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高校生のありふれた恋

作者: うらなり

「君の髪、綺麗だよね」


彼は優しく言った。

私は恥ずかしそうに笑うしかなかった。


その日からだろうか、私が彼を目で追うようになったのは。





残暑に耐えながらコツコツと準備を進めてきた学校祭。

学校祭まで残り1週間となり、生徒も先生も興奮を隠しきれていない。


彼もとても楽しみにしているようで、教室で友達と学校祭の準備をしている彼は

向日葵のように明るい笑顔を見せている。


そんな彼を一番後ろの席で見ていると横から声をかけられた。

声のほうに視線をに向けると1人の女子がいた。


「まーたあいつのこと見てるの?」


あきれ顔で溜息をつく彼女は友達の彩音。中学からの友達。

何でも相談できる、親友ってやつだ。もちろん。彼のことも知っている。


「そうよー。別にいいでしょ」

「見てるだけじゃ何にも始まらないのよ?そこんとこわかってる?」

「うるさいなー。わかってるわよー」

「わかってるんなら早く話かけなさいよー」

「難しいのよ。なんて話かければいいかわかんないし」

「まあ、あいつのこと何にも知らないからねー」


そう、私は彼のことをよく知らない。

知っていることは背が小さくて、眼鏡をかけている。

たった2つだけ。それ以外は知らない。


もっと色々なことを知りたいと思うけれどそれは気持ちばかり。

脳ではわかっていても、体が追い付いてこない。


「それにしてもさー。楓花も楓花だよねー」

「なにがよー」

「いや、髪を褒められて好きになっちゃうとか乙女だなーって。」

「単純って言いたいならそう言いなさいよ」

「別にそんなこと思ってないですわよ?嫌ですわ楓花さん」

「顔に書いてあんのよ」


え?嘘?と顔を隠す彩音から彼へと視線を戻す。

自分でも単純だと、そう思う。髪を褒められるのだって別に初めてではなかった。

でも、何かが違った。何かが今までの人と違う、そう感じた。


こんなことを言うと本当に乙女みたいになってしまうのだが

きっとそれは運命なんだと思う。好きになってしまう運命。


「もう学校祭まで1週間なんだし、ちょっとは根性みせなさいよ?

 学校祭が終わったら受験とかで忙しくなるんだから」

「そうなんだよね。もう、ここしかチャンスはないんだよね」

「そうよ。もう、バシっと決めてきなー。じゃ、あたしは作業に戻るわ」


そう言って彩音は小走りで教室から出ていった。

視線の先では彼が楽しそうに何かを作っている。


ああ、自分の思っていることをテレパシーか何かで

彼に送れたらいいのに。そうすれば楽なのに。


そんな非現実的なことを考えながら教室を出た。

確か体育館の方でも何か作業をしているはずだ。

そっちのほうを手伝いにいこう。


窓からは橙色の光が降り注ぎ、白い廊下を染めていく。





「あー。結構な時間になっちゃったな」


体育館での作業を終えて教室に荷物を取りに向かう途中、時計を見てつぶやいた。

今の時刻は21時ちょっと前。体育館で3時間は作業をしていたことになる。


21時まで作業をしてもよいという規則なので残っている人もちらほらいるが

まだ学校祭まで1週間ということもあってかかなり少ない。


暗くなった外を眺めながら自分の教室へ足を動かす。

教室の近くまで来るとあることに気づいた。

教室の扉から光が漏れている。電気がついているのだ。


誰か残っている?それとも電気を消し忘れた?

なんてことを考えながら扉を開けると、そこには


「あれ?橋田じゃん。まだ残ってたんだ」


一瞬、頭が真っ白になった。まったく予想をしていなかった。

そこには彼がいた。好きな彼。いつも見てしまう彼。


「あ、あ。石谷くん。いたんだ」

「まあね。今日中に終わらせたい作業があって」

「そ、そうなんだ。大変だね」

「そんなこともないよー。楽しいからね」


そう言いながら笑顔を向けてくる。

ドキドキしながらなんとか笑顔で返す。


「そ、それじゃあ。私はこれで」


荷物を素早く机の上からとって帰ろうとする私。


「あ。帰りは歩き?俺チャリだから家まで送ろうか?」


心拍数が上昇する。想像しただけで爆発しそう。顔が熱くなっていく。


「え?い、いやいや!大丈夫だよ!!」

「遠慮すんなって。ちょっと待ってな。すぐ片付けるから」


石谷くんは素早く道具を片付けていく。3分もかからないうちに片づけが終わる。

私はただただ。片付けをする石谷くんを見ていた。


「よっし。じゃ、帰ろっか」

「え?あ、ああ。うん」


彼が先に階段を下りていく。そのあとを私が下りていく。

息苦しいほどに鼓動がはやくなる。


この鼓動の音が彼に悟られませんように。

そう願いながら階段を1段ずつ下りていった。





暗くなった歩道を1つの自転車が走る。前には石谷くん。後ろに私を載せて。

夜空の星は綺麗に輝いていて、私を見てクスクス笑っているようだ。


「家まで案内たのむなー」

「う、うん」


カラカラと音をたてて回る車輪。私の脳内もグルグル回っていく。

話したいことはたくさんあるはずなのに喉から言葉が出てこない。

こんな機会はめったにないのに何もできない自分が嫌い。

なんだか情けなくて涙が込み上げてくる。

彼はそんな私に気づいてか話を始めた。


「そーいえばさ。橋田と話すのはあれ以来だよなー。ほら、あのー。夏休み前日の放課後!」

「あ、うん。そうだね」

「橋田が1人で教室から夕陽を見ててさー。なんつーのかなー。

 すっげぇ綺麗だったんだよねー。夕陽と橋田のコンビネーションってやつ?」

「え。そ、そうなのかな」

「あぁ。もっと橋田のことを知りたいって思ったよ。

 風になびく長い髪が印象的だったから髪を会話のきっかけにしたっけ」

「そ、そうなんだ」

「そっから仲良くなれたらなーって思ってたけどあんまうまくいかなっかた」

「えっ?」

「橋田としゃべろうとするとさ。何か言葉が出てこないんだよ。

 思っていたこと、しゃべりたいこと、いっぱいあるはずなのに

 どうしても橋田を前にするとできなかった。たぶん、恋だこれ」

「はぇ?」


いきなりの告白に間抜けな声をあげてしまう。


「いや、だから恋なんだ。この感情はきっと。

 橋田のことが好きなんだ。あの日からずっと」


ふつふつと熱を帯びていく頬。耳まで熱がまわってくる。

ずっと憧れだった彼。その彼が私を好き。

これは本当に現実なのか不安になってくる。


「もし、もしだけどさ。橋田が良かったらだけど。

 学校祭は一緒に見て回らないか?」

「あ、あう」

「突然で驚いたと思う。でも、どうかな?」


いまだに彼の言葉が信じられない。脳が追い付いていない。

何か言わなくちゃ。と思いながらやっとのことで言葉を出した。


「こ」

「こ?」

「こちらこそお願いしますっ!!」


彼の顔は見えない。見えるのは小柄な背中だけ。

私は彼の背中にそっと寄りかかり、夜空を見上げる。

夜空には星が綺麗に輝いて、まるで私たちを見てクスクス笑っているようだった。







初めて投稿します。うらなりです。

まだまだ未熟ですが精進したいと思います。


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