そのⅩⅡ
「先生!」
なんと先生が血を流して倒れていました。そしてそのさきには、誘拐犯と思われる男が一人。そう、朝美春と衝突した男の人です。そしてその先にある机の上には赤ちゃんが横になっています。ここからではよく顔が見えません。
これは絶体絶命。しかし、
「こちらは私立水野原学園の物だ。おまえを誘拐の罪で逮捕する!」
美晴の声が部屋の中一杯に広がりました。
その瞬間、千紘は強力な発光系の魔法を使いました。
「うっ」
さすがに犯人も驚いたのか、目を手で防ぎます。
その隙に美晴は犯人との距離を縮めて、
「いっけー!」
魔法を使いました。美晴の杖からは光の矢が出現して、
「うあっ」
犯人の腹部に直撃しました。犯人はその勢いで壁まで吹っ飛ばされました。
「九重先生!」
二人は犯人が動かなくなったのを確認すると、倒れている先生のもとに向かいました。
「先生、しっかりしてください!」
「いやだよ、こんなの…」
二人は涙を目に浮かべて、いまにも泣き出しそうです。
その時、
「はっ、ははははははははは!」
なんと先生は笑い出したのです。
「え?」
「先生、死んだんじゃ…?」
二人はポカーンと顎が外れたように口をあけています。
先生は転がっている犯人のほうをむいて、
「いや、おもしろいおもしろい。青山君、もう起きていいよ。」
すると青山君と呼ばれた犯人はお腹をさすりながら立ち上がりました。
「いやー、今までの新人の中では一番効いたよ。」
と笑いながら言いました。
「先生、これはいったい?」
千紘は何が起きているのかまったくわかりません。
「これは、毎年選抜クラスに入った人にやってもらっているテストだよ。」
どうやら美晴はその一言ですべてを悟ったらしく、
「ぷっ、くくく。」
と笑いをこらえようとしていました。
「え、美晴。どういうこと?」
いまだに理解が出来ていない千紘は美晴に聞いてみました。
「くくっ、え、つまり千紘、この一連の事件は先生たちが自分たちで起こした事件だったんだよ。」
「え、それってつまり?」
そしてそれに答えるように美晴が、
「もともと誘拐事件なんて起きていなかったんだよ。私たちは騙されていただけなんだよ。」
「それはひどいな。実践に備えた訓練と言ってほしかったな。」
先生も会話に入ってきました。
「ここで紹介しておこう。今日犯人役をやってくれた管理局の青山君だ。」
青山という人は美晴たちに一礼して、
「どうも、青山です。いやー君たちの魔法の才能には驚いたよ。これからは本物の事件に遭遇するかもしれないけれど、君たちは今日みたいにやっていれば絶対勝てるから。勇気をだしてがんばってくれ!」
「はい、ありがとうございます。」
二人を代表して千紘がお礼をいいます。
「さて、二人とも帰るぞ。まだ午前中だ。残りの時間は休日を思いっきり楽しんでくれ。」
『やったー!』
二人の声は、充実感に満ち溢れていました。
後書き
今回で完結です。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




