ないものねだり
そっと手を空に伸ばす。手の中に光が溜まり溢れてくる。
水溜りに足を突っ込む。透明な足が泥色に染まる。
路地裏に駆け込む。被っていたお飾りが闇に消える。
鏡に向かって笑いかける。形の無い私が見下していた。
人混みに紛れ笑顔を振りまく。誰にも見られないくせに。
人に倣って言を紡ぐ。聞こえるはずもないのに。
人を羨んで事を始める。できるわけないのに。
「自分も」って手を伸ばす。掴む手さえ無いのに。
色の無い、思いの無い、心の無い、「自分」の無い、
ガラスに映った「私」が、私を蔑んだ。
私じゃなく、「私」なら上手くやれるって。
「私」なら、こうはならないって。
「私」なら、自分を見つけられるって。
形の無いまま、心の無いまま、色の無いままの「私」が、蔑んだ。
私の色は。私の形は。私の心は。
私はどこにあるの。
「私」はどこにいるの。
「私」の居ない鏡には、欠陥人形だけが笑っていた。