5-6:さうろんちゃんねる⑥
エネヴォラとは、ダンジョンにごくまれに出現する特殊なクリーチャーの呼称である。
・人間に近い姿をしており、宇宙服のようなスーツを着ている。
・知性が確認されており、意思の疎通も可能とされるが、どの程度かは不明。
・出現場所、出現時期は不定であり、規則性は確認されていない。
・ダンジョンのどこかに突如出現し、その生死に関わらず一定時間をすぎると姿を消す。
・その間、出現場所から遠く離れることはなく、他の階層への移動もない。
・その気性は獰猛、残忍であり、プレイヤーを見かければ問答無用で襲いかかる。
・その殺傷能力はプレイヤーレベル換算で4~7以上と推定される。
・階層に生息するクリーチャーの平均レベルに関わらず出現する。つまり、低レベルのプレイヤーが活動する浅層でも出現する。
・ダンジョン暦八年、黒のエネヴォラによりエリア6でとあるチームが一人を残して虐殺された。それが最も浅いエリアでの出現事例である。
・エネヴォラは複数の個体が存在する。
・現在までに確認されているのは七体。それらはスーツの色で区別される。
・赤、白、黒、ピンク、青、緑、紫。
・そのうち、ピンクと緑はプレイヤーによる討伐が確認されている。
・正確な統計は出されていないが、プレイヤーの年間殉職者のうち、およそ一割から二割がエネヴォラの手によるものとされる。
・エネヴォラは災害のようなものだと認識しなければならない。
・遭遇したプレイヤーは、決して応戦しようとせず、全力で撤退すべきである。
「ってのがD庁公式サイトとダンジョンウィキに載ってるエネヴォラの情報だね。うん、宇宙人的に見てもよくまとまってる。テンカイくん、動画に載せる編集ありがとうと先に言っておく」
「プレイヤーの間では死神とも呼ばれてます」
「怖いね。僕だったらちびっちゃうかも。つか全部出ちゃうかも」
「怖いというか、理不尽っすね。低レベルのプレイヤーが運悪く遭遇したら即ゲームオーバーっす」
「でも君は生き延びた一人だ」
「そうっすね、俺はプレイヤーになって六年っすけど、二度遭遇しました。最初はまだレベル2だった頃、黒のエネヴォラでした。それこそなりふり構わず必死こいて逃げて、命拾いしたのはマジで幸運でした。二度目はレベル6のときにピンクのエネヴォラ。強敵だったけど、仲間と総がかりでどうにか倒すことができました。三年前っすね」
「さすがだね」
「でも、ウィキには載っていない情報もあるっす」
「まさかの新情報? こんなところで発表しちゃってだいじょぶ?」
「あいつらは……俺たちプレイヤーを、というか人類を、強く憎んでるっす。人類全員根こそぎぶっ殺しても足りないくらい、ものすごい恨みと憎しみだったっす」
「うーん、そうなんかね」
「どうなんすかね? なんでなんすかね? 俺が訊きたいんすけど」
「織田くんが訊きたいことはわかってるよ。あいつらはいったいなんなんだって、自分たちはいったいなにと戦ってるんだって。それを僕に確認しに来たんでしょ」
「はい、そっす」
「これまでも僕は、D庁やIMODにエネヴォラについてさんざん尋ねられてきた。そのたびにのらりくらりとかわしてきた。秘技・知らぬ存ぜぬを通してきた。弁明するとね、〝ダンジョンの意思〟の意向で、僕が話せることはほんのごく一部なんだ。今はまだ、すべてを話せるときじゃない」
「何年経ってると思うんすか? これまで何人が犠牲になったと思ってるんすか?」
「気持ちはわかるよ。だから僕は、人類が初めてダンジョンに入るとき、その存在について警告した。エネヴォラという特殊なクリーチャーの存在とその特性、危険性について。僕にできるのはそれくらいだった。それでじゅうぶんだったはずだ」
「でも――」
「それ以上の範囲の話をしたとしても、現実はなにも変わらない。エネヴォラという存在を消すことはできない。理不尽な存在だと思われるけど、それも赤羽ファイナルダンジョンの一部なんだ」
「…………」
「公開できる情報は、D庁のお偉いさんにもそのへんのキッズにも平等に公開する。それが僕の理想だ。僕はあくまでもダンジョンの案内人であり、いわばゲームの説明書だ。そこから先は君たちが答えをさがさなきゃいけない。ダンジョンの冒険における主役はあくまでプレイヤーだからね。お、今いいこと言ったっぽい」
「……じゃあ、一つだけ教えてください」
「答えられることなら」
「エネヴォラって、サウロンさんがD庁に教えた名前っすよね。どういう意味なんすか?」
「……プレイヤーにそれを訊かれたのは初めてだわ。単なるクリーチャーの名称でなく、なにか意味を持った言葉だと思ったんだね。あいつらと直接やり合った君ならではの疑問だね」
「はい」
「ご名答。じゃあ、それに敬意を表して答えよっかね。〝エネヴォラ〟は、惑星ペイロの言葉だ。その意味は――罪人」




