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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
1章:怪獣娘にかける言葉は決まっている
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5-3:大和完介、ギンチョのつぶやき

「えっと……すいません、ちょっと……」


 コミュショースイッチが入ってしどろもどろになる千影。あはは、と感じよく笑うイケメン。


「ごめん、憶えてないよね。小中で一緒だった、大和完介。何度か話もしたと思うけど」

「あー、ああー……大和、くん。あんまり学校に来なかった……」

「そうそう。君と同じくぼっちだった大和です」


 うわー、人って変わるんだなー。あの超陰キャ不登校少年がこんな爽やかイケメンになって。こっそり同志だと思っていたのに。

 ああ、いたたまれなくなってくる。自分はこの十八年、一貫して巨木のごとく不動のモブ顔だ。


「よく……僕だってわかったね……」

「だって、全然変わらないじゃん。顔もそうだけど、この場でちょっと浮く感じのその普通なオーラというか。ああ、いや、ある意味安心感があるっていう意味で」


 新聞紙で屋根をこしらえるがごとくとってつけたようなフォロー。


「ていうか、その子……」大和がギンチョのほうに目を向ける。「もしかして、少し前に噂になってた、特例免許の子? ってことは、君がメンター? レベル4の?」

「あー、えーと、うん……」

「すげえ! 同年代でレベル4って、なかなかいないよ。って言いつつ、俺もレベル4なんだけど」

「え、マジで……?」

「中学卒業してすぐにプレイヤー免許とって、必死こいて丸二年でようやくここまで来たんだよね。周りを見ればかなりのスピード出世のはずなんだけど、まさか同級生に同レベルがいるなんて」

「いや、でも、僕は免許試験一回落ちてるし……」

「ってことは、歴的には俺より短いじゃん。そっちのがすごくね?」

「いや、ドロップとか、運がよかっただけで……」

「謙遜しなくてもいいって。ダンジョンってのは運も味方にできなきゃ生きていけない場所だって、君もわかってるっしょ?」


 確かに、そうかもしれない。


 あのとき、自分が生き残ったのは運がよかっただけだ。生と死は、千影とチームの仲間たちは、ほんの薄皮程度の運命で仕切られていた。自分はたまたまこちら側にいただけで――。


 ぎゅっとジャージの裾を引っ張られ、思考が途切れる。ギンチョが千影の腰にしがみついている。大和から隠れるように。


「あ……ごめん、屋台さがさないと……この子、お腹減ってるみたいだから……」

「ああ、こっちこそごめんね。俺も仲間のところに戻るよ」


 大和は腰をかがめ、ギンチョに顔を近づける。胸元からペンダントがこぼれ落ち、「おっと」と慌てて襟に仕舞う。


「君のお名前は? よかったら教えてくれるかな?」

「……たかはなギンチョともうします……」

「はは、ご丁寧にどうも。いい名前だね、ギンチョちゃん。僕は大和完介、君のお兄さんの旧友ってところだね」


 初耳。自分に友だちがいた過去があったなんて。


「じゃあね、ギンチョちゃん、早川くん。俺はしばらくこのへんにいるから、今度ゆっくり話そう」


 大和はイケメンにだけ許されるウインクというスキルをやってみせ、爽やかな風を残して去っていく。


「そういえば、珍しく人見知りしてたね、ギンチョ」

「あのひと、おにーさんとおなじにんげんとはおもえません」

「ほう、言うようになったじゃないか」


   *


 塔に生息するスカイフィッシュみたいなキモいコウモリの肉を出す屋台に空席があり、串焼きや素揚げやカルパッチョを堪能する。味や歯ごたえは鶏肉に近く、見た目で懐疑的だったギンチョも一口食べてからは迷いが消え、締めの焼きそばまで綺麗にたいらげる。


 水場で歯を磨いてシャワーを浴び、テントに戻っていつでも寝られる準備をしておく。この至れり尽くせり感。危険がいっぱいのダンジョンなのに、音楽フェスの会場でキャンプしている気分だ。フェスもキャンプも行ったことないけど。


「外は結構騒がしいな。眠れそう?」

「はう、だいじょぶです」


 二人並んで寝袋に入る。ランプは一応つけておき、荷物は盗難などに備えて千影の枕元に集めておく。腕時計を見るとまだ午後十時。だけど昨日はあまり眠れなかったから、今日はこのまま寝てしまうのもいいか。


「あの……おにーさん」

「ん?」

「おにーさんは、なんでダンジョンにもぐるですか?」


 思いがけない不意打ち。先に訊かれてしまった。ずっとこっちが訊きたかったことを。


「それは……仕事だから、かな。他にとりえもないし、結構稼ぎもいいし」


 いつもそう思っている。そう割り切っているからこそ、慎重でドライでいられる。そのせいでつまらないとか冒険心がないとか周囲に思われているだろうけど。


「それだけですか?」


 千影は横を向く。ギンチョと目が合う。


 それだけじゃない、と言いそうになる。


 目的がある。自分がプレイヤーでいる限り、忘れてはいけない、避けては通れない目的。この身を賭して、なんて凛々しく胸を張れる自信はないけど、それでもここで生きる限りいつか果たさなければいけない、仇討ちという目的がある。


「……ギンチョは、どうしてダンジョンにこだわるの?」

「ほえ?」


 質問に質問で返すとか、スマートなやりかたじゃないよね。でも、この際だから。


「最初に会ったときからさ、ダンジョンに行きたがってたよね。動画を見て憧れていたから? 今もダンジョンにいて、楽しい?」

「……たのしい、です。おにーさんといっしょだから」


 ギンチョが小さくはにかむように笑う。またもや不意打ち。たじろぐ人生の先輩。

 違うって、そういう答えを求めているわけじゃ――いや、嬉しいけど――嬉しい? なんで?


 ごろんとギンチョは向こう側に寝返りをうつ。まるで話はそこで終わりだと告げるように。なにその高度な駆け引きの感じ。計算してるの? それとも偶然? そのへんレベル0のお兄さんに教えて。


「――――――」


 ギンチョがなにか、向こう側につぶやく。よく聞きとれなかったが、気のせいでなければ、こう言ったと思う。ほとんど抑揚のない、無機質な言葉で。


 ――ワタシハ、ココニイナキャイケナイデス。

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