神様TRPG2
「どうだ赤の四天王……! わたしの、勝ちだ!」
今回イコーゼが死闘を繰り広げた相手は、赤い毛並みを持つ人型の魔物だった。
人間界で魔物を取りまとめている赤犬将軍の撃破は人類の悲願だった。イコーゼ姫は無謀を悟りつつも単騎で敵の本拠地に攻め入り、なんやかんやあって最終的には赤犬将軍との一騎打ちに持ち込んだ。
魔物だというのに人間の武術を使う手並みにイコーゼ姫はずいぶんと手こずらされた。それをしのいだと思えば、巨大な犬へと獣化しフィジカルにものを言わせた戦いをする。すさまじい激戦を繰り広げ、イコーゼ姫はそれでも勝利をおさめた。
「……く、すさまじいな。神々の加護を授かっているにしても、人間とは思えぬ力よ。なによりmかだ底が見えぬポテンシャル……貴様は、本当に魔王に勝利できるやもしれんな」
「お前も強かったぞ、将軍……」
胸に刻まれた傷を抑える赤犬将軍の健闘を、イコーゼ姫はわずかな寂寥感を込めてたたえた。
イコーゼ姫も修練を積んだ武人だからこそわかる。この将軍の強さは、生来のものだけではない。その思考も、破壊衝動に侵されたものではなく確かな知性と理性が感じられた。魔物の集団戦はお粗末としかいえないものだったが、もしまともな運用がなされていたら、敗北したのは間違いなく自分だっただろう。
「だが、俺を倒したところで魔物は滅びんっ。しょせん俺は、四天王のなかで最弱の魔物にすぎんからな」
「なっ……! 貴様ほどの魔物でも、最弱の幹部、だと!?」
「く、はは! その通りだ、ガンガン王国の勇者イコーゼよ。貴様が思っている以上に、魔界の魔物は強い……」
新たに知らされた事実に、イコーゼ姫はぐっと下唇を噛む。
「相手が強いからって、だからなんだ! わたしは止まらないぞ。わたしは、魔王に勝つ! 勝って、姉さんを助けるんだ!」
「ふは、ふははは!」
「なにがおかしい!」
「いや、なに。貴様のポテンシャルは恐ろしい。このまま成長すれば確かに貴様は魔王には勝てるのかもしれん。だが、だがなぁ!」
瀕死の重傷を負った赤犬将軍は、イコーゼ姫の実力、潜在能力を高く評価して認め、それでも魔物の有利は揺らがぬとにやりと笑う。
「魔王城にいるあのお方には、決して勝てぬ! あのお方に勝てる人間などいるものか!! はーっはっはっはっはっは!!」
高笑いを上げガクリと倒れた赤犬将軍は、ドロップアイテムを残して消滅した。
「あの方……?」
ドロップアイテム拾いながら、イコーゼは赤犬将軍の遺言の意味を考える。
思い出すのは、一度魔物に囲まれた時に感じた圧倒的な魔力。いま思い出してもあり得ないとしか言えない暗黒そのものの波動だ。
「魔王よりも上の存在が、いるというのか……!」
不吉な予感を、イコーゼ姫に残した。
その様子を見ていたGM神は「ラスボス姫じゃありませんように、ラスボス姫じゃありませんように……!」と誰にだかは知らないが祈っていた。
赤犬将軍が勇者イコーゼ姫に倒されている時、アソビタ姫はほっぺたを膨らませていた。
「うみ、み!」
いい出来の格ゲーができたので、トラワレ姫と一緒に遊んでいるのだ。ちょっとスプラッタな光景は、アソビタ姫の計らいにより幻術でごまかされる仕様になっていた。
練兵場の魔物たちには連戦連勝をあげた。ゲームのシステムに一通り満足したアソビタ姫は、トラワレ姫の部屋に水鏡をセットして格ゲーをたしなむことにしたのだ。
そして、トラワレ姫に勝てなくなっていた。
もちろん最初のうちはアソビタ姫が勝利していた。だが、それは本当に最初の数度だけだった。
「てい、ていていっと!」
「みぎゃ!?」
トラワレ姫の攻撃を防御しそこねたアソビタ姫が、しっぽを踏まれた猫みたいな悲鳴を上げる。
トラワレ姫は止まらない。滑らかにコンボをつなげたトラワレ姫によって、アソビタ姫のキャラはどんどんHPを削られていく。
「あ、ああ……」
そしてそのままHPを削りきられ、残機が一個減って消滅する。
これで九連敗。最初の数度はアソビタ姫が連勝し、次第に勝ち負けが混在するようになって、いまとなっては連戦連敗である。
「ふふ、またわたしの勝ちね、アソビタちゃん」
「う……ううー!」
敗北が続いて、アソビタ姫は悔しかった。
対戦ゲームは負けてばっかりだ面白くない。勝負である限り、それが真実だ。アソビタ姫のご機嫌斜めに合わせて放出された魔力が天候に影響を与える。ごろごろと雷が暗雲の中で鳴り響き、ざーざー雨が降り始めた。無意識に天候に影響を与えているあたり、今回のアソビタ姫はけっこう本気で悔しかった。
「トラワレ、ずるい! なんか、ずる、してない!?」
「ずるって……これ、アソビタちゃんがつくったんでしょう?」
「そう、だけ、ど……そうだ、けど!」
地団太を踏むも、反論の余地がなかった。
このゲームシステムを作ったのはアソビタ姫だ。アソビタ姫の非難に困った顔をしているトラワレ姫が介在できる余地はない。
純粋にトラワレ姫に格ゲーの才能があったと、それだけのことだ。
だが、自分でつくったゲームで連敗を喫するというは、すさまじい屈辱をアソビタ姫に与えた。
「も、一回!」
「うふふ。わかったわ」
敗北が重なってムキになったアソビタ姫はコンテニューを要求する。
困った子だなぁと思いつつも、トラワレ姫も受けて立つ。囚われの身である彼女にとって、アソビタ姫と遊ぶのは一番楽しみな時間なのだ。
「でも手加減はしないわよ、アソビタちゃん」
「のぞむ、ところ!」
そしてアソビタ姫は、人間相手に十連敗を喫することになった。