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不変と恋の戦争物語  作者: 萩原慎二
春恋編
5/41

喧嘩は終わり約束は結ばれる

前回のあらすじ川柳

  牡丹泣き

    父性爆発

       俺暴走(字余り)

皐月と牡丹の喧嘩があった日の翌日。

牡丹は見てわかるほど落ち込んでいた。

理由はわかっている。

二人が喧嘩をしている途中に起こった『勝負』に勝利した皐月が、牡丹に下した罰ゲーム、「俺への罵倒」のせいだ。


普段から優しい牡丹は、罵倒を知らなかった。

その為俺を罵倒した時に、自分の『目上の人には礼儀正しく』と言う信条に反したショックで泣いてしまった。

別に、俺はその事については全く気にしていないし、むしろ可愛かったからありがとうと言いたい程なのだが、本人はそう思っていない。


だからか、部活に来てからずっと元気が無い。さっきから俯いて指をこねくり回している。


それを見るとこちらの心が病んでしまう。何故か牡丹が悪いみたいな空気になってしまった。

皆、牡丹が悪くないということはちゃんと理解している。

むしろ、『可愛いほうを決める勝負』での投票や、俺の『良い所を上げる』勝負を立案したことなど、かなり悪ふざけしていたことが原因だと思う。

なら、殆ど悪いのは山吹先輩なのでは………?


しかし、特に居心地が悪そうなのは皐月だ。自分が原因で喧嘩が勃発した上に、罵倒の罰ゲームを下したのは皐月本人なのだから。

それに対し、山吹先輩は冷静な感じがしているが、時折チラッと牡丹の方を見ている。

良かった。ちゃんと罪悪感はあるようだ。山吹先輩が最低な人では無い事がわかって安心した。


皐月は先程から、牡丹に何かを喋ろうとするが戸惑ってしまい結局喋れずにいた。

そんな戸惑っている皐月を見たら、妙に心が痛んでくる。

始めと終わりは皐月が悪いが、その間の事は別に悪くないのに………。むしろ、手のひらで踊っていただけだろ。誰かさんの手のひらで。

お互い罪悪感が芽生えているこの光景は、明らかに異様だ。


──こんな空気、過去に一度体験ような気がする。たしかあの時は………。



「んもー!何この空気!居心地悪いったらありゃしない!」



急に茜が静寂をたたっ斬り、怒りを表しながら立ち上がる。


「…………!!………」


茜が急に言ったからか、それとも言ったことが的を得ていて誰も言葉を発せないのか、どちらかわからないが、皆黙っていた。


「そもそも、今回の件は牡丹悪くないじゃん!おかしな勝負考えた部長や、変な罰ゲームにした皐月や!悪乗りした楓と私と………多分正木も悪いんだから!牡丹が気にすることなんて無いんだよ!」


