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不変と恋の戦争物語  作者: 萩原慎二
春恋編
2/41

夢と現実は非常である

ある日の午後の、国語の授業での事。

皆が睡魔と奮闘している最中、平和主義者の俺、石蕗正木(つわぶきまさき)は睡魔と和解していた。

まぁつまりは爆睡していたと言う訳だ。


教師の事など気にせず、堂々と眠りこけていた俺は、奇妙な夢を見ていた。

奇妙で不可解で不可思議な夢ではあったが、何故か温かみがあって、安心するような夢だった。

しかし、その夢はあまりにも意味不明すぎて、俺には妄想や空想をする趣味が実はあるのではないのだろうかと疑ってしまった。


一応言っておこう。

これらの感覚は全て俺が基準なので、他人に言ってしまったら『気持ち悪い』と言われてしまうだろう。

それ程、不可解で意味不明な何故見たのかわからない夢だった。大事なことなので二回言っておこう。




夢の中で俺は、どこかの暗闇の中に居た。

辺り一面真っ暗闇で、光など一切存在していない。そんな暗闇。

光が無い暗闇なのに、視覚だけはしっかりと機能していた。そのため、自分の姿を容易に確認できる。


そんな意味がわからない矛盾している状況に、理解が追い付かない。しかし、俺は何故か歩き出していた。

何故、こんな空間を歩こうと思ったのかはわからない。だけど何故か、『歩かなければいけない』と本能が訴えかけていた。

きっと、この空間を歩くのは危険で注意すべきなのだろう。

けど、俺はそんな事を一切考えずに、無我夢中に歩いていた。




歩き始めてから、体感で10分ほど経っていた。

いつまで歩いても、暗闇からは抜け出せないし、風景すら変わる気配がない。

ここがどこなのか、自分が何故ここに居るのか、そんな事すらわからない。

だけど、『歩かなければいけない』と言う使命じみた気持ちは、いつまでも消えることは無かった。



気がつけば俺は、どこかに引き寄せられているように歩いていた。

それに気がついたのは、目の前に不思議な物が現れたからだろう。

いや、現実だったら普通なのだが、この異様な世界のせいで不思議に思ってしまった。


そこには、ただの扉があった。

ただの。と言っても、ホテルとかにありそうな大きな扉だ。

それを見て、俺は今まで感じたことの無い不信感を抱いた。

そこに扉がある事にではなく、その扉の向こうに何があるのかと言う事に。

自分でも、何でこんな事を思っていたのかわからない。


そして同時に、その扉に対しての好奇心が芽生えた。

何があるのかわからないからこそ、何があるのか確かめてみたい。そう感じてしまう。


『好奇心は猫も殺す』とか言う(ことわざ)があったような気がする。

俺が猫なら、ここで命を落としてしまうかもしれない。


けど、そんな事は関係ない。

自分の欲求さえ満たせれば死んだって構わない。だって夢だから。


そう思いながら、重そうな扉を軽い力で押してやる。

すると扉は、案外呆気なく、情けない音を出しながら開いてしまった。

それと同時に、辺り一面暗闇の世界に一筋の光が流れ込んだ。


そして、そこで見た光景に、思わず俺は息を呑む。


──どこかの大きな教会で

──ステンドグラスから、かすかに漏れる光に照らされ

──純白のドレスに身を包み、顔をベールで覆っている

──俺に笑顔で微笑みかける、一人の女性を見

──俺を見たその女性はこう言った


────幸せですか?



