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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
2章:赤羽の英雄は主人公に向かない
54/222

3-3:クリーチャーズハウス

「ぎゃわーーーーーーーーーーーーーーー!」


 エリア8――薄暗い広大な洞窟の一室にギンチョの悲鳴が響く。ひしめき合うクリーチャーたちの視線をいっそう集めることになる。クリーチャーズハウスのスイッチを引鉄に、天井の胎巣(ネスト)から瞬く間に産み出された数十体のクリーチャー。


「ギンチョ、逃げるぞ!」


 チビっこの身体を抱え、千影は即座に【ムゲン】を発動。三倍速の世界でクリーチャーたちの隙間を縫い、滑り込むように部屋の出口から脱出する。探索ゲームのセオリーだ。

 廊下は狭い。クリーチャーたちが押し寄せるものの、一度に相手にする面は一つで済む。囲まれてフルボッコからのゲームオーバーという最悪の事態は免れた。


 ここからの選択肢は二つ。逃げるか、戦うか。


 ここはエリア8、近辺の強キャラであるまよなかドラゴンでもレベル2相当。先ほどざっと見渡したところ、特別出現個体(レッドコメット)――クリーチャーズハウスに現れる、その階層に不釣り合いな強さを持つクリーチャーは見当たらなかった。この場に留まって一匹ずつ倒すことはそう難しくない。


 しかし今、背後にはギンチョがいる。万が一後ろからクリーチャーが現れて挟み撃ちになれば、一気にピンチに陥るおそれもある。


 かと言って背中を見せて逃げることもリスクがないわけではないし、こいつらを放置すると他のプレイヤーにも迷惑になる。一度湧いたクリーチャーは倒さない限り消えないし、ハウス内に出現する胎巣(ネスト)と呼ばれる装置を破壊しない限り、しばらくは延々湧き続ける。


 まあ、いろいろ考えてはいるが、結局はさっき視界に入ったレアアイテム落としのクリーチャーに欲をかいているわけで。

 ギンチョは後ろでおとなしくしている。一周回って魂が抜けたみたいな顔をしている。まあ、これも教育、経験だ。


「ギンチョ、後ろから敵が来たら教えろ!」

「は、はうはうっ」


 まだショックが抜けきらないながら、それでもこくこくうなずくギンチョ。

 千影は〝えうれか〟の刀を抜き、部屋から溢れてくるザコを迎え撃つ。



 一体一体は大した強さではないが、斬っても斬ってもなかなか減らない敵勢に刀を振るい続けるのはかなり疲れる。ラウンドの区切りのないボクシングみたいなものだ。


 死骸が邪魔になるので、じりじりと後退しながら一体ずつ処理していく。十体以降は数えるのをやめる。気になって後ろを振り返るが、ギンチョは壁際で震えながらも通路の反対側をきちんと見張ってくれている。


 息切れで動きが鈍りはじめた頃、ようやく新手が出てこなくなる。小規模のクリーチャーズハウスとはいえ、三十体以上はいたはずだ。ジャージは色とりどりの返り血でファンキーな汚れかたをしている。せっかくギンチョのと二人ぶん、エネヴォラに破られたのを修繕してもらったばかりなのに。


 ようやく落ち着きをとり戻したギンチョとともに、まだ息のあるやつがいないか慎重に確認しつつ、部屋に戻る。


 エリア8はいわゆるダンジョンらしい洞窟風のエリアだ。部屋というより広めにくり抜かれた空洞のようながらんとした空間で、床はごつごつしているし天井も高い。部屋のど真ん中でクリーチャーズハウスのスイッチを踏んだのはギンチョだ。


「あれを壊せば、もうクリーチャーは出てこない」


 天井を指さす。胎巣はそのときによって形状はまちまちだが、だいたい巨大な球形でクリーチャーの排出溝がある。そこからずるっとぼとっとクリーチャーが産み出される。さっそく一体出てきて、ギンチョがひっと声を詰まらせる。


 そいつを瞬殺し、槍を抜いて天井めがけて投擲。ごずんっ、と胎巣に直撃。紫色の液体をぶちまけながら破裂し、霧散する。これでひと安心、自分の責任は果たした。厳密にはギンチョのだけど。


 こういう屋内のエリアは、基本的に光源が少なくて薄暗い。岩壁に青っぽく光る石が散りばめられていて、夜の街中程度にはあたりが見渡せるが、隅々まで調べるなら明かりがほしいところだ。


「ギンチョ、懐中電灯」

「はう」


 そういう道具はギンチョのリュックに入っている。ポーターの役割だ。

 スイッチを入れ、部屋の隅に光を当てる。しゃかしゃか動いている影がある。


「あ、かわい……ぎゃわーーーーーーーーー!」


 ダックスフントのような胴長短足の愛らしいボディーに、脂ぎったおじさんと猪とタコを足して三で割った顔をつけた戦慄のブサキモフェイス。モゲロンボョという謎のネーミングをされたこいつは、シリンジのドロップ事例が報告されるレアクリーチャーだ。


 それが三体、部屋の隅で反復横跳びみたいな動きをして逃げる気満々でいる。黒光りするその毛並みはさながらおっさん顔のゴキブリ。懐中電灯の光を反射する目が爛々としているのがいっそう不気味。


 モゲロンボョは臆病で、プレイヤーを見かけると一目散に逃げる習性がある。ここでは出入口は一つしかないから逃げ場はないが、レベル1の足では追いつけないほどすばしっこく、複数人で追いつめるか罠や飛び道具を使うのがセオリーだ。


 まあ、千影には【ムゲン】があるので、とり逃がすことなく三体同時に倒す。そのうちの一体が早くもどろどろと肉体を崩壊させていく。細胞自殺(アポトーシス)による融解――レアアイテムのドロップの兆候。


 おっしゃ、来た、来ましたよ。テンション急上昇。

 しゅうしゅうと湯気の立ち昇る死骸から現れたのは――。

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