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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
2章:赤羽の英雄は主人公に向かない
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3-4:【イグニス】と千影カーニバル

 しゅうしゅうと湯気の立ち昇る死骸から現れたのは――。


 シリンジの箱。キターーーーーーーーーーーー。

 その色は金色。マジかあああああああああああ。


「おにーさん、れああいてむですか?」


 ギンチョがぐいぐい袖を引っ張ってくる。若干紅潮している。この興奮がわかるならプレイヤーとして一歩前進。


「うん、スキルシリンジ」


 アビリティは銀、回復系などは銅。そして最も出にくいスキルが金色だ。


「金色のシリンジはスキル、いわゆる必殺技を習得できる」

「ひっさつわざ! おにーさんのぎゅんっみたいな?」

「そう、るなおねーさんのばんっみたいな」


 ギンチョが隣にいるからクールを装っているが、千影の頭の中では数千人の早川千影が電飾を背負ってカーニバルを繰り広げている。激しいオタ芸や地面をえぐらんばかりのヘッドスピンに興じている早川千影もいる。


 レアアイテム、とりわけシリンジがドロップした瞬間は本当にもう、脳汁が沸騰して天国に昇るくらいのカタルシスを感じる。これこそプレイヤーの醍醐味だと声高にさけびたい。


 なにげにスキルシリンジのドロップはプレイヤーになって初めてだ。【ムゲン】は黒のエネヴォラから渡されたものだし、とにかくスキルシリンジは出にくいから。プレイヤーの半数以上がスキルを持っていないらしいし、高レベルのプレイヤーでもごくまれに持ってなかったりするらしい。


「……マジかよ……」


 しかもこれは、なかなかの人気スキル。箱の裏には【イグニス】と記載されている。


 プレイヤーの中で最も有名で一般的なスキルが【ブレイズ】だ。てのひらから火球を射出することができる。ダンジョンウィキの評価ではレア度Cながら、威力はそこそこ、クールタイムも短めと使い勝手がよく、初級者から中堅までオールラウンドな人気を持つスキルだ。


 その火力特化型と言えるのが【イグニス】。【ブレイズ】や【ムゲン】などのクールタイム方式とは異なるチャージ方式で、連射は利かないが時間をかけてチャージした際の火力は抜群。その一発で窮地を吹き飛ばすチームの切り札的スキルだ。ダンジョンウィキでも「編集部が選ぶ後衛に持たせたいスキルベスト5」に載っていた。ちなみにレア度評価はB。


「どういうやつなんですか?」

「でっかい火の矢がびゅんって、ぶおーんってやつ」

「おにーさんはぎゅんっのうえにぶおーんのかいじゅーになるんですか?」

「いや、僕はこれを使えない。スキルは一人につき一つしか習得できないからね」


 仮に千影が【イグニス】のウイルスを体内に投与したら、先に習得した【ムゲン】が上書きされて消えてしまう。火力の高い長距離砲は魅力だが、ソロや前衛向きの力ではないし、チート性能を誇る【ムゲン】を捨てるメリットはない。


「はう!」ギンチョがぴょこんと挙手する。「じゃあ、わたしがつかいたいです!」

「うーん、明智さんと相談かな」


 ギンチョはそもそもダンジョン因子を持っていないとか、こないだタカハナが言っていた気がする。となると、アビリティやスキルのウイルスは使えない。まあ、元々【ベリアル】並みの身体能力があるし、あのチートな再生能力もあるから、スキルなんかなくてもじゅうぶんすごいけど。


 となると、資源課で売却もしくはトレードすることになりそうだ。金額にして百数十万くらいになると思われる。そうすれば当面の資金問題はだいぶ楽になる。〝えうれか〟のローンもだけど、なにより先にサラ金のほうを減らさないと。


「ここんとこ苦労続きだったから、こういうでっかいご褒美があるとプレイヤー冥利に尽きるよね。ひっさびさの超収穫だわ。マジダンジョン最高、クリーチャーズハウスマジ卍」

「まじまんじ」

「ギンチョにもわかりやすくたとえると、これ一本で肉何千枚になるか」

「なんぜんまい……」

「さあ、他のクリーチャーのドロップも確認しよう。なにか落ちてるかも」

「なんぜんまい……」

「そのあとは寄り道せずに、目的どおりエリア10に向かおう。うん、だからその手を離してよだれを拭いて」



 他にもいくつかレアドロップおいしかったですのエリア8を抜け、荒廃した城下町のエリア9へと足を踏み入れる。


 このエリアの空はずっと薄暗く、墨を混ぜたような不吉な濃紺色から四六時中変わらない。クリーチャーの軍勢に滅ぼされた国、というゲーム的コンセプトが浮かびそうな光景だ。


「なんか、ここはこわいです。ほっぺたがちりちりするです」


 ここはレベル4でもまったく油断ならない、慎重に進まざるをえない場所だ。レベル2相当のクリーチャーの出現確率はまだそう高くないが、ねじ角コボルドや青ゴブリンといった武器や飛び道具を使う手ごわい敵が多い。初級者チームの全滅率トップなのがこのエリア9だ。


「先に進んでいくにつれ、環境は厳しくなるし、敵も強くなる。八年前の自衛隊もここまでは到達できなかった。エリア8で殉職者が出て引き返したって」

「ごくり……」


 【ロキ】の聴覚強化でこまめに索敵しつつ、極力戦闘を避けてエリア10に向かう。それでもエンカウントをすべて避けることはできず、会敵の際には時間をかけないようすみやかに排除する。刀は抜いたままだ。

 案の定、城下町から城の敷地内に入るまで、何度も戦闘を強いられる。ねじ角など換金できる素材は貯まるものの、ギンチョがいるからかなり神経を使う。


「城の裏手を抜けるとエリア10だけど、環境的にはここよりもさらに厳しくなってくる」

「ごくり……」

「お前のリュックに入ってる防寒マントの出番だよ。地上は夏だけど、僕らはこれから真冬に向かうんだ」

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