「――――きろ………―――き、起きろ………石蕗!起きろ!!」

「はっ!?」


夢の途中で急に、呼び声と言う名の怒鳴り声が聞こえてきた。


「あれ?………俺、何して………」

「いい度胸してるなぁ、石蕗。私の授業で居眠りするなんて」


ゴシゴシと眠たい目を擦り、目の前をジッと見つめる。

そこには、ヒシヒシと怒りを露にしている国語教師であり、我がクラスの担任である四ノ宮恭子が、腕を組みながら立っていた。

あまりの恐怖感に俺の眠気は一瞬で覚めて、すぐに姿勢を正して座りなおした。


「まぁ、今説教しても時間の無駄だ。後で職員室へ来い。

「………説教は確定なんですね」

「返事は?」

「はい!わかりました!」


身震いする程の形相で睨まれた………正直、死んでしまうかと思った。

四ノ宮先生はカツカツと足音を鳴らしながら教卓へと戻っていく。


その間、俺の失態を『あはは!!何してんだよ正木!』とか『授業中に寝たら駄目だろ?』とか言って笑う者は誰一人としていなかった。まぁ、そんな人は元々存在しないが。


四ノ宮先生の恐怖政治じみた授業で私語を発する者はまずいないだろう。だって怖いもん。


その後も誰一人として私語をする者は居らず(お  )、授業はスムーズに終了へと向かっていった。

何でこう言う時だけ時間の流れが速いんですかね………。説教は嫌なんですが。





「はぁ………石蕗、お前は何で国語の授業はいつも寝るんだ」


四ノ宮先生はため息をついて、呆れたと言わんばかりの顔で喋りだす。

俺は授業が終わった後ホームルームも無事に終えてしまい、四ノ宮先生によって職員室へと強制連行された。

用件はもちろん、俺が授業で爆睡した事でのお説教。

面倒くさいと思いながらも、断ったり無視したりしたら本気で殺されそうだったので、しょうがなく付いて行く事にした。

そしたらこの始末。まぁ、何から何まで俺が悪いから何も言い返せないんだがな。


「と、言われましてもね………俺だって、別に寝たくて寝てる訳では無いんですよ」

「ほぉ………では、何故寝てるんだ?」

「やっぱり、睡魔と闘うのはいけない事だと思うんですよ。何事も平和が一番ですからね、俺は受け入れることしかできないんですよ」

「ただ眠りたいだけじゃないか!!」


四ノ宮先生が机を片手でバンっと叩く。

その衝撃で机の上にある二つのコーヒーが少しだけ動き、水面がゆらゆらと揺れている。


「まあまあ、落ち着いてくださいよ。一旦冷静になってから考え直しましょう?」

「冷静にならなくてもわかるわ!やっぱりただ眠りたいだけじゃないか!」


まぁ、実際ただ眠りたいだけなのだがな。

俺は、手元にあるコーヒーを口元へと運び、一口だけ頂く。

はぁ………この苦味が全ての疲れと眠気をうやむやにしてくれる………。


そんなどうでもいい事を考えていると、四ノ宮先生がふーっと大きなため息をつき、椅子に深く座り直す。よく見ると、背が小さいが為に足が床についていない。


「ていうか授業中も思ったんですけど、この俺への接し方を普段すれば良いじゃないですか。今のままだと怖がられておしまいですよ」

「うぅ………そ、それは………わかってはいるのだがな………その、この姿をお前以外に見せるのは恥ずかしいんだ………」


そう言って、四ノ宮先生は膝を抱えてうずくまる。

その状態で半分いじけているような状態の四ノ宮先生は、ポツリとある事を呟く。


「本当に………お前にこんな私を見せてしまうとは思わなかったよ………」

「たしかに………あんな先生を見れるとは思いませんでしたよ………まさかあんな―――」


「や、やめろぉ!!言うんじゃない!!」


四ノ宮先生の呟きに返答しようとすると、四ノ宮先生は顔を赤く染めながら勢い良く俺の口を塞ぐ。

プニプにした先生の手が俺の口に触れて、思わず体がビクンと跳ねる。

先生は勢い良く動いたせいで、「はぁ………はぁ………」と息切れしている。


「そ………その事はまだ誰にも言っていないだろうな?」


先生がジト目になりながら俺を見つめる。


「は、はい。クラスメイトにも、部活仲間にも言ってませんよ」

「はぁ………良かった。絶対に秘密だからな」

「わかってますよ。秘密はバラしたら秘密じゃなくなりますからね。誰にも言いませんよ」


俺はニヤリと微笑み(?)ながらそう言う。


「理由が最低だな………」


四ノ宮先生に蔑まれてしまったからか、俺は反射的に窓の向こうの空へと顔を逸らす。

四ノ宮先生はそんな俺を見て、『ハァ………』とため息をつく。


「………で、お前は反省したのか?」

「何にですか?」

「授業中に眠ってた事にだ!全く反省してないじゃないか!」


キョトンとしている俺に対して四ノ宮先生は、『ウガー!!』と言わんばかりに胸ぐらを掴みかかってきた。

と言うかさっきから四ノ宮先生行動が言葉で表されすぎ!


