2-1:さうろんちゃんねる①
「はい、どうも。世界中のみなさんこんばんは、サウロンです。
宇宙人の宇宙人による地球人のためのユーチャンネル放送、〝さうろんちゃんねる〟、今日もよろしくお願いします!
いやー、それにしても。もう八年ですか。ダンジョンと僕が地球にやってきて。
思い返すとね、地球に来た当初はほんと大変でしたよ。
日本政府にも他国にも国連にも、不法滞在宇宙人としてあちこちから賞金首みたいに追われ、北区の皆様方には地価や不動産価値の低下でしこたま訴えられ。
ダンジョン地下二層まで進んだ自衛隊の先遣隊から殉職者が出てこれまた叩かれ、国会に招致されて緊張のあまり噛み倒して生き恥を晒して……。
いやもう、なんか思い出すだけでハゲそうですわ。ハゲてねえけど。認めねえけど。
でもね、その一年後にはどうにかダンジョンが民間にも開放されて。法務省からこの〝さうろんちゃんねる〟開設のゴーサインも出て。それからもいろいろあったけど、まあつらくも楽しい八年間でしたわ。
僕も今やすっかり地球人、帰化日本人として馴染んでますわ。最近の悩みは三郎ラーメン赤羽店が店長さんの体調不良で閉店したことっすね。僕にとっては地球に来て最初に食べたラーメンで、名づけ親がいなくなっちゃったこの寂しさ。大宮店も閉店しちゃったし、サブロリアンには生きづらい時代やね。
はい。というわけで最近マシマシに飢えるサウロンです。
おかげさまで動画も五百回目を超えまして、視聴者数のほうはじりじり真綿で締めるがごとく下降気味ということでね。まあ、そりゃそうですよね。いい加減新しい情報とかもないし。しゃべりつくしたし。更新回数もモチベーションも三年くらい前からがくっと減ったし。
他のユーチャンネラー真似ていろいろ変な企画とかやりましたけども。うたったり踊ったりゲーム実況したり。使えなくなったスマホをソテーしたら『子どもが真似するだろ』、『不謹慎だ』とか炎上して、突撃となりの晩ご飯をリアルにやってみたら『迷惑だ』、『星に帰れ』、『不謹慎だ』とかまた炎上して。今一番ペイロ星人を困らせるパワーワード、『不謹慎』。
そんなこんなでね、応援してくれる方も日に日に減っていって、僕もいよいよ頭皮の健康とか生活習慣病とか気にしはじめる今日この頃。おかしいよね、宇宙人がうたって踊る動画なんて他のどこにもないよ? 世界に一人だけのペイロ星人ですよ?
飽きた、とか言ってる人。他のユーチャンネル見てみなさいよ。みんな毎日おんなじようなもんだよ。どうせ惰性で見てるんでしょ? 早くそっちも飽きろ。そんでもうちょっと宇宙人を温かく見ろ。見てください。
えー、はい、つーわけでね、炎上芸極めようとか思ってないんだけど、今日もきっと震えて眠るわけですが。
でね、そんな中、最近嬉しいニュースを見ましてね。男子小学生の『将来なりたい職業アンケート』。まあ恒例のアレですが、なんと! ダンジョンプレイヤーが堂々の五位に! そしてサウロンを始めとするユーチャンネラーが四位! 888!
根強い人気だね、野球とサッカー! というのは置いといて、動画投稿を続けてきた甲斐がありますよ。だってプレイヤーってカッコいいもんね。強いし派手だし、お金も稼げるし。人類最強チーム〝ヘンジンセイ〟の織田くんなんか、こないだテレビCM出てたしね。
ダンジョン暦九年――赤羽にダンジョンが来て八年。現在活躍中のプレイヤーは一万五千人以上。彼らの活躍もあって、ダンジョンはこの世界を着実に変えてきた。
ダンジョン産のレアメタルで機械産業は飛躍的に発展した。
ダンジョン資源やクリーチャーの生態研究でエネルギー業界や医療の現場にも大きく貢献してきた。
ダンジョンバクテリアの研究から生まれた浄水機能は発展途上国の多くの命を救ってきた。
政治、経済、文化、学問、あるいは社会情勢や人間倫理を語る上でも、ダンジョンは国際的にまったく無視できない存在になっていった。
注目と比例してプレイヤーが増えていくぶんだけ殉職者も増えてしまうという事実も、ダンジョンを快く思わない人たちがたくさんいるという事実も承知してます。それでもプレイヤーとしての道を選んだ人や、プレイヤーを支える企業や行政、そういう人たちの意思っていうのは尊重されるべきだと思う。きっとそういう夢や情熱が、いっそうこの世界を変えていくはずだからさ。
あれ、なんの話だっけ? アツくなると脱線してしまう癖が抜けない宇宙人。いっけね。
ああ、そうそう。プレイヤーの職業人気だっけ。個人的には喜ばしい反面、大丈夫か日本の将来! と憂う大人の気持もわからんでもないですわ。
プレイヤーってのはロマンとお金を両方掴める仕事だと思います。ダンジョンで手に入るアイテムは高額で買いとられるし、ネットではトッププレイヤーはテレビタレント並みに人気があったりする。僕ですらCMとか一度も出たことないのに。めっちゃ宣伝する気満々なのに。
でもそのぶん、というかそれに見合わないほど、めっちゃ危険な仕事でもある。プレイヤーは常に怪我や死と隣り合わせの職業でもあるわけで。
なによりプレイヤーになるということは、普通の人たちの価値観でいう〝ニンゲン〟から一歩はみ出てしまうってことで。
果たしてそのへん、全国のキッズたちは理解した上で憧れてくれてるもんかなってね。親御さんの複雑な気持ちもわかるし、国としても将来が心配になるのもね。
というわけで、今日のテーマは原点回帰。ダンジョンってどんなところ? プレイヤーってどんなお仕事? っていうのを、改めてわかりやすく、夢ばかりでなく現実もふまえてお話ししていきたいと思います。キッズのみんなもこれからプレイヤー試験受けたいって人も、ダンジョンが現実としてどういうものかちゃんと知ってもらうためにね。
つーかぶっちゃけ、ダンジョン庁からそういうのやってくれって頼まれまして。フェイクニュースとか嘘松とか間違った情報とかが蔓延してるから、つーかお前が適当すぎるからこうなるんだろなんとかしろ宇宙人、だそうで。あの人たちほんと強引なのよね。
地球にまで来てなんで公僕に指図されなきゃいけないんだと思いつつ、衣食住と人権を守るために言いなりになる宇宙人を哀れに思うなら、どうかブラウザは最後まで閉じないで。はい、トイレ休憩のためにジングルいきます!」