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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
2章:赤羽の英雄は主人公に向かない
52/222

3-1:さうろんちゃんねる⑧

シーケンス的には⑧ですが、時系列としては⑥の続きです。

「つーわけで、トイレブレイクを挟んで引き続き〝ヘンジンセイ〟の織田くんとお送りしているわけですけども」


「あー、ビール飲んでいいっすか?」


「フリーダムだね、さすが世界一の冒険家」


「さっきのエネヴォラの話で俺的には用件終わったんで。あとはだらだらお付き合いしますわ」


「ちょっとー、これ僕の生活費に直結してるからね。週末のごはんが回転寿司になるかバナナになるか、これで決まるんだから」


「せきにんじゅーだいっすわー(棒)」


「ではでは、視聴者さんに事前にいただいた質問に答えるコーナーに行きましょうか。織田くん、君と僕とで答えていくんだよ、眠そうだけどちゃんと聞いててね」


「わかってますって。あ、テンカイさんビールあざす」


「はい、織田くんアルコール満タン入りまーす。さっそく行きましょう。あ、テンカイくんプリントありがとう。最初のメールは東京都の〝マチ針〟さん。『織田さんは彼女とかいますか?』だって。どうなん?」


「ネット見ろっす」


「次行きましょう。埼玉県の〝にべ〟さん。『織田さんの年収はどんくらいですか? プレイヤーってどんくらい儲かるんですか?』。どうなん?」


「まあまあっすね。他の人はわかんないけど、俺はたぶん稼いでるほうっす。がんばればそれだけ夢はある仕事だと思うっすよ。えっぷ」


「もう酔ってんの? 愛媛県の〝オロ九〟さん。『今まで一番ピンチだったのでどんなことですか?(原文ママ)』。織田くんの質問ばっかりやん。そらそうやん」


「さっきもちょっと話したけど、黒のエネヴォラに襲われたときと、ピンクのエネヴォラとやり合ったときっすね。あとは七層でクリーチャーズハウスに遭ったときとか。百回くらい死ぬ死ぬやべーって連呼しましたわ」


「僕からも質問していい? 惑星ペイロの〝サウロンマジ卍〟さんからの質問です」


「HNうぜえ」


「織田くんてさ、ぶっちゃけ僕のこと嫌い?」


「あはは、なんでっすかー。んなことないっすよ」


「だってー、ときどき僕を見る目がすごい怖いんだよなー。にっくきゴキブリ火星人でも見るような目でさー」


「気のせいっすよ、被害妄想の強い宇宙人だなー。ほら、俺って人類最強? とか噂されるほどには修羅場くぐってるじゃないっすか。無意識に殺気とかオーラとか? 漏れちゃってるのかもっすね。気をつけますわ」


「気をつけてよね、レベル8に睨まれたら失禁しちゃうよ、僕」


「つか、俺ばっかり質問されてるんすけど」


「テンカイくんによると、織田くんゲスト回だから九割織田くんの質問だってさ」


「じゃあ、残り一割でいきましょ。紙貸してください、俺読みますわ。うわ、文字ちっさ。小さすぎて読めなぁい! ハグキルーペ持ってきて!」


「ビール一本でできあがりすぎじゃね?」


「うーんと、青森県の〝田中康明〟くん。『【ベリアル】のレベルアップってどうやったらわかるんですか? なにか身体に印が出たり、ファンファーレが鳴ったりするんですか?』。おー、いい質問っすね」


「これ、現役プレイヤーの君に答えてもらうほうがいいんだけど、君が質問読んで君が答えたら僕いらなくね?」


「じゃあ適当にチャチャ入れてください。えー、【ベリアル】ですが、基本的にはクリーチャーとの戦闘とかダンジョンでの行動とか、そういうので目に見えない経験値的なのが遺伝子? に貯まるそうで、それが一定量を超えるとレベルアップするんすよね。ファンファーレ音は鳴らないけど、身体がいきなりビキビキッてなって、なんつーか筋肉痛の百倍痛くてこわばる感じがして、それが収まったらパワーアップするんすよ。見えない皮を脱皮するような感覚って、プレイヤーあるあるっす。それで本人は気づきます。外から判断するのは神眼でもないと無理っすね」


「まあ、神眼なんてものもないんだけどね。ついでによくある質問、同じレベル内でも個人差とか、経験値の蓄積で身体能力に差はあったりするの?」


「個人差も若干あるし、熟練度での差も多少ありますね。身体がレベルに馴染んで、筋肉もそれに見合って発達していくっていうか。レベルアップ直後と次のレベルアップ寸前ではちょっとだけ差がある感じっす。ただまあ、やっぱりレベル差のほうが幅としては大きいっすね」


「織田くんはレベル8だもんね。何度も経験してきてるわけだ」


「次行きましょ。神奈川県の〝hibagon〟さん。『前にサウロンがダンジョンには生態系はまだないって言ってたけど、クリーチャーはなにを食べてるんですか?』。おー、これまたいい質問。これはサウロンさんが答える番じゃないすか」