「ちょ、やめてください!痛い痛い痛い!」

「頼むから授業中に寝ないでくれ!!お前の反応が無くなったら寂しくて寂しくて………」

「何ですかその新手のデレは!!と言うか俺って入学してからまともに先生の言葉に返答したことってありましたっけ?」

「ねぇよ!!私が当てるときに限ってお前いつも寝てるからなぁ!?そのせいだよ!!」


俺は胸ぐらを掴まれてんのに急にデレられた!と思っていたら、ぐわんぐわんと頭を揺らされる。

この人のデレ、意外に可愛いな!クソ!怒るに怒れないじゃないか!でもぐわんぐわんさせるのは痛いからやめて!?


そんな事を思っていると、いつの間にか揺れが止まっていた。

不思議に思い四ノ宮先生の顔を見ると、衝撃的な映像が飛び込んできた。


「ふぇ………頼む………グス、授業中………寝ないでくれ」

「えぇぇぇぇ!?ガチ泣き!?」


そこには、俺の胸ぐらを掴みながら泣いている四ノ宮先生が居た。

えぇ!?何で何で!?俺何か泣かせるようなことした!?したか!?………したなぁ。


「だ、大丈夫ですか?四ノ宮先生。もう授業中に寝ませんから、泣き止んでください」

「本当か?………絶対寝ないのか?」

「はい。絶対に寝ませんから、約束します」

「グス………わかった。なら許す」


ふう………何とか泣き止ませる事ができた………。

四ノ宮先生は、頭も良くて正義感も強く、家事などもしっかりこなせる凄い人なのだが、時々急に泣き出す時がある。

理由はハッキリわかってはいない。本人曰く、『日頃のストレスが爆発してしまい、泣き出す』と言う事らしい。

どう言う事なんだ………わかるようなわからないような………。


ついでに言えば、この姿はまだ俺意外見たことが無い。

なんせこの状態は、本当の姿を出している時にしかならないそうで、それを見ていないクラスメイトは必然的に泣く姿見れない。と言う訳だ。


さらに加えて、先生が社会に出てから本当の姿を見せたのは教師陣意外では俺が始めてらしく、何故か慰める役が俺になってしまった。

まぁ、今回の件は俺が悪いのだがな………。


普段の姿では拝めないこの姿、実は俺の中で物凄い癒しになっている。

だって、ただでさえ背が小さめな先生がうずくまって小動物のように泣いているんだぜ?癒し意外で何と呼べばいいのだろうか。

生徒相手に号泣するのはどうだと思うが、癒しになっているので結果オーライです!



この後、むしゃくしゃ状態の四ノ宮先生に腹パンされた事は言うまでもない。




そんなこんなで開放された俺は、いそいそと教室へ戻っていた。

教室へ着くと、まだ大きな話し声が聞こえてくる。


「あ!正木お帰り!」


そう言い一人の少女が駆け寄ってきた。


「四ノ宮先生のお説教終わった?……もう、ちゃんと授業は聞いてなきゃダメだよ?寝てばっかりで、成績落ちても知らないからね」

「そうだな………お前みたいになりたくないし、何よりまた腹パン受けるのは嫌だからなぁ、真面目に受けるかぁ」

「なっ!し、失礼だなぁ!こっちは心配してあげてるのにさぁ」


そう言って、プンプンとふてくされているのは赤松茜。俺のクラスメイトで、幼馴染である。


「人の成績心配するより、自分の成績の心配すれば?お前、今回の定期テストも微妙だっただろ」

「そ、そうだけど!私はいつも真面目に授業受けてるからさ、いつか成果が出るよ!」

「それ、毎回言ってるけどさ、その『成果』とやらはいつでるの?」

「うっ………い、いつかはいつかだよ」


話を聞いて、俺はガックリと肩を落とす。

ご察しの通り、茜は馬鹿である。………いや、この学校の成績で言えば微妙………かな?

