表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/222

11:レアシリンジの行方①

 ガチャ祭り後は席について一休み。テルコ、明智、中川はさっそくその場でシリンジを使用する。ぷしゅっとレトロウイルス入りの液体が血管に注入されていく。


「このひやっとする感覚がいいんですよね」


 などと中川が恍惚の顔でつぶやく。テーブルを囲んで注射を打つ様子は、地上だったらやべー絵面だ。


「いやー、アラサーになってガチャガチャ回す日が来るとは思ってなかったわ」と明智。「みんなしてわいわなんてガキくせーと思ってたけど、意外と楽しいもんだね、ああいうのも」


 中川が「我が意を得たり」という感じでにやりとしている。


 そのあとはエリア1に戻って解散。三時頃に千影たちはアパートに着く。

 夜、夕食を済ませて風呂に入ったあと、居間に集合してちゃぶ台を囲む。


「ここに、第二回早川家会議を開くものとする」

「はう!」

「ギチョー、第一回はオレ不参加なんだけど、なんの話だったんだ?」

「テルコ議員にお答えします。こいつの名前です」

「わふっ」

「なるほど。あとギチョーとギンチョって似てんな」

「似てんね」

「んで、第二回はタイショーとギンチョのシリンジについてだよな」


 直江はポータルに戻ったあと、その足で資源課に向かった。【スプリガン】をトレードの申請手続きをしに行ったのだ。

 千影の【ラオウ】とギンチョの【ダゴン】は、トレード申請も出さず、まだ使用もせずに手元に残っている。今回の議題はこれらの扱いをどうするかだ。


「まず、タイショーのスキル【イチモツ】だっけ? は使うに決まってるだろ」

「【ラオウ】な」

「つってもさ、せっかくだから使ってみるしかなくね? レアものなんだし、そんな悪かないんじゃね? オレも見てえしな、そそり立つタイショーのアレ。ギンチョも見てえだろ?」

「はう」

「お前なににうなずいたかわかってんの?」


 直江のせいですっかりネタスキル疑惑が蔓延している。風評被害も甚だしい。

 ともあれ、再び現れた早川千影的優柔不断の沼。はまりだすとずぶずぶと底がない。

 ここはどうしても慎重に検討しなければいけない。万が一見かけ倒しの全然役立たずなスキルだった場合、今後の活動に支障が出るおそれがある。死活問題だ。ていうかメンタル的にだいぶへこむ。


「でもさ、そのナントカってチームのやつも使ってたんだろ? あのバケモンみたいに強かったフクシマのニーチャンのチーム」

「〝ヘンジンセイ〟ね。まあそういう意味じゃ、トップチームのメンバーも使ってたスキルってことかもしれないけど」

「ってか、フクシマに聞きゃいんじゃね?」

「あ、そっか」


 そんな簡単なことにも気づかなかった。てへ。


 というわけで福島にテレフォン。最近はひとに電話にかけるのにも慣れてきて、心の準備さえできれば汗だくの緊張くらいで済むようになっている。成長だ。大人になった。


『よお、早川。元気でやってるか? シモベクリーチャーはどうなった?』


 福島正美は【トロール】を投与した亜人で、身体がでかければ声もでかい。鼓膜が破れて三半規管がねじ切れるかと思った。

 挨拶もそこそこに本題に入ると、福島は『あー、あれかー!』といきなり大声で笑いだす。音が漏れまくって、ギンチョたちがなにごとかと目を丸くする。


『それな、織田が使ってたやつだよ。二年くらい前だったかな』


 織田さんが? あの人類最強男が?


「マジっすか……それ、すごいことですよね……」

『いや、たまたま拾って面白そうだからって。三カ月くらい使ってたかな? つーか他にも使ってるやつがいたっけな、俺の知る限り二人くらい』

「そうですか……」

『はっはっ、がっかりしたか? まあレアなことには変わりねえし、ウィキに載ってないことなんて先に進めば進むほどザラだぜ?』

「ですよね……」


 別に「俺が唯一無二だ!」なんて期待していない。しょせんは凡人の村人Aだ。

 嘘です。ちょっと期待してましたけどなにか。


「えっと、三カ月くらいって……【ラオウ】が弱かったから、他のに上書きしたりとか……?」

『確かに上書きはしたけどな。あいつスキルころころ変えんの趣味だったんだよ。いろいろ試してみねえとわからんっつてな。結局最後に落ち着いたのは【マンジカブラ】だったし』


 スキルとっかえひっかえ。どんだけ贅沢できるのか、世界トップチーム。


「そこまで激レアってやつじゃないですよね、【マンジカブラ】って」


 テルコや直江と同じ、武器具現化系のスキル。光の刀を具現化させるやつだ。この間のイベントでも誰かが使っているのを見た。


『お前の望む回答かどうかはわかんねえけど、スキルはレア度だけじゃ測れねえ。どんなスキルも強い弱い珍しいより、使いかたと本人の腕次第だと思うぜ。織田の【マンジカブラ】だって、あいつが使うとまさに鬼に金棒、小次郎に物干し竿だったからな』


 中川も言っていたが、結局は相性ということか。織田に関しては参考外だが。人類初のレベル8に到達した超天才なら、【イグニス】でもなんでも超一流に使いこなしただろう。


『前から思ってたんだけどよ、お前はちょっとだけ織田に似てるところがある』

「ファッ!?(どのへんが?)」

『なんつーか、土壇場になればなるほど底力を発揮するっつーか。どんなに見苦しくても「生きてやる!」ってあがくザマとかさ。生きるためなら手段を選ばないとことかさ』


 褒めてもらっているのだろう。直江なら「……見苦しいゴキブリが……」的な偏見交じりの評価になりそうだが。


『はっはっ。だから問題ねえよ、お前ならあの変テコなスキルも使いこなせるさ。せっかくのレアスキルなんだから、さっさと身体にぶちこんじまえ』

「ちなみに、どういうスキルだったんですか?(どう変テコなの?)」

『マッチョな腕がズゴンッ! って地面から生えてくんのさ。「我が生涯に一片の悔い無し!」的な感じでな。直撃したクリーチャーは派手に吹っ飛んでたぜ。俺みてえなゴリゴリの脳筋には刺さりまくりのスキルだったけど、織田は「見た目より意外とトリッキー系な気がする」って言ってたな。ヒョロガリの腕を一度に何本も生やしたりとか、いろいろ小細工できるっぽかったぜ』


 福島には刺さり、織田はトリッキーと称し、直江から見ると卑猥。なかなか多様な顔を持つスキルのようだ。

 丁重に礼を言って電話を切る。相変わらず頼れる兄貴なセリフ満載だった。人類でも屈指の鬼強男にして、誰にでもティッシュペーパー並みに軽く見られる男・早川千影を一人前に扱ってくれる貴重な人材。このコネクションは大切にしておかないと。


 そういえば、ガチャを回したのかどうか、なにより再生された織田はその後どうなったのか、そのへんを訊き忘れていた。答えてもらえたかどうかはわからないが。


「タイショー、どうだった?」

「あー、うん、勧められた。せっかくだから使ったらいんじゃねって。別段弱いとかいう感じでもないらしいし」

「どうでもいいけどさ、あのニーチャン、普通のスマホじゃ小さすぎるだろうな」

「【トロール】が日常で困ることあるあるの一つだろうね」

「よし、フクシマがそういうなら間違いねえな! 決定、タイショーの新スキル【インケイ】!」

「ついでに露骨な下ネタとセクハラ禁止も決定な」


 というわけで、一つめの議題はこれで落着。

 早川千影、【イグニス】から【ラオウ】に乗り換えさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