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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
3章:異世界を望む少女はダンジョンに生きた
102/222

3-5:爆論!明け方までニロニロ生放送②


   ~中略~


大「じゃあ茂田さん、どうぞ」


茂「そうですね。サウロンさんのご意見、さっきから興味深く拝聴してます」


サ「どもども」


茂「サウロンさんのおっしゃるとおり、ダンジョンを社会として受け入れるかどうかは、あくまでこの我々人類社会が決めることです。ただし、個人的に言わせていただくなら、やはりダンジョンは人類にはすぎた代物ではないかと思わずにはいられません」


サ「ほうほう」


茂「昨年のダンジョンプレイヤーの殉職者数は千人超。これは半年以上ダンジョンからの帰還がない生死不明のダンジョン内失踪認定をされた人を除いた数字ですが、このうち日本人は四百人とされています。当然ながら、単独の職業別死亡率としてはダントツの数字です」


サ「殉職率自体は年々低下していますけどね」


茂「おっしゃるとおり。ダンジョン暦三年前後のダンジョンゴールドラッシュ時には無計画とも思える公的機関のプレイヤー増員のため、殉職率は三割以上にも及んでいました。その後はプレイヤーの技術熟成と公式の努力もあってか、昨年一昨年と一割を切るほどには低下していますが……それでも暦二年から始まったプレイヤー制度によって登用者数は二万七千人に対し、生きて引退できた数は三千五百人、そして残念ながら生きて帰れなかった殉職者は八千人。この平和な時代の一職業としては、あまりにも犠牲者が多すぎると言わざるをえません」


サ「そうですね、残念です」


茂「先日のイベント開催時、DAP――日別アクティブプレイヤーは通常時の数倍に跳ね上がり、一般人も巻き込んで大いに盛り上がりました。その陰で、たった一日にしてダンジョン庁が把握しただけでも五十人以上もの殉職者が出ました。翌日以降は注意喚起とともにその情報が公表されたものの、お祭り騒ぎにしては尊い人命があまりにも簡単に失われすぎだと思いませんか?」


福「プレイヤーは常に命がけです。本人もそれを覚悟の上で免許をとり、ダンジョンに潜った。自己責任、陳腐な言葉ですが、それに違いないと思います」


茂「福島さん、先月の赤羽テロ事件の際に、チームの仲間を全員亡くされていますよね。彼らにも同じことが言えるのでしょうか?」


福「言えますね。確かにあいつらは、俺にとってはかけがえのないやつらでした。特にリーダーの織田とは、お互いに命を預け合ってやってきた。もちろん悲しくないわけがない、あの黒のエネヴォラや主犯のガキは、億万回ぶっ殺しても気が済まない。それでも……それを否定したら、織田が生きぬいた人生そのものを否定することになっちまう」


茂「確かに、織田さんの信念や思想は福島さんが一番ご存じなのでしょう。それについて部外者の私がとやかく言えることではない。だけど、なによりも大切なのは命なはずです。どのような意志のために生きていようと、命が失われてしまえばそれで終わりなんです。それだけは絶対にあってはならないことなんです」


福「…………(腕を組んで考え込む)」


茂「さらに、あの赤羽テロ事件では、プレイヤーだけでなくダンジョンとは無関係な命まで奪われることになりました。それについてのサウロンさんのご意見は、ネットの動画で拝見しました。確かに、ダンジョンそのものが直接牙を剥いたわけではないのかもしれない。憎むべきはあの主犯の彼であるかもしれない。それでも、我々がパンドラの箱を開けさえしなければ、尊い命が失われることはなかったはずです」


サ「うーむ……」


茂「この八年、ダンジョンとプレイヤーが人間社会にもたらした恩恵の大きさは無視できるものではない、それは承知しています。ですがそれでも、私はダンジョンは今の人類には荷が重いのではと思っています。これ以上の犠牲者を出さないためにも、我々は今一度、ダンジョンの危険性と真剣に向き合うべきと考えます」


サ「えーっと、僕しゃべってもいいですか?」


大「はい、サウロンさん」


新「プレイヤーがダンジョンでプレイしたら屋内プレイになるんですかね?」


大「おめえじゃねえよ」


サ「そうですね、茂田さんのご意見はよくわかります。みんなが同じように考えた結果、ルールとしてダンジョンが規制されるなら、それはそれでしかたない。繰り返しになりますが、僕としてはそれしか言えません」


茂「はい、ですからまずは、ダンジョン庁としてもプレイヤー免許取得の条件強化や、これまで以上に厳密な注意喚起、情報の透明化などが必要になるでしょう。そうすれば少なくとも、小学生のなりたい職業ランキングにプレイヤーがランクインするようなことはなくなるはずです」


サ「それはそれで寂しいですけど、それもしかたないですね。ただね、あくまでもそのへんは事実に基づいた情報にしてもらいたいなと、個人的には思います。曲解や捏造で恐怖心を煽るようなことはね、ちょっと悲しいかなと」


