2-6:修正、収穫あり
まあ、今日はリハビリみたいなものだし?
チーム結成していきなり大勝利なんて、甘いこと期待してなかったし?
そんな負け惜しみをぐちぐち考えているうちに、エレベーターは一層へと到着する。降りるより先に、扉の外で待っていたプレイヤーがなだれこむように乗ってきて、危うくもう一度イベントフロアへ逆戻りしそうになる。
たまにこういうマナーの悪いプレイヤーがいる。外国人もそうだが、日本人にもいる。エレベーターも電車も降りる人優先。小学生でも知ってるでしょうが。うちのギンチョのほうがよっぽどわきまえている。今はしょんぼりしてそれどころじゃなさそうだけど。
「……あれ、かえるみち、こっちですか?」
地図上の南西に向かっている。赤羽ポータル行きのエレベーターは北西だから、ギンチョの疑問は正しい。
「せっかくだからちょっとだけ、ショートカット用のエレベーターの位置を確認したくて」
D庁の事前情報によると、赤羽ポータル側のエレベーターの南にある駐屯地と、そのさらに南にあるイワブチポータル側のエレベーターの中間あたりの岩壁に、ショートカット用エレベーターのある洞窟があるらしい。せっかくなら赤羽ポータル側に近いところに設置してくれればいいのに、と日本人プレイヤーとしては思わなくもない。
もうすぐ午後六時。夏真っ盛りの地上はまだまだ明るいだろうが、一層の空の色はだいぶ薄暗くなっている。そろそろ星のようなぽつぽつとした光が灯りそうだ。
さわさわと風で揺れる草原を歩きながら、千影はあの黒ワニとの戦闘について考える。記憶が新しいうちに反省しておく。
単体での強さは、最初の見立てどおりレベル3くらい。あのレベル1のチームには荷が重かったかもしれないが、単調な行動パターンやわかりやすい弱点を察していれば、仲間同士きちんとした役割さえ割り振っておけば案外どうにかなったんじゃないかと思う。
誰か一人か二人、壁役として正面から攻撃を引きつける。残り二人が側面から攻撃。機を見てどうにかひっくり返せたら一気呵成。こんな感じのパターンに持ち込めたなら、もう少し可能性があったかもしれない。まあ、もちろん結果論だけど。
少なくとも、あんなばらばらにちくちくやるだけでは、チームを組む意味がない。きっと六月の試験でプレイヤーになって最近【ベリアル】をとったばかりの初級者だろうけど、陣形や役割など先輩プレイヤーのメソッドを勉強したほうがいい。と怒られた腹いせに上から目線で心の中で思っておく。
「……でもなあ……」
それはそのまま、今の千影とギンチョにも当てはまる。
二人の役割は明確だ、前衛とサポート役。とはいえまだ、その連携はチームと呼べるものには程遠い。
これからもっともっと経験を積んでいかないといけない。二人でしっかり反省しなきゃいけない。時間をかけてでも、一歩ずつ地道に進んでいくしかない。
ただ――せめてもう一人くらい、壁役か中衛か、そういう仲間がいるとまた違うのかもしれない。仲よくやれる自信があるかは別として。
「あそこ、かんばんがあるです」
ギンチョが指さしたところに、小さな立て看板がある。ショートカットへの道が矢印で記されている。「自分のレベルをきちんと自覚し、軽率と無謀は慎むように、命は大事にね」的な主旨のコメントも添えてある(英語と中国語の表記もある)。樹海の看板みたいだ。
「…………ん?」
看板の向こう、背の高い草が生い茂っているところに、なにか見えた気がする。
「ギンチョ、あのへん、なんか見えない?」
「んにゃ?」ギンチョが目を凝らす。「うーん、なにもみえないです」
気のせいかな。でもなんか気になるな。
クリーチャーだったらどうしよう。エリア1のザコなら問題ないが、アプデで新登場の危険なやつとかで、いきなり襲われたりしたらたまらない。心配しすぎ?
「ギンチョ、僕の後ろ、少し距離をとってついてきて」
「は、はう……ごくり……」
【ロキ】で聴覚を強化しながら、おそるおそる近づいていく。草木のざわめきの合間から、ほんのかすかな呼吸音が聞こえた気がする。気のせいかもしれないほど、かすかに。
がさっがさっと雑草をかきわけて数歩進んだところで、千影の手が止まる。ぷつん、と思考も停止する。脳みそから血が引いていく。そのまま十秒ほど経過する。
「……ちーさん……?」
「ダメだ! 来るな、見ちゃダメだ!」
千影は現実に戻り、慌てて彼女を制止する。自身も目を逸らす。これ以上見ていられない。
それでも、横たわっている女性の姿が目に焼きついている。
額から冷たい汗が噴き出して止まらない。心臓が激しく全身を叩いている。胃がせり上がって苦しい。
どうする、誰か呼ぶか? でもダンジョン内でケータイは使えない。緊急用の小型無線機を使うか、一層なら誰かキャッチしてくれるはずだ。でも駐屯地まで走ったほうが早い気が――
「――おい」
ぎくりとして背筋が伸びる。荒い息を整えることもできず、千影はゆっくりと振り返る。
――彼女が地べたにぺたんと座り、まぶたをこすっている。
「そこのニーチャン」
端的に言うと、彼女は素っ裸だ。そして生きている。寝息でわかっていた。
彼女はその豊満な胸部を隠そうともせず、千影に向かって手を伸ばしている。
「わりいんだけど……なにか食うもんくんね? 腹減っちまってさ」
家に着くまでがダンジョンだ。とすると、チームの初冒険の成果が修正される。
収穫が一つ追加、全裸の美女。
3章2話、これで終わりです。お読みいただきありがとうございました。
次回は3話です。引き続きよろしくお願いします。
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