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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
シモベクリーチャーすくすく成長編
177/222

4:免許ともんじゃ

 九月十日、日曜日。


「ほらな、やったぜ! ざまあみろ!」


 誰もざまあは見ていないが、とりあえずめでたい。


「おめでとう、テルコ」

「おめでとうです、テルコおねーさん」


 ドヤ顔で突きつけられた強化プラスチック製のプレートには、アルファベット表記の名前が彫られている。Nobuteru Nagao。

 というわけで、テルコ、ダンジョン庁のプレイヤー免許、無事に取得。

 試験当日に合格発表から二日に渡る講習、そしてタグ発行。結構ハードなスケジュールだったようだ。それでもテルコは合格した喜びで元気いっぱいだ。


「まあ、ぶっちゃけ既定路線というか。テルコさんを受からせないことには、こちらとしても諸々用意してきたシナリオが不意になってしまいますからね、こふー」


 祝勝会と称した早川邸でのささやかな催し。中川も参加している。というかそれを口実に退庁してきたらしい。そうでもしないと休日だろうとエンドレス残業だから、と。


「じゃあなにか、オレは勉強してもしなくても受かってたのか?」

「いやまあ、よっぽどひどかったら追試とか補習とかあったと思いますけど」

「なんだよ、先に言ってくれよ。落ちたらタイショーとギンチョと、それにノブにも顔ヌケできねえってカミプレッシャーだったのに」


 ×顔ヌケ、○顔向け。


「先に言ってしまったら、テルコさんのためになりませんから。日本側のルールもきっちり憶えてもらわないといけませんからね。他のプレイヤーのみなさんにも迷惑がかかるかもしれないわけですから」

「ちぇっ、さすが役人さんはかたいこと言うよな。だけどまあ、全部ヘビィのおかげだもんな、いろいろとサポートしてもらったし、サンキューな。お礼は身体くらいしかできねえけど」

「そそそそういうジョークは役人としては感心できませんね! ココココンプライアンス時代ですから!」


 中川は顔を真っ赤にして口角泡を飛ばす。二人の感じを見ると結構仲よくなっている気がする。そういうやりとりも何度かやってきたのかもしれない。


「そういやさ、オレと一緒にもう一人、変なおっさんが試験受けてたんだよ。リンジシケン? とか言って。五十歳くらいのさ。あの人はどうなったんかなあ」

「僕もそれは知らないですね。通常の試験は年二回しかないんで、例外措置としての臨時試験はそんなに珍しいことでもないらしいですけど。あるいはその人もテルコさんと同じ、IMODからの移籍組かもしれませんね」

「まいっか。つーわけで、タイショー。今日からまたこの家でゴヤッカイになるけど、よろしくな」

「え、今日から?」

「だって荷物持ってきたじゃん。カーチャンたちにも話はついてるからさ。タカシマダイラよりもこっちのほうがダンジョン近いし」

「うん、まあ……いいけど……」

「やったー! またテルコおねーさんといっしょです!」

「おう、今日は一緒に風呂入ろうな!」


 こうしてまた一人、同居人が増えることになる。既定路線ではあるが。

 引っ越しは今月末、それまではちょっと手狭に感じるかもしれない。

 ちゃぶ台にはホットプレートが置かれている。アマゾフで二千円、同居人が増える予定もあって購入してみた。熱せられた鉄板の上で、じゅうじゅうと薄い白濁色の液体が湯気を昇らせている。キャベツ、もやし、紅しょうが、チーズや餅などの細かく刻んだ具材がカオスに混じり合っている。いわゆるもんじゃ焼きだ。


 具材を先に焼く。大へらでさらに細かく刻みながら。それで円形の土手をつくり、中にタネの液体を投入していく。以上、頼れるクックポッド先生のレシピより。全体的にいい感じに焼けてきている。ソースのにおいがやばい。


