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不変と恋の戦争物語  作者: 萩原慎二
春恋編
3/41

二人の喧嘩は部内に響く

変化とは素晴らしい事だ。変わることは立派な事だ。

それは進化への架け橋となり、進化した人間は精神的にも身体的にも成長する。

昔、誰かが言っていた言葉だ


馬鹿馬鹿しい。俺は今でもそう思っている。

変わることが進化に繋がるなんて妄想だ。実際には進化にも繋がるが、退化にも繋がる。だろう。


変化していい結果が残るのならば人生は成功の連続でなければおかしいだろう。

しかし、人生は失敗と不幸で満ち溢れている。


幸せがあるという事は、不幸がどこかにある。成功する者がいるならば失敗する者がいる。世界とはそう作られている。


勇敢に挑戦した者は成功を手にする権利が与えられる。失敗を恐れ挑戦しない者は権利すら与えられない。

こんな世界は間違っている。


今の方が幸せな者だっているだろう。しかし、大衆は変化を望み、変わることを義務付けさせる………。

こんな世界に幸せなどあるのだろうか。


変わる者は、成功以外にも失敗がある事を受け入れて、それでも尚変わろうとする。

失敗する可能性があるのならば、変わらない方が幸せではないだろうか。


こんなにも不変を訴えるのは、自分が不変を望んでいるからだろう。

変われ変われと言いながら、大衆は失敗したことを批判する。そんな残酷で、過酷なのがこの世界だ。

なら、俺は変わらない。それが最善で最高な判断だと、俺は確信している。


まぁ………何だ………長ったらしい現実逃避もそろそろやめて、現実を見よう。


いつも通り部活をしているはずだった俺は、軽く戦慄している。


俺の所属する文化のことを研究しないで有名な文化研究部は、殺伐とした雰囲気が流れている。

睨み合う二人の後輩、それを心配そうに見つめる同級生が二人。気にしないふりをしているが全く隠せていない先輩が一人。


キャスティングは完璧!『これから後輩二人が殺し合います』と言っても不思議じゃないレベル!アホか俺は。


そんな殺伐とした雰囲気はとても居心地が悪く、息を吸うだけでも心が侵されそうな気分がする。

ここだけ重力が倍になってんじゃないの?ってくらい空気が重い。


何故こんな事に………。

俺はさっきまで平和な時間を過ごしていたはずなのに。


いつも通り部活に来て、それぞれがいつも通り過ごしていたら、こんな雰囲気に。


睨み合い、たった今喧嘩を始めようとしているのは後輩の七竃皐月(ななかまどさつき)と、鬼灯牡丹(ほおずきぼたん)。とっても仲良しな二人だ。

そんな二人が喧嘩をしている理由は至極単純。

皆で話をしている途中、典型的なツンデレの皐月が暴言を吐いてきた。

それは照れ隠しだと理解しているし、その都度許してあげていた。

しかしその暴言が、優しさの根源と言っても過言ではない牡丹の逆鱗に触れ、今の様に揉めている。と言う訳だ。


「皐月ちゃん、さっきの態度は酷すぎます!いつもは見逃していましたけれど流石に我慢の限界です。石蕗先輩に謝ってください!」


牡丹は怒りと共に興奮もしており、いつものような優しい穏やかな性格からは考えられない獰猛さが滲み出ている。まるでそれは虎………いや、犬の様だ。獰猛じゃないやん。


「はぁ!?何でこいつなんかに謝らないといけないのよ?そんなの、私の人生の汚点だわ!絶っっったいに謝らないんだから!」


対して皐月も、いつもよりキツい言葉で牡丹に反抗していた。

そのツンとした態度はまるで猫………やべぇ、似合ってる。


二人の喧嘩はそれからもどんどんヒートアップしていき、もう手がつけられないんじゃないかという程まで成長していた。なんて最悪な成長なんだ。

俺は気まずそうに周りの部員達を見る。俺以外の部員たちも、二人を見てどうしようかと思い詰めていた。


部長の山吹梓(やまぶきあずさ)は、本を読んで気にしないふりをしていたが、時折二人をチラチラと見て、状況を確認しては『ハァ………』と落胆している。

茜はいつも話している二人が喧嘩をしているためか、普段より静かでずっと俯いている。

楓は皆へ配る紅茶を淹れているが、手がプルプルと震えており今にも落としてしまいそうな危なげな感じがしている。

同じ男子の鈴懸翌檜(すずかけあすなろ)はそもそも部活に来ていない。


「いつもいつも………先輩方に失礼な態度を取って!許可がされている茜さんや楓さんはともかく………許可されていない山吹さんや石蕗先輩にも失礼な態度を!皆さんに謝るまで帰しませんよ!」


