二人の勝負は決着へと向かう
前回のあらすじ川柳
勝負して
勝った方は
皐月です(赤面)
「では、次の勝負へと行こう」
山吹先輩がそう言うと、幸せムードの皐月も、闘志剥き出しな牡丹も、真剣な表情に戻る。
メリハリがしっかりしている所が二人の良い所なんだがあなぁ。
二人の顔を交互に見つめて、山吹先輩は口を開く。
「次の勝負は、『石蕗の良い所探し』だ」
「……………何それ?」
「名前から考えれば………石蕗先輩の良い所を言い合うとかですか?」
「その通りだ。先攻後攻を決めて、お互いに石蕗の良い所を言い合っていき、言えなくなった方の負けとする」
山吹先輩は淡々とルールの説明をする。そして、皆は考え始める。
特に、皐月と俺は何度もルールを頭の中で繰り返し呟く。
そして、ある一つの結論が出てきた。
「「嫌だ!」」
俺と皐月は偶然にも、二人同時に同じ事を叫んだ。
「何故だ?」
「何故だ?じゃないですよ!その勝負、俺からしたら公開処刑喰らってるみたいなものじゃないですか!」
俺は、渾身の心の叫びを山吹先輩にぶつける。
「そうよ!こいつの良い所なんて………い、言いたくないわよ!」
「と、言う事は良い所が思いついているわけだな?」
そう言って、山吹先輩はニヤニヤと笑う。
「う………うん………まぁ………」
皐月は、しっかりと拒否していた筈なのに、いつの間にか赤面していた。
………俺の意見は完璧にスルーされましたね。
まぁ、この部で俺の言うことがスルーされるのはたまにある事なので、今更気にしない。たまにだよ、本当にたまに。
「別に、私は良いですよ。人の良い所を探すのは得意ですから」
「わ、私だって!石蕗の良い所ぐらい………い、いくらでも上げてやるわよ!」
………どこかで見たような光景だな。
勝負に積極的な牡丹が勝負を了承して、消極的な皐月が乗せられる。
まぁ、さっき見たばかりの光景だが。
どうして、後輩達はこんなにも言葉に乗せられやすいのだろう。
いよいよ将来が本気で心配になってくるレベル。思わず養おうと思ったじゃないか
………冗談だが。
「もしかして、山吹先輩の言ってた『俺に得』ってこの事ですか?」
「そのつもりだが………不満か?」
「当たり前でしょ………良い所を言われることに悪い気はしませんが、こんな公開処刑じみたものはちょっと………」
そう言うと山吹先輩は、少し悩んだ素振りを見せてから言い放った。
「耐えるんだな」
「………そうすか」
後輩に良い所を挙げられるのは、正直に言って悪い気はしない。
しかし、こんな強制的に言わされるような場で言ってほしくはなかった。
まぁ、俺が何と思おうが勝負は進む。
二人は向かい合うように椅子に座り、山吹先輩からの合図を待っていた。
「では、簡単なルール説明をするぞ」
「お互い、30秒以内に石蕗の良い所を上げていく。30秒以内に言えなかったら強制的に終わりだ。わかったか?」
山吹先輩の呼びかけに、二人は頷いて見せる。
その時の真剣な顔は、きっと一生忘れる事は無いだろう。………俺達は何をやっているんだ。
そう思いながらも、俺は二人に良い所を挙げられるのを楽しみにしていた。
公開処刑でも、やはり褒められることは嬉しい。そう思わないと泣き崩れそうになる。
覚悟を決めて、俺は二人の言葉に耳を傾ける体勢を取る。
「では、鬼灯から………………スタート!」
山吹先輩の合図と共に、牡丹は口を開く。
「頭が良いです!」
「や、優しい!」
牡丹に対抗して、皐月も俺の良い所を上げていく。
先程は恥ずかしがっていて、今もあまり変化はないが………まだ先ほどよりはマシになっている。
しかし、赤面する事は忘れない。
「部員想いです!」
「礼儀正しい!」
俺はこの勝負を甘く見ていた。
公開処刑と自覚していたのに、俺は現実逃避をして『褒められる最高の時間』と思い込んでいた。
しかし、現実は非常だ。
思いっきり公開処刑です。本当に恥ずかしいです。助けてください。
しかし、そんな願いは二人にも、山吹先輩にも届かない。
「倹約家です!」
「料理が美味い!」
先程の勝負は、牡丹と皐月が辱めを受けていた。
しかし、今度は俺が辱めを受けていた。
二人の言葉に、俺が赤面して俯いてしまった。
しょうがないだろ!人に褒められる経験とか全然ないんだから!
何と思おうが、二人の対戦は熱く続いていく。
俺の良い所を言い合っていって、数分後。
俺はもはや二人の顔を見れなかった。
見た瞬間、二人への気まずさと恥ずかしさで逃げ出してしまいそうだから。
これが山吹先輩の言っていた『俺に得』………完全に罰ゲームです。俺の希望を返してください。
今日、俺の得になった事なんて少ししか無い。
牡丹と皐月の可愛い姿が見られたところとかな!
