初めての嫉妬
教室の窓から差し込む夕日が、肩まで伸びた髪に温もりを与えて、俯いていた彼女は言葉を紡ぐ。少し震えたその声は、嘸かし庇護欲を掻き立てることだろう。
「…アホらし。」
ドアを挟んで教卓の向こうに見える涼介を睨み、その場を後にした。
携帯が着信を知らせ、躊躇いながら通話ボタンを押す。
「な「何処に居る。」」
携帯の向こうから聞こえる声が苛立っている。
信号が青になって、流れが生まれる。進まなければと思っている筈なのに、どうしてこの足は動いてくれないのか。理由は分かり切っている。どうしてなんて、思いたくないだけで、受け入れたくない思いを受け入れさせるように、後ろから余裕の無い声が近付いてくる。
逃げねぇと…
「マキ!」
この声に捕まっちゃ駄目なんだ。
「逃げんな!マキ!!」
逃げてなんか無い。さっきのが嘘みてぇに足が動くんだ。でも…
「マキ!!」
胸が軋んで、痛くて、目が熱くて、
掴まれた右腕が熱くて
「は…泣いてんじゃん」
触んな 笑うな
「やめろ」
振り向いた顔は歪んで、汗が浮かんでいる涼介の顔も、マキはまともに見れなかった。
どれだけ走ったのか、辺りは2人の家の近所で。少し行けばもうあまり子供の遊ばない公園がある。
「こっち」
マキの手を引いてかつて遊んだブランコに腰掛けた。
「りょーすけ…」
「ん?」
その声で、この腕で、彼女を包み込んで囁いたのか。その笑顔で。
「りょー…すけぇ」
「どうした?」
いやだ。
「 」
呟いた声を、涼介が聞き取れたのか分からない、ただ隠し切れていないだらしなく緩んだ口元と、いつの間にか腰に添えられた手が、逃げ出したあの後の展開までも物語っているようで…
こんな堪らない気持ちになるなんて、知らなかった。
もやもや、どろどろ、渦のように、落ち着かない。
「俺が好きなのは お前だよ 分かってるだろう マキ」
初めての 嫉妬。