そう言って牡丹は扉のある方に回り込む。

しかし、牡丹は自分の行動が、逆に皐月への挑発的な行動となっていることをわかっていない。


「あのねぇ、別に私が誰にどんな態度をしたって私の勝手でしょ!?それに帰さないってなら飽きるまで待ってあげるわよ!宿泊許可証持でも何でも持ってくれば!」


思った通り。

牡丹がしている説教は皐月からしたら所詮母親のうるさい小言と同等だ。それが心に響くわけがない。

むしろ、皐月の中にある『対抗したい』という気持ちを増幅させてしまった。


しかし……このまま二人を放っておく事はできない。

内容はどうであれ、俺の事で喧嘩をしているのだ。なら、本人が間に入って解決しなければいけないだろう。

だから俺は、明日へ届くほどの勇ましさで、二人を叱るように言い放つ。


「おいお前ら、そのへんでやめとけ──」

「うるさいわね!少し黙ってなさい!このクズ人間!」

「待っていてください石蕗先輩!今皐月ちゃんに謝らせてみせます!」


速攻で弾圧されてしまった。

勇ましく言ったはずなのに………。

皐月にクズと言われて傷ついた心を、牡丹の神をも凌駕する程の優しさが慰めてくれる………こんな状況がいつまでも続いていた。


───たしか………こんな光景を前に見たような気がする。

───誰かが喧嘩をして、俺が止めようとする。そんな光景を見たことが………あるような気がする。

───その時俺は…………。


「さっきからさっきから………あなたいい子ちゃんぶって偉い気になってんじやないわよ!ムカつくのよ、その態度」

「それは私のセリフです!その態度、とってもイライラします!今すぐ!今すぐに石蕗先輩に謝ってください!」


二人の言葉には怒りとイライラが混じり、暴言のようになっていた。これ以上は駄目だ。本当に人間関係が壊れる。


そう思って立ち上がった途端に、山吹先輩が大きなため息を付き、やれやれという風に二人を見て言った。


「はぁ………しょうがない二人だ………。そんなに言い争っても埒が明かない」

「じゃあ、どうすれば良いのよ!

「落ち着け。………そうだな、自分が正しいと思うのなら勝負をしろ。勝負して勝って、自分の正しさを証明するんだ」

「勝負……ですか?」


山吹先輩は唐突に、挑発的な態度で二人にそう提案する。

まるでその後の結果を見透かしたような眼差しで。

そんな山吹先輩の目に、少しばかり恐怖を覚える。何を考えているのか………それは一切わからない。


「いいじゃない!こうやって言い争ってても意味が無いから、いっそのこと勝負した方が楽かもね!」

「望むところです!言ってもわからないなら行動で示してあげますよ!」


二人は山吹先輩の挑発に乗り、闘志を剥き出しでお互いに牽制し合う。しかしなぁ………背丈のせいで小動物の争いにしか見えない。


「いいじゃないか。そんなにやる気があるのは結構だが、今回もう決めてある勝負は部員みんなに迷惑をかけたお詫びも含んでいるからな」


そう言って山吹先輩は勝負ルール説明に入ろうとする。しかし、それでは腑に落ちない点が何点かある。まずはそれを聞こう。


「あの、山吹先輩。なんで勝負なんですか?もっと他の方法があるんじゃないですか?」


俺は二人に聞こえないように山吹先輩に耳打ちしながら話す。


「勝負で決めた方が手っ取り早いからだ」


山吹先輩は冷静に、何を聞かれるかわかっていたかのように話している。


「勝負って何するんですか?」

「見てればわかるさ、君に得しかない事だよ」


俺に得、という部分に疑問符を浮かべる。二人の勝負なのに傍観者の俺が得をするのはおかしいのではないか、と思う。


他にも聞きたいことはあったが、これ以上時間を取ると二人が文句を言いそうなのでやめることにした。


―――この二人の勝負なら、平等な勝負にするために牡丹が比較的得意な知識系や、皐月が比較的得意な運動系は勝負として出さないはずだ。ならば、この二人に共通している、可愛い容姿を使って勝負をするはずだ。


