆に良く牛と豚1頭ですんだよな。
「成人男性も簡単に攫っていく上、異様な飛び方をする為、中々仕留めずらいことで知られていますよ。」
「異様な飛び方?」
「普通の鳥ではできない飛び方です。いきなり真横にスライドするような。屋敷にあったモンスター研究関連の本では、おそらく風を翼から噴射する技能を持っているのではと。」
「それはまた。」
結構厄介でない?
「まあ、公爵家の私兵団に任せときゃ大丈夫っしょ?」
なんつっても公爵家ですし。
「そうだと良いのですが。」
・・・ダメなの?
「騎士団ではありませんから。結局は金で雇った寄せ集めです。ドラゴンに襲われた時の話は覚えていますよね?」
「全員逃げ出したんだっけ?」
「ええ、彼等の内何人が帰って来ることやら。」
「そういえばドラゴンの巣に行くのに10日だったっけ?まだ帰ってきてないだけの可能性もあるわけだ。」
「数字の上では。」
帰ってくると思ってないってことか。
「実際当主様も仰ってたように無理な任務でしたが、彼等からすればそれなりの前金を貰っていますからね。頃合いだと思えば次を探す流れの者達。それが私兵団の素性です。実際あのときも最後まで着いて来たのは半分以下、中には私の事を野営中に襲おうとした者まで居ました。」
「マジで?」
「全員切り刻んで差し上げましたが。」
お前が怖くて逃げたヤツもけっこういるんじゃね?
「見せしめになったのか、それ以来不届き者こそ出なかったものの・・・ともかく彼等に信を置くのは止めた方が良いですよ。」
「うへえ。」
急激帰りてえ。
「つかさ、私兵団の天職ってなに?」
「農業職がほとんどですね。狩人、漁師、木樵、駆除士。」
「ほとんど低級職じゃん?」
て俺もそうだけど。
「こういう依頼に来る人達は公爵家の払う高い対価が目的の人が多いですから。基本普段の仕事を怠けている人が多いんですよ。」
「ああ、ここで一発稼いで暫く遊んで生きるぞ的な?」
「はい。一応今回はお嬢様もいますので臨時雇いではなく、正規の騎士職もいますが。」
「正規の騎士?」
「騎士職は大半が王都に行って騎士に志願します。王都から公爵家護衛を騎士団から任されて派遣された騎士達、それが正規の騎士です。」
「なんだ、頼れる人要るじゃない。」
「騎士職で空中戦ができる人は魔導師に限られます。同行した騎士に魔導師は・・・。」
「・・・。」
「というわけで、最悪はお願いすることになるかもしれません。」
なんか、急に出番が回ってきそうな展開。
一応俺は最後の手段ということで作戦は立てるらしいが、ジャンヌが。
つか本当にコイツ有能だな。
まず、奴等が降りてこなければどうにもならんということで誘き寄せる。
で、罠にかけて仕留める。
「どうやって誘き寄せる?牛かなんか囮にするんか?」
「いえ、できれば領土の食料を無駄遣いしたく在りませんね。他に方法がなければともかく、要は奴等は食欲を満たしに降りてくるわけですから。あの死体で十分でしょう。」
「腐臭のする死体を食うかね?」
「分かりませんので腐肉とは別に、あの死体を焼いて置いてみます。」
「焼いた肉の臭いか・・・確かに寄ってきそう。だとすると死体の回収は?」
「人力では無理でしょうが、私兵団の大半は素材格納の技能持ちです。」
「確かに。」
「まだ空腹ではないからかもしれませんが、警戒しているのか降りて来ませんから。今がチャンスですね。」
「見方によっては、今の農場格好の餌場だよね。私兵団がたっぷり。」
「・・・次に罠ですが。」
ホワイ、冷たい目線?
「一応網を持ってきています。」
「準備のよろしいことで。」
「対象の情報は事前に受けていましたから。」
「で、どうやって被せんの?」
「そこで困っています。」
考えてねえのかよ!?
「農場の地形が分かりませんでしたので、来てからと思っていましたが。果樹園や畑を選びたくはないですからね。選ぶとすれば、放牧エリアになるんですけど。」
「草生えているだけだしね。」
「そこなんですよね。網は上から被せなきゃ意味ないですし。」
「降りてきたところ矢なり何なりで集中攻撃じゃダメなん?」
「やっぱりそうなりますよね。仕留められない場合厄介な事になりますけど。」
奴等が賢いかどうかは知らんが、地上で仲間がいきなり血を流したら流石に気付く。
他の所に行かれても厄介だ。
捕まえてから殺るっていうのが理想なんだろうね。
さて、どうすっかね・・・
視線を落すと持ってきたタブレットがあった。
何か情報あればいいんだが、ってあるよ、ガッツリ罠の原理まで。
へー。
「どうか成されました?」
「罠ならなんとかなるかもしれん。」
「え?」
ジャンヌに載っていた情報を教える。
「な、なるほど・・・。で、あればここでもできますね。」
「上手くいくかは知らんが。」
「ダメでも、警戒される可能性は低いですね・・・。まずはそれで行きましょう。」
「おう。」
作戦が詰まったところでお嬢様の方を見るとあっちも終わったらしい。
結局ヴラドが折れたのか。
2人とも残るようだ。
何を言ったのお嬢様?
何故か抱き合う親子。
満足そうなお嬢様がこっちを振り向いた。
「さあ、作戦会議ですわよ!!」
・・・。