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格闘姫1

 この間倒壊して三日で再建設された魔王城で、大声が響いた。


「魔王の無能ぶりには目があまるぞ!」


 魔王城で定期的に開催される魔王も交えた四天王の定例会で叫んだのは、魔王軍四天王の中でも最弱と名高い赤犬将軍だった。


「どうした、赤いの。なにやら荒れているらしいが、勇者の討伐が上手くいっていないのか?」

「どうしたもこうしたもないぞ、蒼竜将軍!」


 今回の定例会、出席しているのは赤犬将軍と蒼竜将軍だけだ。残る二人は一度も定例会に参加したことがないし、肝心の魔王はアソビタ姫と一緒の建物に住んでいるというストレスによりお腹痛いと訴えており、欠席と相成った。


「魔王のやつ、面白半分か知らないが勇者対策に関してだけは小刻みに口出しをしてくる。そのくせ勇者に対して戦力を小出しにしかしない。こちらが全力で攻勢をかけようとしてももったいぶって制止する。どういうことなのだッ。魔王はなにを考えている!」


 居丈高に訴える赤犬将軍は、この魔王城でも数少ない魔王より弱い魔物である。四天王の中でも随一に四天王最弱っぽいからと選ばれた将軍で、そろそろガンガン王国の勇者にして第二王女、イコーゼ姫に残機を一個減らされる時期じゃないかなと神々に噂されていることを彼はちっとも知らない。

 そんな悲劇の将軍は、しかし魔物には珍しく生真面目な性格をしていた。


「勇者は確かに弱い……だが、あの成長率には目を見張るべきものがある。いつかは俺や他の四天王――あるいは、魔王にすらその刃を届かせる可能性があるんだぞ!? 叩くなら今なのだ! なぜそれがわからない!」


 彼は自分が弱いという自覚はあまりない。赤犬将軍は人間界で発生した魔物で、人間界生まれにしては強いからだ。悲しいことに魔界ではただの雑魚なのだが、彼は魔界のことをよく知らない。序盤でイコーゼ姫の経験値の糧になる予定だから、ある程度の雑魚でないと困るのだ。


「まあ、落ち着け、赤いの」


 魔王軍最強と名高い蒼竜将軍は、赤犬将軍の訴えに重々しくうなずいた。裏事情をすべて知りつつも真面目くさった顔で赤犬将軍の篭絡に取り掛かる。


「勇者の報告は聞いている。その危険性もな。それらをすべて踏まえたうえでの傍観だ。魔王様とてまるきりバカではない。深いご思慮あってのことだ」

「ぐ、ぬ……!」


 赤犬将軍も四天王最強の蒼竜将軍の実力、そしてなにより普通に会話ができるという点で彼のことを認めている。その彼に、特になんの具体性もないのになんとなく中身があるように見せかけた言葉をかけられては反論が難しかった。

 いまは魔界の戦力を本気で投入したら勇者が負けてしまうので、人間界の魔物を使って段取りよく勇者のレベルを上げている最中なのだ。魔界の魔物にしても、自分の残機を増やすチャンスは逃せない。人間界の魔物にはちょっと犠牲になってもらうしかなかった。

 そういう意味で魔王はきっちり仕事をこなしていると言えるのだが、そんなものやられ役の自覚がない人間界の魔物に納得しろというのは酷であある。


「それでも……それでも俺は納得できん! いまの魔王はあまりにも手ぬるいっ。魔界の戦力があれば人間界などたやすく蹂躙できるというのに、なぜ遠征をしない? そうでなくとも、勇者を一人叩き潰してくれれば、それでよいのだっ。一国から姫をさらうなどということをする暇があるのならば、いまの勇者一人を倒すなど造作もなかろうに……そうでなくとも、俺たちのしたいようにさせてくれれば、いまの勇者ならば倒せることができる。それなのに肝心な時に限って、邪魔をするかのような命令を下してくるのだ、あの魔王は……!」

「そうか……それは大変だな」


 悔し気に至極もっともな正論を並べ立てた赤犬将軍に、蒼竜将軍は結構本気で同情する。魔王は魔王で勇者に自分を倒させるのが目的だから仕方ないのだが、真面目に頑張っている赤犬将軍が哀れでならなかったのだ。


「蒼竜将軍よ。やはり俺は、魔王の代替わりを提案するぞ」

「なに?」


 意外な提案に、蒼竜将軍はぴくりと尻尾を動かした。

 魔王の任命は邪神の仕事だ。神々の娯楽である勇者と魔王の物語。百年に一回くらいの頻度で行われる一大イベントを進行するために邪神が魔物の中からキャスティングするのである。

 はやりすたりのある魔王のイメージ。最近の魔王は人型でイケメンで頭から角が生えていてマントが似合うという基準で選ばれている。しかもヘタレが多いということで、魔王は魔界の中では雑魚の部類である。

 だが、そこら辺のアバウトさをよく知らない者も多い。人類はほとんど知らないし、人間界で生まれたような魔物も知らない。赤犬将軍は、人間界で生まれてやんちゃしているタイプの魔物だ。魔界の繊細微妙なルールのことなどよく知らなかった。


「いまの魔王は、邪神様が任命した魔物だぞ。その魔王よりも魔王にふさわしい魔物がいるとでも?」

「もちろんだ」


 魔物の神である邪神に反旗を翻したような言葉。しかし理不尽で無能な割には権力だけ持っているという厄介極まりにない上司の命令に振り回された疲れ、そしてその犠牲となった部下の屍を思うからこそ、赤犬将軍は決然とした態度を崩さない。

 ここで赤犬将軍が自推でもしようものならいい感じに小物だったのだが、この将軍は己の分というものは知っていた。


「人間界生まれの俺でも知っているような魔物が、いま魔王城にいるではないか。魔王の代が九十九回変わっても不動の地位にある実力者。あの伝説の暗黒大戦を生き残ったという功績を持ち、冷酷非情なる残虐姫と噂される魔物――アソビタ姫こそが、魔王の地位にふさわしい!!」


 納得の推薦だった。


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嘘つき戦姫、迷宮をゆく
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