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MMO姫1


 赤犬将軍の残機が一個減ったしばらくした後、負けすぎた格ゲー以外の娯楽を求めて邪神と交信したアソビタ姫はまた新しい遊びの知識を仕入れていた。

 その名もMMORPG。

 言わずもがな、とある異世界のとある国では有数の人生殺しと名高いジャンルのゲームである。最高最悪のゲームと知られるその遊びをアソビタ姫に教えた邪神は「なぜよりによってそれを教えた!」と他の神々からめちゃくちゃ怒られた。

 神々が焦るのも無理はない。アソビタ姫が魔法使い職でモンスターハントに出掛けるようになったら、魔界は大戦時代に逆戻りである。天は荒れ地は裂け種族人間は余波だけで吹っ飛ばされ、勇者と魔王というちゃちゃなお遊びはおじゃんになる。

 だが幸いなことに、アソビタ姫はインドア派だった。

 この世界では普通に外の旅を出ればそれすなわちモンスターハンティングが楽しめるのだが、アソビタ姫は外にでて遊びたいわけでは断じてなかった。最初からレベルMAXのMMORPGは無双できてそれはそれで楽しいが、アソビタ姫は自分の体を動かしたいわけではないのだ。自らが動いて遊ぶのはアウトドア派の所業である。準備作成段階で動くのは仕方ないが、遊びはインドアで行うのが鉄則なのだ。

 それにせっかくだから育成からやってみたかった。

 ぷにょぷにょから開発した水鏡モニターに洗脳コントローラー。この二つがあれば大抵の人を動かす系統のゲームは実現できるとアソビタ姫は確信していた。


「せんのー」


 ゲーム内キャラクターを得るために出番となるのが、もはやおなじみと化しつつある暗黒魔法の洗脳魔法である。

 今回はMMOというジャンルだということもあって、人間世界の罪もなき一般市民Aを洗脳し、使役し、水鏡で投影して遊ぶことにした。水鏡越しの遠隔洗脳魔法はレジストされる可能性が高いが、種族人間の魔力防御能力と精神防壁はアソビタ姫にとって砂粒みたいなものなので、抵抗すら感じず洗脳に成功した。

 まさしく魔界の姫の所業。生まれながらにして搾取する側である姫に罪悪感など湧くわけもなく、さくさくと適当の人間を選んでコントローラーと洗脳接続をした。

 MMORPG特有のレベルアップ機能は普通の人間たちに生まれつき備わっている。人間は魔物を倒すと経験値を手に入れてレベルアップができるのだ。だからあとは、コントローラーに接続した彼で魔物を狩っていけば万事解決である。


「こんかいは、簡単」


 もともとの世界のシステムにより手早く材料が揃い、アソビタ姫はご満悦である。接続したキャラクターを動かし村から出て、半日ばかり魔物狩りをする。操作性もなかなかで、レベルアップも問題なく行われた。なかなかの出来である。

 一狩り終えて楽しんだアソビタ姫は村に戻った。

 明日はちょっと遠出してみようかな。もちろん、洗脳したキャラで。MMO初期特有のわくわく感とともに予定を立てながら洗脳を解除してログアウトしようとしていた時だった。

 アソビタ姫のキャラに、突然一人の女性が飛びついた。


『あ、あんた! 何日も、いったいどこへ行ってたんだい!』

「ん……?」


 突然始まった会話に、アソビタ姫はかわいらしく小首をかしげた。

 MMORPGで、NPCが突如として一方的に話しかけてくる現象。姫には、それに心当たりがあった。


「いべん、と?」


 MMORPGでは何が起ころうともそれはすべてイベントであり、どんな理不尽があろうとアップデートされない限りは仕様である。だからとりあえず受け入れて対応するのだ。

 アソビタ姫はさっそくMMORPG特有の思考回路にはまっていた。


『いきなり村を出て、仕事にもいかないで魔物と戦ってくるなんて……死んだらどうするんだい! いったい何を考えてそんな無謀なことをしたの!』

「む、うー?」


 これはいったい何のイベントだろうと眺めていたが、女のNPCが泣き叫んではよくわからない個人的なことを話すだけである。アソビタ姫にとっては、興味ゼロの話だ。


「なに、これ……」


 MMORPGでは、NPCに攻撃できないのは絶対の法則であることが多い。基本に忠実なアソビタ姫はゲームルールに従っているのだが、延々と流れていく一方的な会話にアソビタ姫は辟易とし始めた。

 イベントならばクリア条件があり、報酬が用意される。信賞必罰こそ、秩序をもたらす唯一の法則だ。用意されたイベントに時間という労力をつぎ込んだのに無報酬だったら、ゲーマーは即クレームを叩きつける。

 だが、残念ながら種族人間の人生は理不尽だ。イベントをクリアしたのになぜか無報酬どころかペナルティが課せられることもある。そもそも、イベントの達成条件が明示されない、あるいは達成条件がないという事態までありえる。

 今回の会話も、それに類するものだった。

 いまも女性の会話が続いていた。しかも終わる気配が見えない。それどこらかなぜか姫の操るキャラクターが責められていた。

 イベントが始まる前のイベントムービーが終わらない。しかもそのイベントムービーがクソつまらない。なんで何も言わないのと金切声で女性は訴えているが、MMORPGのキャラは基本、なにもしゃべらないのだ。

 アソビタ姫の眉間に、しわが刻まれる。女の話は終わらない。それどころか、周囲にどんどんとNPCが増えてきた。まるで話が展開しない。生産性もなければ展開性もない主張が続くだけだ。

 ぷつん、と糸が切れるようにしてアソビタ姫のやる気が損なわれた。


「くそ、げー」


 アソビタ姫は姫らしくない汚い言葉を吐いて、コントローラーを放り出した。

 人生はクソゲー。

 魔物であるアソビタ姫は、また一つ真理を悟った。真理を知ったご褒美に、邪神がアソビタ姫に残機を贈呈していた。

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読んでいただきありがとうございました
嘘つき戦姫、迷宮をゆく
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