MMO姫2
種族人間はキャラクターにするにはアソビタ姫の趣向に沿わなかった。
あれから何人かキャラクターを操ってみたのだが、種族人間はアソビタ姫が思っていた以上に雑魚種族であり、めんどくさい生態をしていた。
人間は経験値をあんまりもらっていない状態だと弱いを通り越してなんで生きていけるかわからないレベルの生命体だ。アソビタ姫の求める耐久値に肉体が付いてこなかったし、ご飯食べて水を飲まないとすぐ死にそうになるし、残機制じゃないので治療するのがめんどくさかったりと、細かい仕様が多すぎた。
種族人間の繁殖方式は魔物とは大きくことなる。そこら辺の地面から湧き出したり岩石を割って生まれたり木の又からつるんと生まれたり天空から落っこちてきたりして発生する魔物とは違って、人間は人間から生まれるというアソビタ姫からすると奇妙極まりない生まれ方をする。
そういった生殖をするため、種族人間の生態は同じ種族の個体同士で固まり、ありとあらゆるしがらみにがんじがらめにされる。彼らには彼らの人生があるために、アソビタ姫の都合で適当に動かしているとしがらみが多くて鬱陶しかった。
これはいけない。
ハンティングゲームをしているのに、時々でなんの脈絡もない愁嘆場が開始されるのである。イベントが突発的なのは百歩譲るとしても、クリア条件が提示されないのはいただけない。
かといって、魔物もダメだ。魔物は残機性であるものの、レベルアップをしない。基本的には生まれたままの強さで、自分を強化するには残機を消費する必要がある。残機の授与には功績が必要なので、操られている限りは残機が増えるようなことがないのだ。
こういった要素がそろい踏みだったものの、制作を諦めるにはMMOというジャンルは魅力的すぎた。
だから姫は考えた。
そして、賢いアソビタ姫は閃いたのだ。
「ほむん、くるす」
ちまたで禁忌と噂の生命創造である。
倫理的に悪とされている魔法はだいたい習得している姫は、さっそくホムンクルスを魔法で作り出した。
人間基準の肉体でありつつも、いろいろとめんどくさい人間的な機能は排除した人間っぽいホムンクルスは時間をかけずに完成した。アソビタ姫そっくりの見た目をした人間バージョンのキャラクター。これをコントロールで動くようにし、人間界に派遣するのだ。
ホムンクルスをモンスターとするか、それとも魔物とするかはアバウトな境界線である。人間としての自意識をもって魂を獲得すれそれは人間だとするふわふわした基準がある。
今回は、どっちかと言えば魔物の部類である。
「これで、今度こそ、うまくいくはず」
ただアソビタ姫の期待を裏切りたくない邪神のごり押しで今回は人間扱いすることとなった。魔物を倒して経験値をためてレベルアップできる仕様にしないと遊べないというアソビタ姫の要望に沿った形だ。邪神は姫をえこひいきしているのである。
人間バージョンのアソビタ姫の完成である。
「武器は、大剣」
やっぱり大きな武器には夢がある。魔王城の武器庫から大剣をもらってホムンクルスに装備させる。残機が惜しい見張り番は、アソビタ姫が宝物個から適当な武器をかっぱらっていくのを笑顔で見送り、姫が連れているホムンクルスのことにも一切口出ししなかった。
「これで、よし」
準備は万端である。アソビタ姫は人間のバージョンを操作する。三人称視点である。コントローラも作成したものでばっちりだ。憑依もできるのだが、姫はインドア派なので運動はしたくない。あくまでゲームをしたいのだ。
姫は人間界の適当なところにホムンクルスを派遣して操作。その性能を確認するにつれて、アソビタ姫の瞳は輝いていった。
「たのし、い!」
経験値が残機となる姫とは違って、人間バージョンの姫は魔物を狩るとレベルアップをするのだ。ちょっとずつ強くなっていくのが新鮮で楽しい。自分は動かないのに、指先の操作でキャラクターが三次元空間を動いていくというのも楽しい。そしてマップは広大で、そこらへんの魔物をぷちぷちするだけでレベルアップするのだからお手軽だ。
だから姫は寝食も忘れて魔物狩りに没頭した。
そして姫は一日の三分の二ほどをモンスター退治に費やすこととなり、魔界につかの間の平和が訪れた。