軽く現実逃避していたが、牡丹と皐月の戦況を見ると、意外にも決着は付きそうだった。
「運動が結構できる!」
「えーっと………えーっと………後は………あれ?」
この勝負には穴があった。
何個も良い所を言っていくと、最初の方に言った言葉が言っていないと考えてしまう。
そして、牡丹は見事にその状況にハマってしまった。
「えっと………れ、礼儀正しい?」
「あ、それ私言ったわよ!」
「え!?あれ?そうでしたっけ!?」
二人の勝負は遂に終わった。
俺の公開処刑もやっと終わりだ………本当に、精神が疲れた。
「ふむ。どうやら、勝負は完全についたようだな」
「では、この勝負は七竃の勝ちで。総合でも2対0で七竃の勝ちだ。というわけで、七竃は鬼灯に何でも命令していいぞ」
それを聞いて、皐月は勝ち誇った顔で牡丹を見つめる。
「ふはははは!勝負に負けたからには牡丹、言うことを聞いて貰うわよ!」
そういい、皐月はびしっ!と牡丹に指を指す。
等の牡丹は俺の後ろに隠れ、命令に怯えている。
………そんな行動されると俺の庇護欲がバーストしてしまうから止めてほしい。
「お………お手柔らかにお願いします」
そう言いながらも、牡丹は恐怖に怯えた顔を絶やさない。
「じぁあね………石蕗を罵倒しなさい!これが命令よ!」
それを聞き、牡丹は驚きと恐怖が入り混じった顔をする。
「そんなぁ………そんなこと、できませんよぉ………」
牡丹はそれを拒否しようとするが、それを皐月は許さない。
「さあ、早く!早く!」
皐月の催促に耐えかねたのか、牡丹は俺の方を向き、恐る恐る口を開く。
「つ、石蕗先輩の………バカー!アホー!ま、まぬけー!!」
……………
……………………
……………………………
「可愛いかよ!!」
牡丹のすっとんきょうな罵倒を聞き静寂になっていた空気を俺の叫びがたたっ斬る。
不思議と周りの目は俺への侮蔑の視線へと変わっていた。
いけないいけない………危うく理性がすっ飛ぶとこだった。
思い出したかのよう牡丹の心配をしそばへ駆け寄ると、牡丹は俯きながら俺に抱きついてくる。
「あの………牡丹さん?くっつかれると少し恥ずかしいんですけど………」
そう言って牡丹の顔を覗き込む。すると俺の制服が少し濡れていることに気づいた。
そして牡丹が顔を上げると、目に涙を一杯に溜めてえぐ………と嗚咽している。
「づわぶぎぜんばい………ごべんばざい………ごめんばざいぃぃぃ!!」
思わず皆驚愕する。いつものような落着いた面影など一切無く、クシャクシャに可愛らしい顔を歪めている。
「ヒグ………えぐ………ごべんなざい…………びえぇぇぇぇん!!」
そして遂に泣き出した。羞恥心など関係無しに。
そんな牡丹は子供じみた可愛さのようなものが滲み出ており、母性ならぬ父性が俺の心を支配しようとしていた。
父性がガンガンに発動して、頭がおかしくなるほど俺の精神を蝕んでいる。
そして、庇護欲が暴走していたところ、茜にそれがバレてしまい当身を食らう。
「ちょっとは隠せ!」
「かはっ!!」
キュウ………石蕗はもう駄目だ………急に眠たくなってきた………。
耳元には牡丹の泣き声と不気味な機械音しか届かない。機械音はどうやら頭の中から鳴り響いているようだ。
――――そして、俺の意識はどんどん深淵へと沈んでいった………。
その後は、目を覚ますまでの30分間、ずっと泣きじゃくっている牡丹に抱かれながら制服を汚されて、起きたときには泣き疲れた牡丹がこちらによしかかって眠っていた。
俺の制服を離さなかったので、責任を持って?家まで運ぶことになったが、牡丹の母親に不思議な目で見られてて、弁明がだるかった。
―――もう牡丹に精神的ショックを与えないようにしようと皆はそれぞれ誓った。特に皐月。
ごめんな牡丹………安らかに眠ってくれ
どうも!萩原慎二です!
今回は、春恋編の書き足しとして、牡丹と皐月の喧嘩のお話を追加しました。
最神話の更新の代わりとして、このような投稿がしばらく続きますが、皆さんのご理解をお願いします。
誠に身勝手ではありますが、許していただければ幸いです。
誤字脱字、感想等も受け付けております。
ブックマークなどしてくれると嬉しいです!
次回予告川柳
牡丹とね
結ぶ約束
癒やしです