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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
1章:怪獣娘にかける言葉は決まっている
14/222

2-7:残高と約束


9/2:一部、千影のモノローグ部分を若干修正しました。


 昼食はがんばって味噌汁と野菜炒めをつくり、惣菜コーナーのコロッケと合わせる。いくら言ってもギンチョは野菜にはなかなか手をつけようとしない。なので、夕食はもっとがんばって野菜を細かく刻んだチキンカレーをつくる。


 あまり自信はなかったものの、ギンチョはおかわりもして満足げにぷーっとお腹を膨らませる。「あますぎず、からすぎず。スパイスのなかにとろけるにくのうまみ」とは彼女の食レポ。そんなときだけボキャブラリーが増えるのはなぜなのか。


 彼女が入浴している間に、千影は現状の整理を試みる。スマホで銀行口座にログインし、家計簿アプリを立ち上げる。

 口座の残高は五十万円くらい。ここにヘカトン・エイプのぶんと今回のクエスト報酬が入る予定。ギンチョのジャージ代も当然請求するとして、まとめて振り込まれるのは早くても来月末だ。

 けれど、待っているのは振り込みだけじゃない。引き落としや支払いももれなくやってくる。家賃、光熱費、スマホ代や通信費。そして貸付金の返済。


 ギンチョの子守りクエストの期限は約一カ月、七月十六日まで。次の貸付金の返済日が七月十七日。

どこかでひと稼ぎしに行かないと、ちょっときついかもしれない。


 彼女から離れるのは禁止、と明智から出された条件がある。つまり、ダンジョンに出稼ぎに行くにしても、彼女を連れていかなければいけない。


 ダンジョンで子守りって。ていうか、子どもをあんなところに連れていくなんて。


 千影はどうしてもそれを容認できなかった。正義感とか倫理観というのも一割くらいはあるが、それ以上に想定される諸々の面倒を考えてしまい、どうしても気が乗らなかった。


 あの無駄におしゃれなジャージの支払いさえなかったら、もう少しうだうだと時間稼ぎできたのに。


「あのくs……」


 そうつぶやきかけて口をつぐむ。盗聴器は見つからなかったが、どこで聞き耳を立てているかわかったものではない。


「はう、いいおゆでした」


 顔をほこほこさせたギンチョが居間に戻ってくる。ふわふわの銀髪がだいぶ濡れたままだ。

 それにしても、子どもは順応が早い、三度も同じ釜のメシを食えばよそ行き感もいくらか薄まっている。コミュショー歴十八年のおにーさんからすれば多少羨ましい。


「あの、さ、ぎ、ギンチョ……」

「はう、おにーさん」

「あのさ…………」

 その先をなかなか言いだせない。言いたくない。

「…………やっぱり、ダンジョンに行きたいって、思ってる……?」

「えっ……?」


 みるみる表情が曇る。あのジャージを買い与えたことで、それを許可されたと思い込んでいたからだろう。無理もない。千影のせいでもない。

 千影は言葉を続けようとして、言いよどむ。彼女の目に堪えられなくなってため息をつき、がっくりと肩を落とす。


「……僕の言うことを聞くって、約束できる?」

「……へ?」

「ダンジョンでは僕の言うことを絶対に聞く。僕のそばを離れない。それが約束できるなら、明日、一緒にダンジョンに行こう」


 今泣いた烏がもう笑う。瞬く間にまばゆいばかりの笑顔に変わる。


「はう、はう! やくそくします、おにーさん! ありがとうございます!」


 勢い余ってなのか、千影の首元に抱きついてくる。千影がむごっと息を詰まらせる。


「明日、十一時にポータルに行くから。今日は早く寝ておくように。あ、その前にドライヤーで髪を乾かさないと」


 そう言って千影は立ち上がり、洗面所に向かう。鏡に映った顔が真っ赤なのは、別にそういう趣味があるからではない。あんな風に誰かに抱きつかれたのなんて、親にだってそんなことされた記憶がなかったから。


 そういえば、もう一つ条件をつけるのを忘れていた。一番重要なことだ。


「……ダンジョンでのお手々つなぎだけは勘弁してもらわないと」

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