「今回は、3本勝負をして2回勝った方の勝ちとする」

「1本目は、どんな格好、どんな行動をしてもいいから、私達に多く可愛いと言われた方の勝利とする。服などは演劇部から借りてこい。私の名前を通せば貸してくれるだろう」


山吹先輩の乱雑だが正確な勝負説明が終わる。それを聞いて牡丹は納得した顔を、皐月は不満げな顔をしている。

と言うか、山吹先輩演劇部とどんな関係なんですかね………名前言えば通るとか、何?賄賂でも渡してるの?


「なんで………石蕗に可愛いって言わせなきゃいけないのよ!?嫌よ!私はその勝負受けないわ!」


そう言い、皐月は消極的な態度を取る。


「あれれ?皐月ちゃんはもしかして石蕗先輩に可愛いって言わせる自信がないんですか?」


しかし、皐月のそんな行動は、勝負に積極的な姿勢を見せる牡丹に手玉を取らせる事となってしまう。


「な!………いいじゃない………受けて立つわ………ギャフンと言わせてやる!」

「望むところです!この勝負に勝って皐月ちゃんに謝ってもらいます!」


二人は先程より強い闘志を燃やし、それぞれ勝負の準備を始める。

………しかしなぁ、よくもまぁこんなに上手く山吹先輩に乗せられるとは思っていなかった。

まさに山吹先輩の掌で踊っている状態。それは希望をチラつかせて絶望へと叩き込む先輩の十八番だ。


「………これも先輩の予想通りですか?こんなに呆気なく乗せられて」


まさに匠の所業。惚れ惚れするようなその誘導術は俺も欲しいほどだ。


「ここまでうまく行くとは思っていなかったよ」


………山吹先輩の予想以上にチョロい後輩たちの将来が心配になってきた。

将来詐欺とかに騙されそう。またはロリコン。


「………で、そろそろいろんな事にツッコんでもいいですか?」

「それは許さん」


駄目なんだ…………。




少し時間が空いて、後輩たちの準備は終わった。

そして、第一回『第一回先輩達に可愛いと多く言われた方の勝ち選手権』が始まった。


「審査員は石蕗と楓と赤松だ。それぞれ平等な審査をし、多くの点を取った方が勝者だ。個人の評価などでは決めず、見た瞬間可愛いと思った方に投票してくれ。何か、反論や意見があるものはいるか?」


山吹先輩の完璧に近い勝負説明に対して誰も反論や意見は持っいなかった。

誰かがゴクンと息を呑む。

それに合わせて俺達の緊張感もどんどんと増していく。


「意見等は無いようだな………。では、早速勝負開始としよう。順番は鬼灯・七竃の順だ。早速、牡丹は出てきてくれ。」

「…………はい」


牡丹は少し躊躇っていた。

しかし、時間を取るわけにも行かないと観念したのか、意外と速く出てきた。


犬耳・首輪・制服・尻尾・黒のニーハイ………ほぉ………なるほど……は!?


「ちょ、ちょ、何かおかしくない?可愛いから路線が外れてないか?」

「うぅ………私もおかしいと思ったんですけど………演劇部がこれで良いって………」


牡丹の格好を見て、一瞬戸惑ってしまった。

演劇部グッジョブ!………なんてことは思ってないよ?ホントだよ?


そんな誰にも届かないような弁明をしてしまう程、俺は今混乱している。


しかし………この格好はまずい、犬耳だけならまだしも、首輪はまずい。そういう系のお店で大金払わないと見れないような格好だぞ?そういう系のお店って何だ?


