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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
1章:怪獣娘にかける言葉は決まっている
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1-3:コミュショー

 誰に教わったわけでもないから素人作業だが、まずは落とした首から血抜きをする。荷物をとりに戻り、ロープに吊るしておく。最後に赤い手を切り落として首ともども回収、という段取りだ。


「三日で十五万かー。意外とおいしいわー」


 他の中堅どころや上級者からすれば大した額でもないかもしれない。だけど一層で比較的安全に稼げたという点ではじゅうぶんおいしい。丸一週間はかかると覚悟していただけに、三日で済んでさらにラッキー。


 そういえば、と血抜きが終わるまでの間にあのチームをさがしてみる。さっきの広場に彼らはいる。二人とも引っ掻き傷やら噛み傷やらで血まみれだが、気絶したままのリーダーに肩を貸して歩くくらいの余力はあるらしい。


「すいません、地上まで一緒に連れていってもらえませんか? こいつ、もしかしたら重傷かもしれないし……」


 ああ、それは大変だ。僕が急いでエリア1まで連れていきます。

 という気持ちにイマイチなれないのは、自分が薄情だからだろうか。見た感じ、命に別状はなさそうだからだろうか。

 断りはしないけど。断ったりしてSNSとかに書かれたらたまったもんじゃないし、かくいう昔の自分もそういう善意で生かされたわけだし。でもめんどいなーと内心思うくらいの権利はほしい。


 獲物を解体し、目当ての部位を持参した革袋に入れる。手の一本は【アザゼル】で傷ついてしまったが、ノルマ(頭と腕六本以上)は確保できているから大丈夫だろう。残りはそのままにしておく。放っておけばダンジョンバクテリアが一・二日で分解してくれる。ダンジョン中が腐乱死体だらけにならないからくりだ。


「すいません、お待たせしました」


 などと一応謝っておく(棒読みで)。ショッキングピンクの返り血にまみれたぎこちない笑みを見て、二人は若干引いている。

 さて、本日のお仕事は無事おしまい。

 とはいえ、帰り道も油断はしない。家に着くまでがダンジョンだから。


   *


 エリア1、とにかくだだっ広い〝ハジマリ平原〟まで戻る。

 その西端に建設された駐屯地に入り、診療所に連れていく。ちょうど顔見知りの前野良太医師がいる。ここに勤務しているダンジョン医だ。


「よお、早川くん。連れがいるなんて珍しいな」


 メガネとヒゲの顔が人懐っこく笑う。二回り以上年上ながら、千影があまり緊張せずに会話できる数少ない人だ。


「と思ったら、怪我人か。ここに寝かせて」


 前野はまだ意識の戻らないリーダーに呼びかけ、目にライトを当て、身体のあちこちに触れる。


「肋骨、骨盤、あちこち折れてるな。たぶん脳震盪だろうが、命に別状はないと思うよ。石頭に産んでくれた両親に感謝だな。地上に搬送しよう」


 前野がトランシーバーで連絡を入れる。間もなく担架を持った救急隊員がやってきて、スムーズな連携でリーダーを乗せ、滑るように運んでいく。


「ほら、君ら二人も。自分で歩けるだろう、プレイヤーなんだから」


 前野に促され、安堵と疲れで呆けていた二人もはっと立ち上がり、救急隊員のあとに続いて歩きだす。女性のほうが思い出したように振り返り、千影のほうに向き直る。


「あの、ありがとうございました。助かりました、ほんと……あとでお礼を」

「あ、いえ……そんな別に……」


 赤面不可避。照れて顔が歪む。自分ではわからないが、女性がぎょっとするほどに。


「へえ、お前さんが人助けとはね。人見知りでぼっちの権化のようなお前さんが。成長したじゃないか、おっさんは嬉しいぞ」

 褒めとディスりの雑な混ざり具合。


「お嬢さん、気にすることはないよ。こいつもぺーぺーのときにはどてっ腹に風穴開けてここに運ばれてきたんだから」

 やめて、大声で暴露しないで。


 男女はそろってぺこりと頭を下げ、そのまま担架を追いかけていく。年上の人たちにあんな風に感謝されるなんて、ダンジョンプレイヤーにでもならなければ一生体験しなかったかもしれない。


「人見知りだけど、人間嫌いってわけじゃないんだよな、お前さん」

「なるほど(確かに)」

「だけど、照れるとキモ顔になる癖は直しとけ。それじゃ彼女できんぞ」

「なるほど(キモいんだ)」

【備忘録】


・駐屯地

…エリア1に設けられた施設。駐屯地と呼ばれるが軍隊の駐在はなく、プレイヤーの支援やダンジョンの諸研究などを主な目的としている。

コンビニや食堂、プレイヤー向け用品のPX(購買部)や診療所や研究所などがあり、一般人向けの観光ツアーも催されている。


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