と言っても、勉学が少々できないだけで、常識はしっかりとある。

普段の授業の態度はいいし、帰宅後も勉強を………してるかは知らないが、常識は理解している。運動面以外。


「じゃあお前さ、ちゃんと数学の宿題出したか?俺はさっきちゃんと出したが」

「…………………そそ、そ、それでさ、駅前のケーキ屋さんが──」

「いや、誤魔化してもダメだから。……て言うか、また忘れたのかよ………これで通算何回目?」

「………2年生になってから全部………」

「………そうか」


今の言葉を聞いて心底不安にはなった。だけど、こいつはこいつなりに頑張っているのだろう。

そう信じよう………信じなきゃ、考えるだけで頭が痛くなってくる。


「そ、そんな事より、速く部活行こうよ」

「そうだな………勉強の事を今言ってもしょうがないからな。後にするか」

「できればもうやめてほしいのですが………」


その言葉を無視して俺は立ち上がる。

そして、一人の女生徒を探すために、教室をキョロキョロと見渡した。

しかし、俺がそいつの姿を視認する前に、そいつはもう俺の目の前に居た。


「おわぁ、びっくりした」

「正木。部活に行きましょ?」

「ああ………わかったよ。探す手間がかかんなくてよかった」


俺は、ホッと息をつく。

そこに居るのは、校内一位を争うほどのナイスボディを持つ少女、蕁麻楓。

俺と茜の友達であり、俺達の所属する部活の一員だ。


たまにふとした瞬間に居なくなり、ふとした瞬間に目の前に現れる時があるが、たいして気にはしない。


「あ、楓!聞いてよー正木が虐めるのー!」


その時、茜がひょっこりと俺の後ろから現れる。


「ま、正木!あなた、一体茜ちゃんに何をしたの!?」

「何もしてねーよ。ほら、さっさと部活行くぞ」


二人の戯言をサラッと受け流し、俺は教室の入り口へと歩いていった。

今日も二人は平常運転。安心するような変わりようよ無さである。





「それでさ、駅前のケーキ屋さんがさ」

「その話まだしてんの?」

「だって、本当に話そうと思ってたし」


歩いていたら、茜が先程の駅前のケーキ屋の話をしだした。

俺はそれを何となくで聞いていた。

そして、ふと授業中に寝ていた時見た夢のことを思い出す。


──何で、あんな夢を見たのだろうか。


俺、そこまで結婚願望強いのかなぁ………。とか、そんな事を考えていた。

しかし、本当に心当たりが無かった。

あんな、ロマンチックで誰もが望むようなシチュエーション、夢で見てしまった理由があるだろう。


そして………それらの疑問を打ち消してしまうくらいの疑問が、今の俺にはあった。


──あの、夢に出てきた少女は誰だ?


それが、とっても不思議でたまらなかった。

光の関係で顔が見えなかったし、言葉を発した時間が一瞬だったから、誰か何てわからなかった。

それに、姿形はもう記憶から消えかかっている。


何もかもわからない夢ではあったが、何故あんなにも心地が良かったのだろうか………。

俺は歩いている間、ずっとその事を考えていた。



そして、俺達は部室へと着いた。

中から、とても元気な話し声が聞こえてくる。

きっと、先に来ている部員たちが楽しくお話でもしているのだろう。

それを聞いて、俺はふと笑顔になる。


そして、躊躇う事も無く引き戸を引いて、中へと入っていった。

その時は、とっても清々しい気分だっただろう。

その後に起こる悲劇の事を知っていないから………。

萩原慎二です!

今回の話は、遅れて追加しました、真の一話です。

何故、この話を追加したかについてですが。

理由は色々あります。

なので、今回は省かせていただきます。ご了承ください。

この話には後書き川柳はありませんが、次回から楽しみにしていただければうれしいです。

誤字脱字、感想等も受け付けております。

ブックマークなどしてくれると嬉しいです!

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