「じゅるり……ちーさん、たべていいですか?」

「わふっ」

「ギンチョはいいよ。イヌまんは熱いからよくないよ」


 ガルルルと威圧顔でうなられる。完全にこちらの言葉を理解している。そんなもんじゃで目くじら立てられても。


「ギンチョちゃん、食べるときはこうです。ミニへらでタネを押しつけて焼きながら、おこげをつくって」


 中川が実践してくれる。実家が浅草だそうで、頼れる経験者だ。


「うん、普通においしいですね。レモンサワー買ってきてよかった。ビールはあんまり得意じゃないんですよ、ぐびぐび、こふー」


 とりあえず中川を真似してやってみる。おこげをつくり、へらですくいとり、口に放り込む。量をとりすぎて熱い。口の中に焼石を投げ込まれたような。慌てて麦茶で鎮火。わからないけどおいしい。


「はひっ、あっちーなこれ! でもうめーな! さすがタイショー!」

「具刻んだだけだけどね」

「はふはふ! チーズのまろみ! ソースのコク! おもちのねっとりかん! まさにカオス! まさにうまみのるつぼ! てっぱんのうえのいぶんかこうりゅう!」

「早川さんが仕込んでるんですか?」

「自然発生です」


 とりあえず女性陣にも好評のようだ。千影は少し小皿にとりわけて、冷ましてからイヌまんにくれてみる。イヌまんはにおいをかぎ、ぺちゃぺちゃと音をたてながら小皿を舐め回す。お気に召したみたいだ。小皿を前足で器用に突き返し、わふっとおかわりを催促してくる。


 ネット情報によると、犬には食べさせてはいけない食材が多いらしい。玉ねぎ、ネギ、チョコレート、レーズンなどなど。というより人間の食べものを与えるのは基本NGらしい。


 ギンチョにもその旨を伝達し、無闇にあげないようにしていたが、当の本人はなんでも食べたがる。

 昨日も玉ねぎ入りのハンバーグを千影から強奪し、慌てて吐き出させようとしたが逃げ回り、結局そのままけろっとしていた。サウロンに尋ねると、「基本なんでも食うと思うよ、やばいもんは食わないと思うよ」ということで、見た目は犬でもダンジョンクリーチャーだし、あまり神経質になりすぎなくてもいいのかなと思っている。


「いやー、七時に仕事上がって食べるもんじゃは最高ですね! レモンサワーと合うこと合うこと! 明後日にはダンジョンでみんなでガチャ祭りですから、もうテンション上がりっぱなしですねこりゃ!」


 テルコが晴れて免許を取得したということで、いよいよ千影チームのダンジョン復帰が決まった。最初にやるべきは、先日の特別イベントでゲットしたガチャコインの使用だ。

 アビリティやスキルなどのシリンジが入手できるガチャマシンは、ダンジョン内のセーフルームに設置されている。一番近いのはエリア2で、先日のマシン解禁時には長蛇の列ができたという。あれから二週間以上経っているし、今ならほとんど混まずに使えるはずだ。


「あんまり庁職員がプレイヤーと直接関与するのってよくないって聞いた気がするんですけど」

「なんですか、この期に及んで仲間外れにするつもりですか? だいじょぶですよ、ダンジョンの中で合流するぶんにはとやかく言われませんよ、こふー」

「まあ……みんなでガチャ回すの楽しいって聞きますけど(経験ないけど)」

「それな、ですよ。まさに」


 もんじゃ焼きを小皿に追加し、イヌまんに渡す。一瞬だけ「おせえんだよ、ちんたらしてんなよ」的な顔をされた気がするが、気のせいだろう。


「……あー、その日がイヌまんのダンジョンデビューか……」

「イヌまん、がんばりましょう!」

「楽しみだな、イヌまん! つーかカミいい名前だな!」

「わふっ!」


 女性陣とイヌまんは前向き。千影はその前に首輪とリードを買いに行こうと思う。


次回、登場人物まとめを挟んで新編です。

ここまでの感想、評価などいただけると幸いです。


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