3-5:さうろんちゃんねる④
「ウイルス……目に見えないほど小さくて、ヒトや動物にくっついて病気にしちゃうアレのことです。ウイルス大好きー! なんて子はめったにいないと思うけど、プレイヤーにとっては金銀財宝よりも貴重なアイテムだったりします。
正確に言うと、ここでいうウイルスとはレトロウイルスのことです。ヒトの細胞にとりついて、RNAを逆転写したDNAをゲノムに組み込んでしまう。つまり、元々のゲノム――人体の設計図を書き換えてしまうウイルスですね。
さて、AIDSや白血病など、とても深刻な病気を引き起こすレトロウイルス。他方、昨今では天然のナノマシンとして、IPS細胞とか遺伝子治療なんかに応用されていたりもする。ポップな言いかたでまとめると、レトロウイルスとは人体の改造屋みたいなところかな。
あ、このへん小学生にはぴんとこないと思うんで、適当に雰囲気だけわかってもらえればいいからね。
つーかね、今回のこのお話、わりとセンシティブでリスキーな感じでして。おふざけするとダンジョン庁とか悪魔より怖い人権団体とか、いろんなところから叩かれちゃうんですよ。
とはいえ、避けては通れないお話でもあるんでね。さらっと流れるように行きたいと思います。さらっと。
さて、ダンジョンではさまざまな種類のレトロウイルスが入った注射器――シリンジを入手することができます。超レアアイテムです。ダンジョン因子については前に説明したけど、それを持つ人間の身体にレトロウイルスを注入すると、その人はウイルスに感染し、遺伝子レベルで肉体に変異が起こります。
肉体の強靭化。皮膚を硬質な金属で覆う能力。聴覚や視覚を強化したり、腕を伸ばしたり巨大化させたり。あるいは身体を巨人化させたり獣人化させたり――。
そういった「アビリティ」と呼ばれる肉体変異と能力付与を重ねることで、プレイヤーはより強くなっていく――。それがダンジョンという過酷な環境を生きぬいていくための必要条件なわけです。
ちなみに、レトロウイルスは主に三種類あります。
先ほど触れた、アビリティを付与するアビリティウイルス。
スキル――いわゆる必殺技を習得できるスキルウイルス。
そしてその他、一時的に肉体を増強したり、傷を回復したり毒を中和したりする、ゲームでいう消耗品的なドラッグウイルス。アブない感じじゃないから安心してね。
このへん詳しく話しはじめるとキリがないんで、今日は前者のアビリティウイルス、中でもプレイヤーにとって最も基本であり最も重要な【ベリアル】について解説しましょう。
プレイヤーの強さ――生存能力や戦闘能力でなく、肉体的な頑強さと身体能力を示す指標として〝レベル〟がよく使われます。このレベルってのは具体的に言うと、体内に投与された【ベリアル】の成長度、【ベリアル】による身体の増強度のことです。
プレイヤーは例外なく、最初は生身のままでダンジョンに入ります。生まれたままの無垢な遺伝子のまま。この状態をレベル0とか童貞とか言ったりするけど、純真なキッズやウブな宇宙人には童貞とか意味不明なのでレベル0と呼ぶことにします。
レベル0のプレイヤーはまず、武器や防具をそろえ、自力でクリーチャーと戦わなければいけません。統計的に死亡率が高いのは初ダンジョンから一週間以内、なんて言われたりするのは、それだけ生身でクリーチャーと対峙するのが危険だってことですね。
シリンジは超レアアイテムってさっき言ったけど、【ベリアル】だけは別です。レベル0のプレイヤーがとある工程を経れば、必ず入手することができます。もちろん楽どころか命がけ、結構ここまででつまずく人も――挫折したり殉職しちゃう人も数パーセントいるそうですけど、努力と実力で乗り越えられれば必ず獲れるわけです。
ダンジョンのエリア5、初めて現れるダンジョンらしい迷宮エリアで、〝最初の迷宮〟なんて呼ばれるところです。
ここに〝試練の回廊〟と呼ばれる場所があります。一人でしか入ることができない、自分一人だけの力で最奥部まで到達しなければいけない、特殊な迷路です。
その最奥部に【ベリアル】があります。つまりは試練を乗り越えた人だけが、本物のプレイヤーになれるってわけですね。
そうして手に入れた【ベリアル】を体内に投与することで、晴れてプレイヤーは童貞卒業――え? 童貞ってなに? レベル1になれるわけです。
レベル1って、そんな苦労するわりにゲームだと激弱の駆け出しじゃん、と鼻で笑った君。こと赤羽ファイナルダンジョンにおいては、あるいは人間社会にとってはまったくそんなことはありません。簡潔に言えば、レベル1の時点でオリンピックの十種競技のチャンピオン以上の身体能力になります。
どんなに強い武器やアビリティを持っていても、それを使う肉体が生身のままではダンジョンでは生き残れない。そういう意味でも【ベリアル】は基本であり最も重要なアビリティと言えます。それを指標にプレイヤーの練度を語れるほどにね。
また、【ベリアル】はプレイヤーの経験によって成長していきます。レベル1から始まって、2、3、4……ってね。ダンジョンでの戦闘経験、危機的状況の回避体験、その他いろいろな要素を含めて、プレイヤーの成長とともに【ベリアル】の増強度もレベルアップしていく。経験値ってのはゲームみたいに数値化できるものじゃないけど、その軌跡は確実に着実に、プレイヤーの身体に刻まれていく――。
お、なんか今カッコいいこと言った。
カッコいいついでに言っておくと、アビリティやスキルには【ベリアル】、【アザゼル】、【ナマハゲ】、【ブレイズ】、【グレイシャル】といったカッコいい名前があります。これは僕がウィキプリオでピックアップした悪魔とかゲームの武器とかの名前が使われています。イカスでしょ? え、今厨二とか言ったん誰?
他にもなんか話しそびれてることもいっぱいありそうだけど、小難しい顔でしゃべり続けるのってもんげー疲れるんで、そろそろまとめとこうか。
プレイヤーになりたいキッズ、プレイヤー免許をとった初心者の君たち。
まずは【ベリアル】のゲットをめざしましょう。君たちの冒険はそこからだ!
あ、ちなみに、じゃあ生身で迷宮をクリアしなきゃいけないなんて絶対無理むりリームー、みたいに思った君。そのへんはいろいろやりようがあってね。
自分自身の体力や技術を鍛えることはもちろん、たとえば先輩チームに入れてもらって経験を積むとか、目ん玉飛びでるくらい高い金払ってアビリティのシリンジを買っちゃうとかね。現実もゲームも課金って! 結局は金かよ!
あ、でも【ベリアル】はお金では買えないからね。一人につき一つしかゲットできないから、基本的に売りに出されることはないのです。栄光は自分の手で掴んでこそ栄光なんだね。
まあ、命がけなら童貞卒業くらいなんとかなるさ。がんばって! え、童貞ってなに?」