………あれ………?今俺理不尽で悪者にされなかった?気のせいか。

茜の激しい弁論を聞きいても、皆はまだ黙り込んだままでいた。

牡丹は茜の話を聞いた上で、申し訳なさそうな顔をしている。


「わかってはいるんです………けど、私が気にしてるのは石蕗先輩に罵倒した事で………」

「そんな事どうだっていいんだよ!だって正木だもん」


やっぱり………さっきから俺の待遇悪すぎじゃない?理不尽に悪者にされるわ、罵倒を人格のせいで正当化されるとか。

まぁ、そんなことおは茜だからこそできるのだろう。

安心させるためなのか、それはわからないが、ここはダメージも耐えてやろう。


「でも………でも!」


牡丹の目にはまた涙が溜まっている。昨日の二の舞になってはいけない、主に俺の父性が。………くっそ………しょうがねえ。

俺は牡丹の目の前へと行く。


「あ………ご、ごめんなさい………先輩………グスッ………ごめんなさい………」


牡丹は、まだ自我を保ってはいるが、いつ昨日のように暴発するかわからない状態だ。


「………泣くんじゃない、牡丹」


それを見て妙な気持ちになってしまった俺は、牡丹の頭に手を置く。


「え?………え?………ど、どうしたんですか?石蕗先輩?」


突然の行動に牡丹は泣くことなど忘れて、戸惑ったような顔を見せている。

そうやって戸惑っている間に俺は、牡丹の頭をクシャクシャに撫でてやる。

それに対して牡丹は『う………止めてください………』と涙目でこちらを見ながら言う。


────あっ。


危ない危ない、また俺の父性が暴走して茜からの当身を食らうところだった。

可愛すぎるだろ牡丹………恐ろしい子。


「石蕗先輩?どうしたんですか?」


少し焦り気味な牡丹に問われ、急に思考がまともに戻る。


「茜の言った通り、今回牡丹は全然悪くないんだから………気にすんな」


俺は牡丹に優し目な口調でそう言う。しかし牡丹はまだ申し訳なさそうな顔でこちらを見つめる。


「で、でも!」

「口答えも許さない。したらまた髪クシャクシャにするぞ?」


牡丹に反論をする時間を与えないように、すぐに言葉を繋ぐ。

すると、牡丹は少し迷ったような顔をして俺を見つめる。頭に乗っけた手はいつの間にか握られている。

おふ……そういう行動するから父性が溢れ出ちゃうんだよ……。


「私は………本当に悪くないんですかね……」


俺の手をキュッと握り、弱々しい声でそう聞く。


「お前がそう思うんならいいんじゃないの?俺も、皆も謝ってるし、後はお前次第だな」


そう言われて牡丹は皆の顔を見る。見つめた先には牡丹が悪いと思っている者はいるわけもなく、牡丹は少し安心したような顔を見せる。

しかし、牡丹に見つめられた皐月はサッと顔を逸してしまう。


「…………皐月ちゃん」

「………………ごめん」

「え!?」


皐月の急な謝罪に牡丹は驚く。


「今回は………少しふざけすぎた………反省してるから、いつもの牡丹に戻ってよ………」


皆同じように驚いている。おそらく、初めて聞いた皐月の謝罪。それは言葉が時折詰まり、不格好ではあるものの、とても美しかった。


「………………ふふっ」


それを聞いて、牡丹の顔から笑みが溢れる。


「まったく………皐月ちゃんはしょうがない人ですね」


すっかり笑顔に戻った牡丹は、いつもどうり皐月に微笑みかける。

それを見て皆も自然と笑みが溢れ、皐月は喜びの表情を浮かべてはすぐさまそっぽを向く。


「う、えるさいわね!ほら!もう大丈夫なら、この件は終わりにするわよ!」


皐月は照れ隠しでいつものように毒舌になる。しかしそれは照れ隠しの欠片もなく逆に萌えてしまう。


「ふふっ……わかりました。………皆さんも、申し訳ありません。巻き込んでしまって」


それを聞いて皆は笑顔になる。

………まぁ、一件落着かな?あの空気はズルズル引きずってほしくなかった。


「ありがとな、茜」


そう言うと、茜は驚いた顔をして俺に言う。


「およ………正木がお礼言うなんて珍しいね」

「…………一言余計なんだよ」


そして、俺達の部活はいつも通りの日常に戻った。

俺と山吹先輩は本を読み、楓は料理のレシピ本を読み、茜と皐月と牡丹は雑談を楽しむ。………これでいいのか、文化研究部。

あまりの通常っぷりに不変を望む俺でさえツッコんでしまう。普通って怖い!


「あ、石蕗先輩、今週の日曜日空いてますか?」


俺は急に牡丹に話しかけられる。本を読んでいたおかげで反応が遅れてしまった。

日曜日………日曜日………うん!一年通して暇だな!安心!

自分のスケジュールの埋まらなさに泣きそうになった。


「ん、まあ、空いてるけど………どうした?」


返答すると、牡丹は少し不安そうな顔で言った。


「今回の件で迷惑かけたのと、罵倒した謝罪のために何かできないかと………」


………そんなことで、不安そうな顔すんなよ………。

いちいちそうやって不安そうな顔をされると、断れない雰囲気が流れる。

まぁ!どんな事を言われようと断る気は無いがな!

そう思いながら俺は照れくさそうに言う。


「………別にいいよ。気にすんなって言っただろ」


俺のバカ!マヌケ!臆病者!

何故そこでヘタレになるんだ!もう死んでしまえ!


「でも、これは私なりのお礼でもあるんです。お願いできませんか?」


それでも牡丹は必死そうに、けどどこかまだ不安が残った顔でそう言う。


「ん………わかったよ、予定開けとくわ」


俺もあんまり強がんないほうがいいよな。強がるとどうも疲れる。

人の償いを無下にするほど腐った人間ではない。

………まぁ、たまには遊んだっていいだろう。疲れを癒やすとするか!そう考えていると、皆の視線が俺に集まる。


「…………何だよ」


おれがふてぶてしく答えると、皆はニヤニヤして、


「いやー?何でもないよー?」

「ふふっ、楽しんできてくださいね、正木さん」


そうやって茜と楓は『察した』という顔でこちらを見る。

………うわーウザい!その気を使っている感じがもっとウザい!


「ふふっ………楽しみですね!石蕗先輩!」


しかし、そんな空気を気づいていない牡丹は最高に可愛い笑顔をこちらへ向ける。


「………ああ、そうだな」


あーもうどうでもいいや、牡丹の笑顔が見れたのでもう何でもいいです。

世界に牡丹が何人もいたら戦争なんて起こらないだろうな。そう確信した今日この頃だった。


天使の微笑みはきっと人々を幸せにさせるのだろう。

なら。偉い人を牡丹にして微笑ませれば皆議論なんてどうでもよくなるだろう。

………日本滅没するな。

牡丹、恐ろしい子!

第2作品目です!

誤字脱字のご報告や、感想等も受け付けております。

どうか、どうか、楽しんでこれからも見てください!

次回予告川柳

    牡丹とね

     お出かけしたら

         理性飛ぶ(そんなに関係ない)

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