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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
3章:異世界を望む少女はダンジョンに生きた
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5-4:そして3-4へ

「――確かにそうだね、君の言うとおりだ」


 数時間前、ジュナサンの禁煙席でサウロンはそう言った。千影のおごりのチョコレートマウンテンパフェを食べながら。


「アビリティやスキルを付与するダンジョンウイルスは、ダンジョン因子を持っていないと遺伝子に組み込まれない。ギンチョちゃんはエネヴォラのクローン体で、エネヴォラはダンジョン因子を持っていないから……うん、論理的には合っている」


 ギンチョがダンジョン因子を持たないという話は、彼女の育ての親であるタカハナから聞いたものだ。それが事実なら、ギンチョはダンジョンウイルスによるアビリティやスキルの取得はできないということになる。


「でもさ、君としてはワンチャン希望はないかって、それを僕に訊きたかったわけだよね? さすが保護者というか、親心だねえ」

「うん、まあ……」


 その点をサウロンに――エネヴォラを一番知る彼に、ダメ元で尋ねてみることにした。まさかファミレスでこんな形で応じてくれるとは。


「それならさ、ギンチョちゃん自身にドラッグシリンジを使用してみるとか、そうやって自分で確かめてみたらいいんじゃね? 【フェニックス】の一本くらいは持ってるでしょ?」

「でもあいつ、痛いの嫌いだし……そのためにわざわざ傷をつけるってのも……」

「あっ、あっ! 確かに! それは大問題だ、コンプライアンスを気にするペイロ星人としても困る! 発言は撤回しよう!」


 山盛りポテトフライが運ばれてきて、サウロンは反省の態度もそこそこにパフェと交互に食べだした。甘いのとしょっぱいのの無限ループ。


「まあ、これくらいのネタバレなら……僕としても許容範囲かな……確認すればすぐにわかることだしね。つーわけで正直に答えると――できると思うよ、アビリティ取得、ギンチョちゃん」

「え? マジで?」

「実はエネヴォラは――ダンジョン因子の亜種みたいなものを持っててね。それがダンジョンウイルスの受容体として機能する。ギンチョちゃんがクローンなら、彼女にも同じものが備わっているはずだよ。シヴィの生体サンプルを持ってる米国やダン生研にしても、その亜種の存在に遅かれ早かれ気づくんじゃないかね」


 マジか。じゃあギンチョも、自分たちと同じようにアビリティやスキルを取得できるのか。

 千影の中に喜びと安堵がこみあげる。シートにもたれかかって、照れ隠しに頭をぽりぽり掻いておく。


 ただ――でも、そうなると――?


「ふふ、小賢しい君のことだ、そうすると別の疑問というか懸念が浮かんでくるわけだ。すなわち、ならば黒やピンクのエネヴォラはどうしてスキルやアビリティを習得して使わなかったのか? あるいは今後遭遇するかもしれないエネヴォラたちは、それらをてんこ盛りに武装して襲いかかってくるかもしれないってね」

「まあ、【ムゲン】とか【グール】とかは使ってきたけど……」

「あれはスキルやアビリティじゃなくて、彼ら生来のっていうか、固有の能力というか。ダンジョンウイルスで得た能力じゃないんだよね。だからこそギンチョちゃんは【グール】のウイルスを投与してなくても能力を使えるわけでしょ」

「ちょっと混乱してきたっす……」

「よっしゃ、軽くまとめよう。そのためにはこの〝夏を乗りきれ! スペシャルヨーグルトマンゴーパフェ〟が必要だ! というわけでぽちっとな」


 千影が承諾するより先に、サウロンは呼び出しボタンを押した。二つめのパフェを注文する青髪の宇宙人に、女子高生っぽい店員は無表情で応じた。


「にしても、八年前に小学生におごったラーメンが、こんな形でパフェになって返ってくるとはね。パフェの恩返し、を宇宙人が受けるこの図、さっきの女子高生はどう思ったかな?」

