2-6:さうろんちゃんねる③
「プレイヤー、正式には『赤羽ファイナルダンジョン内での探索活動における有資格者』。ダンジョン庁が交付する免許証を持つ人だけが、プレイヤーとしてダンジョンに入れるってことになってる。日本の法律上はね。
八年前、この星に来た当初、僕個人としては誰でも自由にダンジョンに入ってもらいたかった。誰が入ってどうしようとどうなろうと、その人の意思ならそんなんカラスの勝手でしょって。だから日本政府や米国や中国や国連やらがそれを著しく制限しようとしたとき、正直あんまりいい気はしなかったんだよね。
ただね、そういうのをみんなの好き勝手にしていいよって軽々しく言えるほど、国家というシステムと経済活動というエネルギー構造は単純ではなかったわけで。人命を守りたいっていう気持ちもわかるしね。そのへんいろいろと紆余曲折を経て、条件とかもいろいろたくさん話し合われて、そうしてできたのが今のプレイヤー免許制度ってわけで。
ダンジョン来訪から一年後に一般開放されるに至り、無謀や命知らずやミーハーの参加を制限したり、ダンジョンの技術や資源の現代社会への流入を緩やかにしたり、かつ超人的な犯罪者やテロリストを生み出すリスクを極力低減させたり――あれ、これ小学生向けだっけ?
つまりね、プレイヤーになるにはダンジョン庁のプレイヤー免許試験に合格して、免許をもらわないといけないってこと。あ、日本人以外の人たちはIMODの試験ね。
じゃあ、どんな試験かって? そりゃもちろん、身体能力と知能は要求されるし、身辺や素行も調査されるし、思想的な偏りなんかもきっちりチェックされる。
でもね、実はもっと重要なものがあるんです。ていうか、それがないとプレイヤーになれない、そういう必須な条件が一つだけある。画面の前のキッズ諸君、今ちょっとドキっとしたでしょ? それはいったいなんでしょう?
……大喜利みたいにボケてみようかと思ったけど、いざボケようとしてなにも思いつかなくて今以上に冷めることってあるよね。
また低評価くらいそうだから真面目に言います。正解は遺伝子です。〝ダンジョン因子〟と呼ばれる、ヒトゲノム内のある特定の塩基配列。それを持っている人だけが、プレイヤー試験の受験資格者となっています。
遺伝子とか言われても、そんなん生まれつきすぎてどうしようもないし。宇宙人のくせに人種差別かよ! と憤るみなさん、お怒りはごもっとも。ダンジョン因子は人種によって保有率は変わらない、という統計的正論はともかく。
でもね、それがないと過酷なダンジョンの世界に適応することは極めて難しいと言わざるをえないのです。だから必須条件なのです。
ダンジョン庁のデータによると、ダンジョン因子を持っている確率は、人種や性別に関わらずおよそ三割だそうです。微妙な数字かな、多くもないけどそれほど特別感もないし。免許試験を受けられるのはおよそ三人に一人ってことっすね。
こういう話しちゃうとさ、結構ガッカリする子も多いんじゃないかなって。自分がダンジョン因子を持っているか気になる人は、ちょっとお高いけど検査キットをダンジョン庁のサイトで買ってみるといいかもね。もしも因子がなかったとしても、お父さんやお母さんを恨んじゃダメだよ。むしろ危険な目に遭わせないっていうご先祖様の愛だと思っておこうね。
じゃあなんで、ダンジョン因子を持っていないとプレイヤーになれないのか? 確かに因子がなくても、ダンジョンには入れるんだよね。一層は観光スポットになってるし、常駐している売店員や医療スタッフとかの中には普通の人も混じってるし。
だけど、プレイヤーとしてダンジョンを生き抜いていくには、どうしても普通の人間の身体能力だけでは限界がある。七年前の自衛隊の精鋭でも、まあ不運もあったけど、エリア8までが精いっぱいだったからね。
ダンジョンで生きるプレイヤーの超人ぶり……あるいはその見た目の変身ぶりとか、まとめサイトとか動画で見たことある人も多いんじゃないかな。CGなしでビルの屋上を跳び渡ったり、車を持ち上げたりてのひらから炎を出したり。
あんな風になるには、それこそ筋トレとか戦闘経験とか、そんなものだけじゃ絶対無理だよね。彼らはみんなダンジョン因子を持っていて、ダンジョン由来のウイルスを体内に投与している〝プレイヤー〟だから、そんなことが可能なんです。
つまり、プレイヤーとは、本当の意味で人間の常識から外れた存在なのです」
【備忘録】
・プレイヤー免許制度
…世界各国の思惑を経て、ダンジョンを一般開放するにあたり施行された制度。
免許はダンジョン庁もしくはIMODの免許試験をパスすることで交付される。
身体能力、知能、思想や素行、人格などを詳細にチェックされる狭き門。
・ダンジョン因子
…人種を問わず人類の三割が保持していると言われる特定の塩基配列。
ダンジョンウイルスによるアビリティやスキルを受容するために欠かせない。




