3-4:爆論!明け方までニロニロ生放送①
※この作品はフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ありません。
※作品にかかる諸責任は著者にありますが、作中人物らの思想、主張などは著者個人のものを反映したものとは限りません。
爆論! 明け方までニロニロ生放送 緊急スペシャル 八月七日(月)二十五時十分~
『新たな局面を迎えた赤羽ダンジョン……地球の未来を大爆論』
放送内容の文字起こしです。(※転載はご遠慮ください)
司会進行:大田分吾(ジャーナリスト 以下・大)
出演者:サウロン(ペイロ星人、赤羽ファイナルダンジョン案内人 以下・サ)
高霧メイサ(人権活動家、医師 以下・高)
緑川康夫(動物愛護団体代表 以下・緑)
茂田好助(評論家、東都理科大学分子生物学部教授 以下:茂)
福島正美(現役プレイヤー 以下・福)
新俣真司(社会学者 以下・新)
~中略~
大「サウロンさん、今日はよろしくお願いします」
サ「いやー、久々のニロ生なんで、緊張しますわー」
大「なんか顔色悪いよね。裏でも体調よくないみたいなこと言ってたみたいだけど」
サ「実は今日、冷たいもの食べすぎちゃいまして。知り合いがおごってくれるっていうから、パフェ三つも食べちゃって、お腹が……」
大「デ○ラー総統みたいな顔色だよね」
サ「あ、今のエリハラですよ? というわけで、途中で僕が退席してもそっとしておいてくださいね。ペイロ星人の便意は地球人の三倍だと言われています。嘘です」
~中略~
大「はい、赤羽テロ事件の話はここまでにして、次の話題に進みましょう。三日前に始まったダンジョンのイベントの件ですね。今日のゲストさんたちからサウロンさんにいろいろと訊きたいことがあるそうで。じゃあ、まずは緑川さん」
緑「はい。サウロンさんにお伺いしたいんですが、ダンジョンに出現するクリーチャーと呼ばれる生物、彼らは本当の生き物なんでしょうか? それとも機械みたいな存在なんでしょうか?」
サ「えっと、生き物の定義ってのが難しいですけど、自分の本能と意思で動く有機体って意味では生き物ですね。同種であれば交尾による繁殖も可能と言えば可能ですけど、生態系をつくれるほどのサイクルにはなってないです。基本的にはダンジョンが産み出しています」
緑「ダンジョンが産み出すっていうのは、クローンみたいな感じですか?」
サ「企業秘密ですけど、まあそんな感じっすね」
緑「彼らがれっきとした生物であるとしたら、彼らの権利についてどうお考えですか?」
サ「権利?」
緑「彼らは不自然なメソッドによって産み出され、ゲームの駒として奴隷のように消費されている。刃物で切りつけられ、鈍器で殴られ、ボウガンで射られる。彼らはなにもしていないのに、ただ金や道楽のためだけに人に狙われ、襲われ、殺される。そのような理不尽な生命への冒涜は、明らかに倫理的に問題があると言わざるをえません」
サ「はあ」
緑「ましてや今回のイベントというのは、巨大なフロアでプレイヤーたちに狩りを強いるというものらしいじゃないですか。欧米でも動物愛護の観点から娯楽的な狩り文化は廃れつつあるというのに、野蛮、卑劣、残虐、極まりない。これは悪意ある人間による罪のないクリーチャーへの虐待ですよ」
サ「うーん……その手の批判はこれまでもさんざん振られてきたんですけど、今回のヨフゥイベントでは内容的にもそういう批判の声がよく聞かれますね。ところで、権利ってのはなんの権利ですか?」
緑「動物も人と同じ生き物として、人によって無用な苦痛を受けることなく、可能な限りその生を全うするという権利です」
サ「んで、その権利って、誰が保障するんですか?」
緑「どういう意味ですか?」
サ「だって、権利ってのは誰かが保障して初めて成り立つものでしょう? 国であり、法であり、雇用主であり。国家に左右されない生得的な権利ですら、現実的には国家や体制が保障することで初めて効力を持つわけで。じゃあ、動物にも権利がある、動物の権利を守れってのは、人間が動物に権利を与えているってことかなって」
緑「じゃあ、彼ら動物には一切の権利がないと?」
サ「だから、その権利っていう概念自体、人間の上から目線の価値観によるものでしょ。それ自体を否定するつもりはないし、はっきりそう言ってもらえれば『そういう価値観もあるんだな』と思うけど、それをカモフラージュするために綺麗事や理想論を持ち出しても現実に即してないんじゃないかなって」
緑「彼らは語る言葉を持ちませんが、感情や痛覚だってあります。そんな彼らに対して、あなたはなんの権利もないとおっしゃるのですか?」
サ「じゃあ、痛覚や感情のない生物はどうなんですか? それって人間が忖度して付与してるってことを言い換えてるだけじゃないですかね?」
