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第二章 妖しげな世界

 ようやく、たどり着いた外の世界。  

 夜空より黒々とした髪は、突き刺さるような寒い風で、微かに揺れ動いた。

 小春は、ふうっとため息をつくと、周囲を見渡した。


「…………」


《……まさか》

 見たこともない、辺りの景色は、透き通る様に雫色だった――気がした。

 小春は、眉をひそめ、思わず両眼を固く閉じた。

 そして、恐る恐るに目を開く。

 彼女の口は、閉じることを忘れた。


 薄ら滴る水の地面は、ヒンヤリした微かな夜風に吹かれ、無色の水が、瑠璃色や純白にも変色する。更に、真夜中の微かに灯る三日月を鏡のように映し出していた。

 映し出された三日月の周囲にいくつもの星がキラキラと舞い、踊っている。丸で、生きてる様に。


 小春は、水面に映し出された不思議ないくつもの星に、これは何かと目を細めた。

 するや否や、彼らから、微かに音色は聞こえてきた。この音色、水面のすぐ上部分から聞こえてくる。徐に、小春は水面上へ目をやった。


 水面の直ぐ上をふんわり飛び交うのは、ごま粒の様に小さな光の精霊(ルークス)達。何体ものルークスは星のように輝きを放っていた。


 よく聞けば、高く美しい声で、歌を歌っていた事が良く分かる。丸で、歓迎している様だ。


 小春は、思わず、笑みを浮かべた。


 そう言えば、最後に心して笑ったのはいつだったかしら……? 小春は、覚えていなかった。


 過去を振り向き、考えるとまず思い出すことが出来るのは、苦痛だけ。


 その小春を慰めるように舞い踊り、ふわふわと飛び交っていたルークス達は、突然、慌ただしく蠢きはじめた。

 向こうから、細々しく水の弾ける音を鳴らしながら、黄色い火を纏った獣が近づいて来るのが見える。

獣が、チーターのような素早い動きで、水を弾きながらこちらへやって来ると、ルークス達は鼓膜が破れるように甲高い叫び声を上げながら、この獣から、一目散に逃げ出していった。


 小春は、瞬きもせず、きりりとした瞳で黄色い火を纏った獣を見詰めた。この獣は、神獣のごとく黄色の入った皮膚を有している。

そして、小春はあることに気が付いた。この神獣は、麒麟だと言うことを。


 しかし、この麒麟。小春を焼き付くように見詰めれば、雷のようなオーラを感じる背を向けて素早い動きで水を弾く音を鳴らし、何処かへ走り去っていった。


 唖然としていたが、我に返った小春は、後ろを振り返る。しかし、あるはずの地下横断歩道が見当たらない。小春は、目を見開いた。……どうしたものか。


 ただ、浅い水面が長々と続くほかは、何もなかった。その水面は、相変わらず微かな風に揺れ動き、無色の水が瑠璃色やしれじれとした純白に変色していた。


 小春はそれをみとめると、直ぐに背後に回した首を前に戻した。

 この時、突き刺さるように冷ややかな風に黒髪は大きくさらさらと流れるように揺れ動いた。生きているように風は緩やかに吹き続ける。髪は、風に合わさり緩やかに波を打っていた。


 小春から真っ直ぐ向こう側、深海色の水で造られた和風な城が現れていた。波打つ海と同じように時々大きい波を揺らし、辺りの水の形と色が変形、変色する。それは深海色から星色に、波打つ度、月明かりに照らされて、

くっきりと浮かび上がっていた。

 だが、奇妙なこと。木製の柵は城の形をした水に、丸で取り付けられたようにくっきりと存在していたのに小春は目を丸くする。

 よく見れば水のようで水でなく、しっかりとした城であるようで、しっかりとした城でない。その間とも言えようか。


 水の城の中は仄かな夕焼け色の明かりが照らされていた。

もしや、誰かが住んでいるというのか? ――そうに違いない。あの並木道の街灯とよく似た夕焼け色の明かりが灯っているのを見れば、確信ができる。

 この思考が過ぎった時、彼女は真っ直ぐ足を進めだした。


 歩く度、ようじで刺されるように冷えきった雫が足首にあたるのは、地下横断歩道を歩いたときと同じだった。

 その場所から遥か西に、木製の小さな小屋が見えた。何のための小屋だというのか? ――いや、こんなことを考える暇はない。

 一刻も早く、あの城へ向かわなければならない。この体は正直、限界が近づいている。一晩でかまわない。どんなクレイジーな奴があそこにいたとしても、この体力だ。少しでも休まなければ、きっと、倒れてしまう。


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