茂「そこは多少でも大げさになってもしかたないでしょう。命を守るためですから」


サ「でも……あくまでサウロン個人の疑問なんですけどね、命ってどこまで大切なものなんでしょうか?」


茂「は?」


大「なんか新俣くんが言いそうなセリフだね」


新「僕が言ったことにしてもらってもいいですか? もっと炎上したいんで」


サ「僕は炎上芸人狙ってないんで。いやね、確かに生きてるってことは素晴らしい。楽しいしおいしいし、もちろん苦労もあるし悩みもあるし、でもそれも生きてるからこその醍醐味ってやつで。死んだら終わり、命はなにより大事。そういう価値観も理解できますけど、それもまた、さっき言った普遍的価値観ってやつなんですかね、本当に」


茂「命よりも大切なものなんて、ありえないでしょ」


サ「もちろんもちろん。わかりますって、感情的には」


高「感情じゃないでしょ、真理でしょ」


サ「じゃあたとえば、ダンジョンではその理屈は当てはまるんですかね? 命が大量生産され、人の手により狩られ、人もまたそこで命を落とす。なにより大切なものが、さながら戦争中のように大安売りされている」


高「そんな風に言うなら、ダンジョンなんてないほうがいい」


サ「そういうことじゃなくてですね。命って言葉をザックリ使いすぎってことです。命が大切っていうより、自分の大切な人たちが大切、その次に他の人たちが大切。それでよくないですかね? 人類全体とか生き物全体とか、そういう風に大風呂敷を広げて真理や普遍性を求めようとすると、いろいろ齟齬や矛盾が生まれたりする気がするんですよね。もうちょっとフランクに、実態に即した言いかたをしたほうが、今の子は納得するんじゃないかって」


大「話が少し逸れてきた気がするね」


サ「僕も熱弁しつつ、なにを言ってるのかよくわからなくなってきました。茂田さん的には、クリーチャーをクローニングして大量に産み出すこともまた、倫理的にどうかって思っているんでしょ?」


茂「そうですね、これでも生物学者の端くれですから」


サ「ダンジョンでは、命は日々大量につくられています。そうはっきり言葉にすると、嫌悪感を抱く人のほうが大多数でしょう、しかたないと思います。ただ、何十万年もの間ダンジョンをやっているあの施設においては、この星でよく説かれている『命とは不可侵であり不可逆な存在である』という常識は当てはまらないんです」


茂「はい、言いたいことはわかります」


サ「ある意味では宗教であり、ある意味では社会を高度に維持させるための方便である、命への畏敬の念。それを否定するつもりはありませんが、あるいはこの星の科学技術が進んだ先で、ダンジョンと同じように命が機械的に生産できるようになった世の中になって、そういう価値観も変わっていくのかもしれませんね」


茂「だとしても……今を生きるプレイヤーたちの命が失われていい理由にはならない」


サ「それもまた、彼らの意思によるところです。ときには人にとって命よりも大切なものがあったりする。その命を懸けてでもなにかを遂げたいと思う意志がある。その命を捨ててでも守りたいものがあるという矛盾も存在する。それってそんなに否定すべきことですかね?」


茂「生きているからこそ意志がある。そのために命を落とすというのは、本末転倒ではないですか?」


サ「うーん、平行線になりそうですね。八年前、僕はみなさんにこう言いました。ダンジョンは既存人類の常識や価値観をぶっ壊すことになるって。それをどう受けとるのかはみなさんで、取捨選択するのもみなさんです。同じことばっかり言って恐縮ですけど、最終的には僕は、みなさんの意思を尊重しますよ」


   ~中略~


大「福島さん、なにかある?」


福「難しい話は他の人に任せるとして、サウロンに訊きたいことがある」


サ「どうぞ、僕に答えられることであれば」


福「こないだのユーチャンネルで、八月下旬に特別イベントをやるって言ってたよな?」


サ「うん、内容はまだ秘密だけどね」


福「直球で訊かせてもらうけどよ、その報酬で『死亡したプレイヤーを一人、再生させることができる』ってのは、どういう意味だ? 死んだ人間を生き返らせられる、そういう意味か?」


 ※出演者、客席、ざわつく。サウロンは少し間を置く。


サ「悪いけど、今はあの動画で話した以上のことはまだ答えられない。内容はイベントフロア内でのサバイバル、それこそ命がけの過酷なイベントになる。推奨参加レベルは3以上、報酬はシリンジや死者の再生など――今話せるのはこれだけっす」


福「んだよ、もったいつけんなよ。それじゃあわざわざこんなとこに来た意味ねえじゃねえか」


サ「申し訳ないんだけどね、こっちにも段取りってのがあるから。公式ともいろいろ調整しなきゃいけないし。でもね、さっきの言葉に嘘はないってことだけは保証するよ。詳しくは後日、ユーチャンネルでちゃんと説明するんで、そっちをチェックしてくださいな」


大「そうやって視聴数稼ぎたいだけじゃないの?」


サ「ちちちちがわい!(汗)」


新「僕もプレイヤーになって、福島さんみたいにチ○コでかくなる能力がほしいです」


福「お前表出ろや」

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