「糖尿になりそうって思ったんじゃね?」


 そもそもパフェが恩返しをしているわけでもない。


「よし、話の続きをしよう。エネヴォラは生来、【ベリアル】以上の身体能力と、【グール】や【ムゲン】、【フープ】といったアビリティやスキルに酷似した能力を持っている。加えてダンジョン因子の亜種を持っていて、君はエネヴォラの際限ない能力武装を危惧している」

「はい」

「でも、実際はそうはならない。ダンジョン暦九年にして、自身の持つ能力以外のアビリティやスキルを使うエネヴォラは確認されていない。ギンチョちゃんはダンジョンウイルスを使用することができる、でもエネヴォラたちはそれができない。遺伝子的には同じものを持つはずなのに、両者はその点で明確に異なる。なぜだと思う?」

「えっと……自分の力だけで戦うことがあいつらのアイデンティティ的な? プライド的な?」

「君にしては感傷的(パセティック)な発想だね。ある意味惜しいんだけど、不正解」

「んーと……わかんないっす」

「パフェって意外と出てくるの早いから、もったいぶらずに言うね。彼らの持つあのスーツ、あれがちょっとした()()になってるんだよね。黒が自分で暴露してたらしいけど、あれはナノマシンが超高密度に集合した超ハイテクアイテムでね、ダンジョンウイルスのアンチテーゼ的な意味合いがあるっていうか」

「スーツって、あの形とかいろいろ変わるチートなやつ? あれがウイルスのアンチテーゼ?」


 どういう意味なのだろう。さっぱりわからない。

 サウロンはポテトフライを指で挟み、タバコのように口にくわえる仕草をする。少し間を置きたかったのだろうが、ふざけているようにしか見えない。


「それについてはね――内緒! 圧倒的内緒! 残念でしたー!」

「(ここでかよ)」

「その制約の内容や理由なんかを話しちゃうと、ダンジョンとエネヴォラの関係や、エネヴォラの素性にも関わってきちゃうからね。知りたかったらもっとがんばって、ダンジョンの奥まで行っちゃってー!」


 まあ、ここまでの情報でじゅうぶんだけど。エネヴォラとか二度と関わりたくないし。

 ともあれ、その制約とやらが遺伝子に結びついたものでない以上、クローンであるギンチョには引き継がれていない。だからダンジョンウイルスの使用も可能ということか。


「だからつってさ、ヌルゲーじゃん、エネヴォラざまあ人間様さいつよwww的なことは思わないほうがいいよ。実際問題、人類最強にまで登りつめた織田くんでさえ、黒のエネヴォラには歯が立たなかった。彼らの持つ身体能力は君たちの【ベリアル】以上に強靭で、チート性能のハイテクスーツで武装し、固有の能力も君たちの使う従来のスキルやアビリティよりも強力だ。それは君が一番理解してるでしょ?」


 先月まで当たり前のように使用していた【ムゲン】の強力さは、失ってからのほうがよっぽど肌身にしみて感じられた。特に昨日の黒コウモリ戦で。


「ちなみに、ここまでの情報はD庁にも共有していいよ。わりと初出し情報満載だけど、お金と交換とかはやめてね、僕の信用なくなっちゃうから」

「自分からは別に言いたくないんすけど……またギンチョをめぐって面倒なことになりそうだし……」


 自分からは直接公表したりしたくないので、あとで明智あたりにそれとなく伝えておく感じにしよう。


「あひゃひゃ! すっかり保護者だね! 王子様だね! もう一つパフェ食っていい?」

「さすがにお腹壊すと思うけど」

「だいじょぶだいじょぶ。ペイロ星人の胃腸をなめるなよ。え、フラグ立った? そんなもんはね、自分の力でへし折るためにあるんだよ!」


 ジュナサンを出る頃には「あれ……おかしい……僕の胃腸は宇宙、のはずが……」と若干青ざめていたサウロンがその後どうなったかは知らないが、ともあれギンチョにアビリティウイルスを投与してもちゃんと機能することが判明。昨日ゲットしたアレをこの子に使っても問題はないということだ。


時系列的にはこの日の夜中にニロ生収録です。


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