「だけど………オススメされたからってなんでこれを?」


疑問しか浮かばなかった。可愛いし、涙目の姿は庇護欲が掻き立てられるが、何故にこの格好じゃないといけないのかが気になった。


「それは………石蕗先輩に可愛いって言って欲しいから………うぅ」

「お、あ……あぁ。そ、そうか」


おっふ………可愛すぎて俺の魂が浄化通り越して成仏しそうだぜ………危ない危ない。

牡丹の可愛い発言を聞いて、俺は物凄く戸惑って意識が飛びそうになったが、何とか保つ事ができた。


「そこでラブコメをやる時間はない。さっさと皐月の披露を始めよう。出てきてくれ、七竃」

「……………はぁい」


山吹先輩の呼びかけに、皐月は少し間を空けて答える。


皐月も牡丹と同じように、躊躇ったのか少し時間をおいてからトコトコ歩いてきた。


猫耳・ビキニ・健康的な肌………うーん………ん?


「布面積おかしいだろ!」


思わず叫ぶ。皐月の奇想天外な格好に腰を抜かしそうになる。

猫耳はわかるよ?うん。けどさぁ………ビキニってまずくね?演劇部何て物勧めてるの!?。


「………何か言いなさいよ、エロ石蕗」


皐月はモジモジしながらそう言った。

自分が辱めを受けているというのに、何でこいつはこんなに正常なんだ。


その健康的な体を手で隠しながら、牡丹以上に紅く染まった顔でこちらを見つめる。

どうやら、正常と言うのは勘違いかもしれない。

まぁ、夏でもないのにこんなに露出して正常でいられる方もおかしいと思うが。


皆ノーコメント。流石にこれに何かを言えまい。


「ちよっと、何か反応してよ!馬鹿みたいじゃない!」


確かに今の時期に皐月の格好は馬鹿みたいだ。けど可愛さがそれを消してしまい、『今着てたらおかしいビキニ』と見事に調和していた。


「………それでは、投票の時間といこうか」


山吹先輩にあっさりと進められて、皐月は一瞬怒りを顔に表したけど、渋々黙り込む。


各審査員、悩んだ結果をそれぞれクリップボードに書いていく。

そして、投票の時間が来た。


俺→牡丹

茜→皐月

楓→皐月


「……………へぇ?」

牡丹がすっとんきょうな声を上げる。

「………まじかよ」

それに合わせて俺も驚きの声を上げる。


「え!?やった!勝った勝った!イエーイ!」


そう喜びながら皐月はピョンピョン跳ねる。それに合わせて慎ましやかながら成長している胸もピョンピョン跳ねて、思考を掻き乱される。


「そんな………私が負けるなんて………」


牡丹は床に膝を付き、落胆した表情を浮かべている。


「え?良いのかこれ。確かに可愛くはあったけどさ、勝負とは関係無い可愛さだったような………」

「関係無くはないさ。今回の勝負は『何をしてでも可愛いと言われれば勝ち』だからな」

「そんなバカな………」


皐月が嬉しさでピョンピョンと飛び回る中、俺と牡丹は共に絶句していた。

勝負の結果に不満は少々あるが、言っている事は向こうが正しいので反論できない。


「次は………次は絶対に勝ちます………」


そう言って、牡丹は悔しそうに歯軋りする。


「うん………まぁ、俺はどっちが勝っても良いと思ってるから、あんまり無理はするなよ」

「はい、わかってます………わかってます………」


はい、これはわかっていないパターンですね。

『わかっている』と言っているが、当の牡丹は瞳を闘志で燃やしている。

普段はおとなしいやつなのだが、怒るとここまで怖くなるなんてな………。

これからは、変に刺激して怒らせないように気をつけよう。

そう思った俺であった。

どうも!萩原慎二です!

初投稿なので、誤字、脱字のオンパレードでしょう。

なので、発見していただければ遠慮なくご報告ください!

感想等も受け付けております!

これからも末永くよろしくお願いします。

次回予告川柳

   癒やしとは

     牡丹のことを

        言うんやで(多分関係ない)

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