高「道徳観や倫理観に基づく普遍的な権利だってあると思いますが。ペイロ星にはそのような価値観はなかったということですか? 人権や生き物の権利について、地球よりも後進的な星だったと?」
サ「どうですかねー。なにをもって先進とか後進とか言うのかによるかと。別に否定はしないっすよ? ただね、普遍的な権利って、やっぱり言葉としておかしくないですかね?」
高「人や動物の生命を思いやり、守ろうとする価値観を、あなたは偏っているというのですか?」
サ「だって、それって適用する対象が人や国によって異なるじゃないですか。イルカやクジラを守ろうとする団体はいても、ハエや蚊やゴキブリの権利を主張する団体はいない」
高「それは極論です」
サ「普遍的って言ったのは高霧さんですよ? 同じ生命だとしても、その生き物が社会的に人間に近いか、高度な知性を持っているか、人間に益するものか、そんな物差しで決めてるわけでしょ? じゃなきゃ地球上で年間四万もの種が絶滅してるとされる現状をどう思うんですかね?」
緑「そこはもちろん、私たちとしても、人間という軸を否定するつもりはなくて」
サ「僕としても別に、そこを否定したいわけじゃないですよ。人間にとって一番大切なのが人間だっていう価値観も当然だと思いますし、できる限り他の生き物に優しくしようっていう価値観だって尊いと思うし、人間にとってのパートナーである犬や猫を特別視する気持ちもわかります」
高「でもさっきから否定してるじゃないですか」
サ「人間の物差しで権利を規定し、人間の物差しで権利を保障する――あくまでも一部の地球人類で共有する尊い価値観、という物言いならともかく、すべての生き物に共通する普遍性なんて妄想を持ち出されてもってことです。宇宙にあるべき形なんてないんですよ」
高「別に宇宙の話なんてしてないですけど。結局のところ、ペイロ星人はクリーチャーを虐殺の対象として認め、その残虐な行為を推奨するということですね?」
サ「うーん、形的にはそうなっちゃってるのかなあ……つーかなんか、結果的にお互い言葉尻とってるだけになっちゃってますね」
大「新俣くん、ヒートアップしてきちゃったから、ここでいつもの空気読まない発言どう?」
新「ペイロ星人ってみんな毛髪やばいんですか?」
サ「おいカメラ止めろ」
~中略~
大「福島さん、現役のプレイヤーとして、あなたはどう思う?」
福「そうっすね。倫理とか道徳とか、いろいろみんな考えがあるんでしょうね。俺も前のチームじゃ世界トップとか言われてたから、『世界で一番クリーチャーをなぶり殺してきた連中』とかよく批判されたし。殺らなきゃ殺られるのはこっちなんすけどね」
サ「そういうの、織田くんは結構にこやかにかわしてたよね」
福「俺はそういうのできないんで、はっきり言います。誰になにを言われようと、俺はプレイヤーとしてダンジョンで生きて、ダンジョンで死ぬつもりです。クリーチャーの権利保護? とかよくわからないんで、そっちで勝手にやってください。そんで法律でダメってことになるんなら、もう日本人やめてダンジョンの中だけで暮らすんで」
サ「まあ、クリーチャーの権利とかいう曖昧な概念を持ち出されても、こっちはなんとも答えようがないんですよ。むしろ情に訴えられたりしたほうが困ったかも」
高「つまり、今後もこのような残虐行為は続けられると」
サ「前にも動画で言いましたけど、ダンジョンは僕の星でつくられたものじゃない。数十万年以上も前の超々々高度な文明がつくりあげたものです。そこにはペイロ人の価値観も地球人の倫理観も通用しない。それが気に食わないなら、高霧さんが力ずくで止めればいい」
高「そんな野蛮な……できるわけないじゃないですか、こんなか弱い女一人で」
サ「か弱いかどうかは知りませんけど、別に腕力にものを言わせろとは言ってません。地球人はダンジョン立入禁止とか、クリーチャーを殺したら動物愛護法違反とか、法律で縛ればいいんですよ。そういう意見を世に出せばいい。もっとも、今まで何度も人権団体や動物愛護団体による似たような問題提起はされてきましたが、多くの方に支持されるまでには至っていないのはご存じですよね」
高「そうですね、野蛮人が多いですから」
サ「あーあ、今のは高霧先生の発言ですよ、僕は無関係ですよ。ともあれ、僕が言えるのはこれだけです、地球人がダンジョンとともに生きるのか、それともダンジョンを拒否するのか、選ぶのはあくまでみなさんの意思ってことです」
大「新俣くん、どう?」
新「福島さん、身体でかすぎてセッ○○のとき困りません?」
福「おいカメラ止めろ」
②に続きます。
100個目の投稿のオチがこんなのですいません。
※9/30:これ以前のお話を1つ消したため、今は99個目になっています。




