1-4:さうろんちゃんねる⑨
「はい、みなさんこんばんは。サウロンです。宇宙人の宇宙人による地球人のための〝さうろんちゃんねる〟、いつも見ていただいてありがとうございます。
今日はね、いつものハイテンションというか悪ふざけというか、そういうのは自重して進めていきます。あのノリが好きだったのにという奇特な方も全国で二・三人はいるかもですが、今回は何卒了承ください。
えー、まずは。先日の国際ダンジョン祭りでのテロ事件における五十五人の犠牲者のご冥福をお祈りするとともに、そのご遺族の方々にお悔やみを申し上げます。そして、テロの被害に遭われたすべての皆様にお見舞を申し上げます。
(しばらく頭を下げる)
テロに関するすべての責任はその主犯である少年にあり、この社会にダンジョンを受け入れることを選んだのは地球人である。僕が赤羽駅前でそう声高に主張した動画をご覧になった方もおられると思います。その認識は今でも変わりません。
ただ、だからといって、まったく無遠慮に悪ふざけを盛り込んだ動画を更新するほど、僕も厚顔無恥ではないつもりです。
僕にはダンジョン案内人としての義務もあります。使命といってもいい。この動画で、僕は一週間後に迫ったダンジョンのアップデートに関する情報をお伝えしなければいけません。
そういうわけで、今回こうして動画をアップすることをお許しいただきたい。興味がない方はこのままブラウザを閉じていただければと思います。また、不謹慎だとか無思慮だとか思う方は、その旨コメントに書いていただくなり、ユーチャンネルの運営にメッセージを送るなどしていただいて構いません。
ではジングルのあと、いよいよ新情報についてお伝えしていきます。ダンジョンプレイヤーの方はぜひともお見逃しなく」
(ジングル……陽気な音楽が流れる)
(アイキャッチ……ポップな字体で〝さうろんちゃんねる〟)
「はい。ここからはわかりやすくスムーズにお話させていただくために、ちょっとだけ砕けた感じになるのをご容赦ください。
いつもどおり、画面右側に画像や文字で情報を映す予定です。制作はこれまたいつもどおり、唯一のスタッフであるテンカイくんにやってもらっています。いつもありがとう、テンカイくん。
ネットやテレビでも噂になっていますが、赤羽ファイナルダンジョン、ダンジョン暦九年にして初のアップデートが八月五日の土曜日、午前十時に行なわれることになりました。
Ver2.0。今回のアプデでいろいろと細かい点が修正されたり追加されたりしますが、そのへんはプレイしていくうちにみなさんで見つけていただいたり、がっつりネタバレにならない程度に時間を置いて小出し小出しに情報を公開していくつもりです。プレイヤーのみなさんにとって大きなマイナスになることはほぼないので、がんばって見つけてみてください。
そういった微調整とは別に、アップデートについて大きく分けて三つのトピックがあります。今回はそれらに関するお話です。プレイヤーにとっては重要なポイントなので、どうか最後までご覧ください。
ではさっそく、まず一つめ。ポータルに人型ロボット〝コッパーちゃん〟登場!
先日のテロでエントランス側が半壊する憂き目にあった赤羽ポータルですが、現在は無事だった地下一階のみ機能している状態です。その地下一階の片隅に、コッパーちゃんが配置されます。はい、こんな感じの可愛らしい女の子型ロボットです。右に出てるかな?
