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赤羽ダンジョンをめぐるコミュショーと幼女の冒険  作者: 佐々木ラスト
3章:異世界を望む少女はダンジョンに生きた
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3-3:コッパーちゃん登場

 朝ほどではないものの、ポータルはまだ人が多い。ダンジョンからの帰宅ラッシュ真っ盛りだし、逆にこれからダンジョンに向かうプレイヤーも長々と列をなしている。


 エレベーターを降りた千影たちは、そのまま同じフロアの休憩スペースのほうに向かう。例のものが設置されたという一角に。


「……実物はもっとひどいね……」


 それを前にして、明智がぽつりとこぼす。千影も同じことを思った。


 今回のアプデで実装された、プレイヤー専用能力診断ロボット。その名もコッパーちゃん。


 いかにもチープな女の子のマネキン的ロボットだ。フォルムは丸いし身体は人間型だが、足は台座に固定されている、というか足が台座だ。装飾としてピンク色のフリフリの服、頭にちりちりパーマのカツラとリボン。しゃべるらしく、口の部分に腹話術の人形っぽいスリットがある。


「えっと……じゃあ、いいですか?」


 合流した管理課の丹羽が、名なしの彼女に尋ねる。今のところ、管理課がこれをプレイヤーに強要するルールはない。あくまでも個人による任意の使用でなければいけない。


「うん……まあ、これを使わないとなんにもわかんないみたいだしなあ。でもこいつ、ブキミなナリしてんなあ……ちょっとこええんだけど……」


 ぶつぶつ言いながら、彼女は渋々コッパーちゃんの前に立つ。


「えっと……『ハーイ、コッパーちゃん』……だっけ?」


 コッパーちゃんの目がかっと開く。そしてものすごい勢いで口がぱくぱく開閉する。


『ハッハー! あたいの口の中に指を突っ込んでね! ちょっとチクッとするけど、訴えたりしないでね!』


 甲高い声がいきなり早口でまくしたてる。千影たちだけでなく周りにいたプレイヤーたちもびくっとする。怯えたギンチョが丹羽の背後に隠れる。


 彼女がおそるおそる人差し指を入れると、その口から『おえー』と音声が漏れる。いちいち無駄な演出が多い。


「いてっ」


 彼女が顔をしかめる。宣言どおりチクッとしたのだろう。コッパーちゃんの目がぐるんぐるんとホラーに回転しはじめる。『ふぁーぶるすこ、ふぁーぶるすこ……』、よくわからないが、採取した彼女の血液の分析を行なう間のシンキングタイム的なアレだろう。


 一分後、かちんと黒目が定まって、『分析が完了したよ!』。そして腹のスリットからうぃーんとB5サイズの用紙が吐き出される。『また遊びにきてね、ハッハー!』。


「……えーと……」紙を見て、彼女はすぐに顔を上げる。「……よくわかんねえや」


 プレイヤーにとってはなにより大事な個人情報だが、彼女は無造作に差し出してくる。千影が受けとり、みんなで覗き込む。住民票みたいなフォーマットの文書だ。



 名前:該当なし

 ID:該当なし

 アビリティ:ベリアル-Ⅲ、レギオン、????

 スキル:????

 属性:風

 特徴:陽キャ、沸点低い、脳筋疑惑

 備考:無免許はダメゼッタイ!