「おっしゃ、お答えしましょう。ダンジョンにはクリーチャーだけでなく、小さい虫や魚や小動物もいます。クリーチャーはそれを食べたりします。もちろんプレイヤーも食べますし、獰猛なやつは他のクリーチャーを食べたりもします。草食系のクリーチャーは草とか食べます。人の肉は食べませんが、近寄ると縄張りを守るために襲ってきたりするので、草食だからって油断したら危ないからね」


「そういう小動物とかもクリーチャーって呼ばないんすか?」


「厳密に言えばそうなんだけど、人間を襲う敵性生物をクリーチャーと分類するほうがわかりやすくなくなくない?」


「なくなくなくないっすね。ていうか、もはやそれって生態系じゃないんすか?」


「クリーチャー自体がクリーチャーを産んで、それで環境が循環するようであればそう呼べるけどね。実際はダンジョンがそれをポップさせてるわけだから」


「テンカイさん、つまみもらっていいっすか?」


「チー鱈食いながらでいいから、あといくつかメール読んでよ」


「失礼しやした、えっぷ。えー、〝ダルマ少林寺〟さん、群馬県。おー、俺も出身は群馬なんすよ。起立、注目、礼! ってね」


「ある意味ダンジョンみたいな土地だよね」


「あーあ、また叩かれるわ。『クリーチャーはダンジョンが産み出しているって言いますが、実際にどうやって産んでるんでしょうか?』。あー、これ、実は俺もよくわかんないんすよね、はっきりと産まれた瞬間って、クリーチャーズハウスの胎巣以外では見たことなくて」


「何年もやってる君でもそうなんだね」


「ごくまれにそういう場面に出くわすんすけど、『気づいたらどっかから出てきた』としか言いようがないんすよね。地面とか壁とか、あるいはなにもいなかったはずの水辺とか。さっきまでいなかったじゃん? いつ出てきたん? みたいな。あれってマジどうなってんすかね?」


「観測という行為では捉えられない事象かー。まさに宇宙的というか哲学的というか」


「なにドヤってんすか。どんな原理なのか教えてくださいよ」


「そんな小難しいこと、僕が知ってると思う?」


「知ってても教えてくんないっすもんね、はいはい。次、これなんか俺もぜひ聞きたいっす。〝ハイルーフ〟さん、山梨県。『サウロンの話によく出てくる〝ダンジョンの意思〟って、ずばりどういう人なんですか? なにをしてる人なんですか?』」


「そうだねえ……今までのおさらいになっちゃうけど、〝ダンジョンの意思〟はそもそも人ではないんだ。名前のとおり、意思は持っている。この星の言葉を借りるなら、人工知能ってのが一番しっくりくるかな。まったく身体がないわけでもないんだけど」


「大流行中のAIってやつっすか」


「僕がゲームの説明書なら、〝ダンジョンの意思〟はゲームをつくった開発者であり、サーバーの管理人だね。何十万年もの間、ダンジョンを一人で管理し、発展させ、いろんな星を渡り歩いてきた。赤羽ファイナルダンジョンのシステムやルールも、当然〝ダンジョンの意思〟が構築した。地球仕様にするときには僕の意見も多少とり入れられたけどね」


「ダンジョンにおける神みたいなもんなんすかね」


「創造の神という意味ならそのとおりだけど、あいつがプレイヤーをどうこうすることは基本的にはないよ。理不尽なデウス・エクス・マキナが起こったりはしないから、そのへんは信用してプレイしてほしいところだね」


「〝ダンジョンの意思〟は、人格とかはあるんすか? 心っていうか感情っていうか」


「うん、あるよ」


「俺らの前に出てきてはくれないんすか?」


「そこはね、案内役であり看板男のサウロンさんがいるわけなので」


「サウロンさん、あんまり深いことは教えてくれないんすもん」


「説明書に攻略情報とか裏設定とか載ってたら、ゲーム面白くなくなるじゃん」


「説明書って誰も読まないっすよね」


「読んで、お願いだから読んで。一人にしないで」


「つーか、全部既出の情報じゃないっすか。使えない宇宙人だなあ」


「はい出ました、エリハラ。エイリアンハラスメント。厚労省の人呼んでー」


「その〝ダンジョンの意思〟が、なにを考えて地球にダンジョンなんて代物を持ち込んだのか? 〝ダンジョンの意思〟はいったいなにを求めているのか? その真相にたどり着くのもプレイヤーの仕事。でしたっけ? 初期の頃の放送でそんなこと言ってたっすよね」


「そういうこと。じゃあ、一つだけ。どうでもいい新情報を最後に付け足ししようかな」


「おっ、いいっすね」


「〝ダンジョンの意思〟にも、惑星ペイロの言語での名前があるんだ。偶然にもそれは、英語で意志を表す言葉と同じ発音だった。〝ダンジョンの意思(ウィル)〟、僕らは彼のことをそう呼んでいた」

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