(コッパーちゃんの全身写真が数枚表示される)
えー、とってもキュートですね。彼女こそ赤羽ファイナルダンジョンが誇る科学力と芸術性の結晶、コッパーちゃんです。あ、もちろんIMOD側のイワブチポータルにも設置されますのでご安心を。どちらも嬉しい多言語対応となっています。
じゃあ彼女はなにができるのかって? 彼女はいわば、プレイヤーの能力診断装置です。プレイヤーが彼女の口に手を入れますと、ちくっとその人の血を採取し、その人のアビリテやスキル、【ベリアル】のレベルなどを解析してくれるんです。
前にもお話したとおり、プレイヤーはダンジョン内で手に入るレトロウイルスを体内に投与し、その身体に便利なアビリティや強力なスキルを宿しています。一度付与されたアビリティなどを外部から確認する術はこれまでなかったのですが、今回からコッパーちゃんがその役割を果たしてくれることになります。
これに関しては、プレイヤーのみなさんから二つの疑問を返されることになるかなと。「どうして今さら?」、「プレイヤーになんのメリットがあるの?」と。
確かにそのとおり、自分のアビリティやスキルは自分が一番把握しているでしょうし、【ベリアル】のレベルを忘れている人もほとんどいないと思います。つまり、どちらかと言うとこれは、D庁やIMOD側、プレイヤーを管理する公式側マターの案件と言えます。
これまで公式は、各プレイヤーの能力の管理を、そのプレイヤー側からの自己申告のみに頼っていました。一応の報告義務はあるのですが、アビリティやスキルを秘匿するプレイヤーも少なからずいて、公式としてもどこまで把握できているのか未知数だったわけです。
そこへきて先日のテロ事件が勃発し、両公式はダンジョンにかかる各関連法やプレイヤーにかかる規定の改正を進める方針を打ち出しました。それに当たり、行政側とプレイヤーの代表者数名、それに僕も交えていろいろと話し合うことになりまして。その結果、ダンジョン側としてコッパーちゃんを提供するに至ったというわけです。
彼女は両公式のデータベースと接続されていますので、取得された情報はアビリティやスキルが自動的に公式に登録されることになります。彼女の使用を、個々のプレイヤーの任意とするか、プレイヤー全員に強制とするのか、それともなんらかのペナルティを負ったプレイヤーのみとするのか。そのへんはみなさんの判断にお任せします。プライバシーの保護とマス視点でのリスクヘッジのバランス……行政がなにをどう重視するか、ですかね。
というわけでみなさん、今後どうなろうとコッパーちゃん自身にはなんの罪もありません。どうか仲よくしてあげてください。壊したり落書きなどはご遠慮いただき、温かく迎えてあげてください。
はい、というわけでまずは現役プレイヤーのみなさんには微妙なその一ですが、残り二つはもう少し胸躍る内容になっていますので、どうかブラウザはそのままで。
では、続いてかなり重要なその二。ダンジョン内に待望のショートカット用エレベーターが実装されます!
今回のアプデで、三層のエリア11、四層のエリア16とつながるショートカット用エレベーターが設置されます。これは中級以上のプレイヤーの人たちにはかなりの朗報ですよね。
一層のスタート地点から二層を経て三層行きのエレベーターまで、最短距離でも四十数キロ。逆に地上へ戻るまでも同じ距離をてくてくてくてく歩いて帰るわけです。時間がかかりすぎるというクレームは僕のところにもよく来ていました。
それも冒険ってもんだと言えばそれまでですが、今回のショートカット設置は多くのプレイヤーにとってさらなる冒険の足がかりになると思われます。〝キャンプ・セブン〟のようなプレイヤーの拠点も増えるかもしれません。プレイヤーは、人類は、よりダンジョンの奥深くへとその活動範囲を広げていけることでしょう。
ただし、これだけは先に言っておきます――というか必ず言えってD庁の人に言われていますので。
三層、四層に生息するクリーチャーは、一層とはくらべものになりません。環境もまたエリアが進むにつれて厳しいものが増えていきます。レベルの低いプレイヤーが無謀にも飛び乗ってしまうと、高確率で痛い目を見ることになります。最悪の場合、生きて戻れないかもしれません。
なので、ご利用の際はくれぐれも自分の能力と相談してください。絶対に無茶はしないこと、命あっての冒険というやつです。エレベーターの前にD庁が注意喚起の看板を置いておくそうなので、乗る前にちゃんとチェックしておいてくださいね。
さてさて、それなりに大きな反響を呼びそうな二つめでしたが、このままのテンションでいっちゃいましょう。
最後の三つめ。アップデートと同時に公開される、期間限定イベントについてお話していきます!」