「……該当なし?」


 コッパーちゃんはD庁のデータベースとつながっていて、取得した生体情報からプレイヤー登録者情報の検索・照合を行ない、名前とプレイヤーIDを表示する。


 該当なしということは、D庁未所属のプレイヤーということだ。IMOD所属の外国人プレイヤーか、あるいはごくまれにいるという違法な無免許プレイヤーか。ダメゼッタイ。

 【ベリアル】はⅢ、つまりレベル3か。IMODも日本と同じく十五歳以上から免許取得可能なはずだから、見た目よりも年がいっている可能性もある。

 それと【レギオン】――ダンジョンウィキで見たことのあるアビリティだ。強くてカッコいい能力(小並感)だから羨ましい。


「あの、丹羽さん……スキルとかの一部???? ってのは……?」

「私にもわからないわ。コッパーちゃんが実装されたばっかりってのもあるけど、同じような表記が出た人はいなかったと思う。サウロンさんに訊いてみないとわからないかも」


 そんなことがあるのか。彼女の記憶喪失となにか関係があるのだろうか。


「うーん……いや……申し訳ねえが、さっぱりだ」


 頭を掻いて苦笑いする彼女。嘘をついているようにも見えない。記憶が戻れば判明するのだろうか。


「丹羽さん、ちなみにこの特徴って……?」

「性格占い程度の適当な一言らしいけど、一部のプレイヤーから『ふざけんな』『バカにすんな』『余計なお世話だ』って苦情が来てるのよね」


 いらねえ。


「もひとつちなみに、この風属性って……?」

「私たちにもわかんないのよね。サウロンさんが言うには『RPGっぽいでしょ?』だって」


 いらねえ。


「ねえ、早川くん。もしかしたら故障かもしれないし、試しにやってみてくれないかな?」


 丹羽が顔を近づけてお願いしてくる。明智なら「自分でやればいい」と突っぱねたいところだが、そのメープルな声でお願いされると断りづらい。というかいいにおい。

 まあいいか。【ムゲン】もなくなったし、この人たちに今さら能力を隠す理由もないし。報告手続きの面倒も省けるし。


 しかたなく「ハーイ、コッパーちゃん」と棒読みで声をかける。そのあとはさっきと同じ流れだが、口に指を入れたときのリアクションが『くさっ!』だったので頭をひっぱたく。



 名前:早川 千影

 ID:1059639642

 アビリティ:ベリアル-Ⅳ、アザゼル、ロキ、ケイロン

 スキル:イグニス

 属性:陰

 特徴:コミュ力×、慎重派、がんばれ生え際

 一句:おもしろうて やがてかなしき うすげかな



「うーん、故障じゃないみたいね」と丹羽。

「ああ、すこぶる正確な診断だ」と明智。「早川くん、壊したら修理費二億円だから武器を仕舞え」

「ってことは、あなたはやっぱりIMOD側のプレイヤーかもしれないわね。なにか思い出した?」


 うーん、と名なし女は首をかしげる。ぴんときていないようだ。


「はう、わたしもやってみたいです!」


 ギンチョがぴょんっと挙手して立候補する。千影と明智が慌てて制止する。「いや、指結構痛いから、やめといたほうがいいかも!」、「今くっさい指突っ込まれてコッパーちゃんお腹壊しちゃったから、また今度ね!」。


 ギンチョは遺伝子的には地球人ではないし、ダンジョン因子も持っていない。コッパーちゃんがどういう反応をするか想像もつかないし、少なくとも事情を知らない人たちの前でやらせるわけにはいかない。


「つーかさ、早川くん」明智が話題を変えようと千影に振る。「【ケイロン】も持ってたんだ。結構レアアビリティじゃん。あのチートスキルといい、歴一年半にしちゃつくづく恵まれてんな」

「けいろんってなんですか?」

「一部のダンジョン由来の毒物への耐性がつくアビリティ。一部ってのがどこまでかわかんないけど」


 レベル4になる前にたまたま手に入れたものだが、幸か不幸か、効果を実感できた経験はない。結構レアなため(ダンジョンウィキ評価でA)、検証が進んでいないので情報も少ない(浅層のヘビ系やクモ系、アンデッド系などの毒への耐性が多少確認されている程度だ)。実際なんの毒に有効かなんて、自分の身をもって試すわけにもいなかい。


「毒物への対処って意外となんとかなることが多くて、毒ガス系なら感知機能ついた腕時計とかあるし、弱毒なら解毒ポーションでも処置できるし、ドラッグシリンジの【モルガン】があれば大抵一発だし(【モルガン】持ってないけど)。そういや今日の煙玉も普通に苦しかったし――」


 地雷を踏んだ。ギンチョが再びずううんと肩を落とす。事情を知らない明智や丹羽の目が厳しい。今のは自分がカスだったと千影も反省。


「じゃあな、ニーチャンとおチビちゃん。マジでありがとな。また会えたらいいな」


 明智と丹羽が彼女を連れていく。これからIMODのイワブチポータルのほうに行って、向こうのコッパーちゃんも試してみるらしい。外国籍のプレイヤーであれば名前やIDは判明するだろう。これでお役御免だ、もう手伝えることはなにもない。


 ぽつんと残された千影とギンチョは、そのままポータルをあとにする。

 連絡口から外に出ると、むわっとした夜気がまとわりついてくる。風がなくて湿度が高い。今夜も寝苦しくなりそうだ。


「ああ……」


 今日は疲れた、いつもの十倍は疲れた。探索や戦闘もそうだし、イベントフロアでも反省ばっかりだったし、人がいっぱいいたし、人といっぱい話したし。今すぐ家に帰って風呂に入りたい。


「……夕飯、うちにある冷食でいい……?」

「……ラーメン、たべたいです……」

「……疲れてない? 家でまったりしたくない……?」

「……ラーメン……」

「……はい、わかりました……」

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